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地味すぎて伝わらない食物アレ負荷試験

食物アレルギーの経口負荷試験というのは実に地味な闘いである。

どれくらい地味かというと、「芋けんぴがとまらない」とか、「炒めたきゅうりと既成概念」とか、たいていの地味なこともすぐnoteに書いてしまうわたしが、もう何度も負荷試験の付き添い経験をしてきているこの1年ものあいだ、一度もnoteに書けなかったくらいには、地味である。

問題は、地味なうえに芋けんぴや炒めたきゅうりほど楽しくないことだ。

実は何度か、食物アレルギー負荷試験について書こうとした形跡が、わたしのEvernoteにはある。しかし、タイトルくらいしか残っていない。

書こうとすると負荷試験の内容を思い返すことになるが、思い返していると疲れてしまって、そのうえに書いたところで地味なので、ああもういいや、となってしまうのである。それを繰り返してきた。

そう。

小児の食物アレルギー負荷試験の付き添いの大変さの本質は、「地味であること」、そして地味がゆえに「その大変さが当事者以外には伝わりづらく」、かつ「伝えようとして力説しかけても、途中であまりの地味さに『なんでこんなことをわたしは力説しているのか』とふと冷静になってばからしくなり」最終的にああもういいや、となってしまうところなのだ……と、わたしは思うにいたった。

察しのよい読者はお気づきかと思うが、いまわたしがだらだらこんな前置きを書いているのは紛れもなく自分のためである。自分が、いまこのnoteを最後まで書ききるためである。きっとまた書いている途中で「なんでこんな地味なことをがんばって書いているのか」と“もういいや思考”に陥ってしまう自分を予期して、伏線を敷いているのである。

投げ出したくなったら、「問題の本質はまさにそこなんだよ!」と、さきほどの文に立ち返ろうと思う。そうしてお寺の座禅で肩をパシッとやられるような感じを味わい、最後までなんとか書いてみたい。

* * *

さあ、まずはちゃちゃっと概要を説明しよう。

食物アレルギー経口負荷試験とは、卵や小麦など、アレルギーのもとを実際に食べもので食べて、からだに症状が出るかどうかをみる試験である。ちょっと心もとないので、食物アレルギー研究会の定義を引用してみる。

食物経口負荷試験とは
- アレルギーが確定しているか疑われている食品を単回または複数回に分割して摂取させ、症状の有無を確認する検査
- ①原因食物の確定診断、②安全に摂取できる量の決定または耐性獲得の診断のために行う
出所:「食物アレルギー研究会」https://www.foodallergy.jp/tebiki/shiken/

具体的にいうと、小麦ならうどん、大豆なら豆腐などの食材を食べて(何を食べるかは実施施設やアレルギーの程度によって異なると思う)、そのあと一定時間、ようすをみるのだ。

我が家の娘がかかっている小児アレルギー科の場合は、卵の場合だと、各自の血液検査をもとに、ゆでたまごの卵黄からスタートしたり、ビスケットだったり、パンケーキに混ぜたものだったり、いろいろと段階がある。

そうそう、アレルギーは、同じ「全卵60g」や「小麦50g」を摂取したとしても、その摂取の方法によって症状が出たり出なかったりするのだ。

たとえば全卵30gの入ったパンケーキを完食して症状がでなかったとしても、ゆでたまご30gを食べて症状が出るということもある。そして同じゆでたまごでも、アレルゲンは卵白の方に多いので、卵黄を完食して症状が出なかったからといって、卵白をひとくちでも食べたら症状が出る、なんてことだって考えられる。

なんだか細かい話をしてしまったけれど、覚えてほしいことはたったひとつ。同じ食材、同じ分量でも、加工方法や摂取方法によって、症状が出るか出ないかは変わったりするよ、ってことだ。

* * *

負荷試験の流れは小児科や実施施設によって異なると思う。

わたしは我が家のかかりつけ小児科のケースしか知らないので、あくまでその「一例」として紹介したい。

■ アレルギー経口負荷試験の流れ(あくまで一例)

朝、自宅で試験用の食べものを準備する
(例:うどんをゆでる/パンケーキをつくる/ゆでたまごを作ってすぐに黄身と白身を分ける、など。※豆知識:ゆでたまごはそのままにしておくと白身のアレルゲンが黄身に移行するので、すぐ分けるべし)

バタバタと家を出発

朝8:30〜9:00の間に小児科へ到着し、受付をすませ、待合室で待機する。

待合室でけっこう待つ(15〜30分くらい)

看護師さんに呼ばれ、熱をはかったり、簡単な体調チェックのための質問を受ける。皮膚などにもともとある発疹などがあればここでチェック。家から持参した試験用の食べものを看護師さんにわたす。

・問題がなければ、そのまま食物アレルギー負荷試験室に移動する
or
・ちょっと風邪気味、などグレーゾーンのときは、先生の診察を待って実施できるか判断するため、待合室でふたたび診察を待つ(またけっこう待つ。診察して、実施不可と判断されれば、ここで帰る……)。

食物アレルギー負荷試験室に移動し、待つ(だいたい15分〜30分くらい)

看護師さんが、医師からの指示を受け、個別に異なる量の試験用の食べものと、ワセリンを準備して持ってきてくれる。

口の周りにワセリンを塗り(接触によるアレルギーと区別するため、皮膚を保護する)、子に試験用食べものを食べさせる。(※素直に食べてくれるケースも多いが、ときと場合によってここは親と子の壮絶な闘いになる)

食べ終えたら看護師さんに時刻を報告

飲み物のみ飲んでOK、食べものは食べてはいけない状態で30分待機

摂取から30分後、看護師さんによる第1回目の体調チェック(聴診器による胸の音チェックや、全身の皮膚チェック)。子のようすに変化がないか質問される(幼児が多いが、小学生など大きい子は自分で答える)。なお、ここからは食べものを食べてもOK.

第2回目のチェックは、摂取した量によって変わる。少ない量の場合は、摂取から60分後、多い量の場合は、摂取から90分後、120分後を指示されることがある。外出もOKだが、途中で症状が出る場合もあるため、すぐに戻ってこられる近場にかぎる。

症状が出なければ、看護師さんが医師に報告したのち、医師が個別に次の摂取量を指示し、看護師さんがその量の食べものを準備し、子に食べさせる。以降、上記の繰り返し(だいたい、1日に2〜3ターン)。

ああ、もう、書いているだけで疲れてきたよ。

派手さのかけらもない、地味な作業の繰り返しなのである。食べさせる、待つ。待つ。待つ。待つ。食べさせる。待つ。待つ。待つ。待つ!

そう。この1日、ひたすらに待機時間が長いのだ。地味な闘いというひとつの要素はここである。

ただ待つだけだ。「え、何がつらいの?まあ暇ではあるけど、そんな大変じゃなくない?」と、思う方もいるかもしれない。いや、わたし自身、子育てをする前だったらたぶん100%そう感じたと思う。べつにまったく、そこに非はない。だからこそその「地味すぎて伝わらない」雰囲気を伝えたいただ一心で、いまわたしはこれを書きすすめている。

1歳の子とひたすらに待つ。それがどういう事実か、自分も育児をする前は知らなかった。しかも我が家のかかりつけの試験室は、かなり狭いのだ。イメージしやすくいうと、小さなリビングルームくらいである。目測では、6畳くらい。その壁沿いに小さなソファが置かれ、一応テレビ一台とDVD少し、絵本が数冊だけは用意されている。

この限られたリソースと閉鎖的空間に、だいたい1日あたり8組前後の親子が入り、食べ、待つ、待つ、待つ、待つ!のだ。もちろん少しの外出はいいのだけれど、基本的には部屋内で待つ。特に食べてすぐの30分は必ず部屋内にいることが指示される。急な嘔吐や呼吸困難などの症状が出るケースももちろんあるからだ。そんな微妙な緊張感のもと、小さな部屋で、待つのである。

* * *

試験室内には実に、それぞれのドラマがつまっている。

この前は、ひたすらにゆでたまごを食べさせようとする母親と、頑なに嫌がってひたすらに「うぎゃああああああ!!!!」と泣き叫ぶ1歳の子との攻防戦が繰り広げられていた。

泣かれていると食べられないので、母も抱っこしてなだめようとする。ゆらゆら、がんばって抱っこして、ちょっと落ち着いたタイミングを見計らって、座って食べさせようとする……瞬間に、子はまた「うぎゃああああああ!!」。その繰り返し。

耳をつんざくような泣き声を聞きながら、わたしは1年前を思い出していた。初めての負荷試験でまだようすもわからなかったあのとき、負荷試験の全貌もよくわからなくて、不安だったな。

食べさせなくてはいけないと焦るし、子を泣かせてしまう自分もつらいし、でも食べさせなくてはいけないし、この狭い空間で周りからの視線も気になるしで、お母さん、正直しんどいだろうな。すべて勝手な想像にすぎないと自覚しながらも、とてもひとごとには思えなくて、わたしはドキドキしながらその光景を見守っていた。

攻防の末、その子は咳き込んで結局ちょっと吐いてしまった。それを機に、「大丈夫ですか、看護師さん呼びましょうか」と話しかけて、大変ですよね、なんて少しだけ話した。ひとことでも声をかわして、大丈夫だよ、味方だよ、大変だよねと伝えたくて。おせっかいかもしれないけれど、四面楚歌かもと思っている状態はしんどいと、身をもって知っているから。

我が家も最近は言葉を理解するようになって格段に楽になったが、1歳の前半はよく機嫌が悪くなって泣き、「待機」がほんとうに大変だったのだ。あの手この手でなんとか気をひこうとするが、足をぐいんと突っ張ってうぎゃーん!って……ああ、思い出し疲れをしたのでここは割愛!

* * *

ちなみにアレルギー経口負荷試験は、我が家のかかりつけの小児科では1歳の誕生日以降から受けることができた。

我が家はアトピーなどもあって生後4ヵ月ごろからアレルギー血液検査でアレルギー体質が判明していたので、1歳になったその翌日くらいから、さっそく負荷試験デビューした。あれから1年。

娘は当時、大豆、小麦、大豆と複数疑いがあったので、だいぶ場数を踏んできたほうだと思う。このスケジューリングもまた、なかなか骨が折れるのだ。予約していても子が体調不良では受けられないので、また先送りになる。1歳になってすぐ大豆、小麦までは比較的順調に試験がすんだのだが、その後保育園がはじまってからは体調を崩しまくり、延期につぐ延期で、ようやく卵の負荷試験が今、進んでいる状況だ。1年ごし。

実に地味で、舞台裏でしゅくしゅくと進む、静かな闘いである。

待機室につきそっているのはやはり圧倒的に母親が多いので、一度もつきそったことのない旦那さんはきっと、自分の妻と子にこんな光景が繰り広げられていることも知らないと思う。あの「うぎゃあああ!」と攻防戦を繰り広げていたお母さんも、きっと「大変だったのよ」くらいしか、家では報告しない。その地味な大変さの全体像は、あの場にいないと地味すぎて伝わらないのだ。だからこそこんなnoteを書いているんだよわたしは!!!

ちなみに、今日も娘のアレ負荷試験なのだが、我が家は本日は夫に担当してもらっている。ここのところ連続でわたしが付き添いを担当して疲弊していたので、今日はぜひとお願いし、夫も快く引き受けてくれた。ありがたい。

* * *

アレルギー経口負荷試験というのは、実に地味な闘いである。

それでも、アレルギー体質が判明している我が家のような家庭にとって、呼吸困難や嘔吐などのリスクがあるかもしれないとわかっている食材を、専門家の目のもと、医療施設で摂取させることができるというのは、絶大な安心感がある。だから受ける。

食べることが大好きな母に似て、娘も保育園の先生に驚かれるほどの大食いっぷりを発揮している。家でもおかわりに次ぐおかわりで、おなかは常にぽっこりと出て、食事のあとの抱っこはずっしりと重い。そんな娘の食の世界が、少しでも広がればうれしいなあと、思っている。

1歳になったばかりのころの負荷試験では、うどん15gくらい(1本くらい)で娘の顔の皮膚に、ポコッと反応が出た。その後、医師の指示のもと家庭でもうどん10gくらいの量を少しずつあげつづけて、年齢とともに小麦への耐性は少しずつついてきたようだ。

いまや食パンはもりもり食べることができるようになり、母も朝食の準備がとても楽になったし、娘も食のバリエーションが広がって嬉しそうだ。(ちなみに話は横道にそれるが、卵よりも小麦のほうが、食事やおやつのバリエーション制限という意味では地味につらい。パンに麺類に焼き菓子に……と、小麦のほうが、圧倒的に幅広いのだ! 家庭料理も、そして外食も!娘が小麦耐性を獲得してきていることは、我が家にとって革命なのである)

* * *

さて、とてもニッチなトピックだったけれど、ここまでの文章にお付き合いいただいた方は、はたしてどれくらいいたのだろう。

アレルギーはべつに関係ないよ、とか、育児中じゃないよ、という方で最後まで読んでくださった方がいたら、奇跡と呼びたい。世界を変えるのはあなたみたいなひとだと思う。本気だ。大好きだ。

地味すぎて、疲れ果てて、つぶやくのが精いっぱいだったその詳細を、ようやくnoteに書くことができて、なんだかほっとしている。


自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。