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もしその日、健康ならば。

朝おきて、「まあちょっと眠いけれど普通の体調だな」と思えたのなら、もうそれだけで今日のあなたはラッキーだ。

おめでとう、もう1日の半分は成功していると思っていい。

普通の体調、というのは空気みたいなもので、失ったときにはじめてそのありがたみを痛感する。

そうして痛感したはずのありがたみは、普通の体調に戻るとまた忘れてゆく。

のどもとすぎれば熱さを忘れる、とはよくいったものだ。

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出産をしてからというもの、体質ががらりと変わってしまったのか、ハイパー体調を崩しやすくなった。

それまでは年に1、2度風邪をひくかどうかという感じだったのに、いまは2ヵ月に1度くらいで熱を出す。のどの痛みや咳にはしょっちゅう、苦しめられている。

もちろん、加齢や育児疲れによるところも大きいだろう。出産の影響だけではないはずだ。原因はさておき、とにもかくにも、こどもが生まれてからのわたしはいとも簡単にダウンするようになった。

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つい先日も、娘から風邪をもらったのか38.7度ほどの熱を出し、親子ともどもひと晩うんうんと寝込んでいた。

高熱で寝込みながら、ぼーっとする意識のなかでくだらないことを考えていた。

全身があつい。節々がいたい。

目を閉じると、自分のなかの細胞群が戦国時代よろしく、「ワー!ワー!」とやりを掲げて細菌だかウイルスだかに立ち向かってゆくさまが見える(完全な妄想だ)。

頭がガンガンする。腰も、肩も、いたい、いたいよう。

しかたがない、これはだって、いま、ほら、細胞群がたたかってくれている証拠なのだ。

わたしの体の中でね、ほら、「ワー!ワー!いけぇーー!!」という具合にね、細胞群が、がんばっているから熱が出るのだよ……。がんばれ、わたしの細胞……。負けるなぁ……。

発熱してあちこちだるくて痛いからだの状態に、「くそぅ、なんでじゃ!」と抗うのではなく、受け入れて応援することで(?)なんとか自分の気持ちを保とうとしていた。

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とりあえず言いたいことは、どこも痛くないし苦しくもないという状態は、もうそれは奇跡みたいなことなので、こころの底から感謝したほうがいい、ということだ。

ほんとうに、渦中にいないとそのありがたみを忘れる。自分もそうだから、すこしでも忘れないようにこれを書いているようなものだ。

微熱ならまだしも、おとなになってからの高熱なんて、まあしんどい。よって、いろんなことの優先順位がガラリと総入れ替えになる。

たとえば今週予定していた仕事。この日にはこれをここまで進めて、あの人に連絡をして、ミーティングをして、アポが15時からあって、とか予定していたスケジュール。

風邪気味くらいならば無理をしてでも遂行するかもしれないが、細胞がワーワーいっちゃってるレベルの高熱になるとまともに作業もできないので、すべてリスケするが吉だと個人的には思う。

なのでその日の予定は、やりとりする予定があった方にお詫びとリスケの連絡を入れる、あとは全力で休養して回復につとめる、以上。に変更となる。

締切にまにあうように、こつこつ進めていた作業は、体調をくずすことで少なくともまる1日、ストップする。あれだけ毎日1分1秒を惜しんでいるという感覚なのに、なんだか皮肉なものだ。

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完全にダウンしたときの自分は、ほんとうに無力だ。

なんとか娘のごはんを用意したり、最低限の家事は休み休みするのだけれど、それ以外は寝て回復につとめるしかない。

こういうとき、ほんとうに、健康ありきだなぁ、と思うのだ。

座った状態でPCに向かって何かをタイピングするということも、普段は無意識だけれどかなりのエネルギーを使う。ダウンしているときには、しんどくてなかなかできない。

寝込んでいると、妊娠初期に絶対安静を指示されていたときのことを思い出す。ふだんなんのつらさもなく当たり前にやっていることが、たとえばトイレにいくとかシャワーをあびるとかそういうことが、ものすごく大変でつらい、そういう感覚を。

これすらも「寝込んだときに思い出す」あたり、普段はよほどのことがないかぎり、忘れちゃっているのだ。

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今日はnoteにこんなことを書こう、こんなプロジェクトをスタートしよう、一眼レフ持って写真とりにいこう、ライブにいこう、美術館の企画展示をみにいこう。

そういった楽しい、やりたくてたまらない文化的なことはすべて、健康、という土台があってこそ成り立つのだと痛感する。

たとえば「明日はnoteにこんなこと書こう」とか「この日はここにでかけてみよう」とかいう予定には、「もし、その日わたしが健康なら」という前置きが、ほんとうはつねに、あるはずなのだ。

もしその日健康なら、もしその日風邪をひいていなければ。

まずはその前提があってこその予定で、日々のスケジュールは埋め尽くされている。

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だから、朝おきて、まあちょっと眠いけれど普通の体調だな、と思えたのなら、もうそれだけで今日のあなたはラッキーだ。

まず、その前提をクリアしている。もともと予定していた文化的なことを、実行するスタートラインに立ててている。

それはとても貴重なことだ。

だからまずは、今日元気であることに感謝して。

あとは存分に、やりたいことをやって、1日を過ごそうじゃないか。ねぇ。

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。