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“Just leave it !!” の考え方で、生きるのはたぶんラクになる 【3/4】【ワーホリ、その後 #008】

※本記事は全4回の第3回です。【→ 第1回第2回 はこちら】

■ ワーホリ談義。帰国は「前提」じゃない

一応『ワーホリ、その後』をテーマとしている私としては、そろそろ、ワーキングホリデー関連のことについても聞いておきたい。

まずは日本で話に聞いていたワーキングホリデーと、実際に体験したオーストラリアでの日々、比較してギャップは何かあっただろうか? それとも、イメージどおりだっただろうか。

ワーホリとひと口に言っても、実際はほんと人それぞれだよね。同じ都市に1年間住み続けている人もたくさんいるし、それはそれでいいと思うんだけど……、語学力をつけたいっていう意味では、私の場合はやっぱり、ネイティブと強制的に話さなくてはいけない環境があるWWOOFに行ってよかったなって思う。都市部はアジア人もたくさんいるし、お互い第二言語だから理解しやすいよね」

そう、彼女の言うとおり、ワーホリと言ってもその内容は人によって千差万別なのだ。

働いてもいいし、学校で勉強をしてもいいし、遊んでいてもいいし、それらを短期スパンで組み合わせて過ごしてもいい。ひとことで言えばとても自由で、やりたいことはなんでもできる。反面、自分ですべてを決めなければならないから、自分で主体的に行動していかないと、だらりとしたまま1年間が終わってしまうことだってある。

今ワーホリ中の人や、これからワーホリを終えるタイミングの若者たちに伝えたいことはある?と聞いてみた。

「うーん、なんだろうね……。あ、本当に日本へ帰る必要があるか、は、もう1度考えてみてもいいかもしれないと思う。別に『その国に居続けた方がいい!』と言っているわけではなく。もし、日本の仕事や生活があわずに外へ出てきた人なら、そこへ戻る、っていうのは当然の選択じゃなくていいんじゃないかなと思うんだよね」

「他の国で生きる道なんていっぱいあるし、アジアでもビジネスやっている日本人なんていっぱいいる。そういうところへ、次は行ってみてもいいし。同じ場所に戻る、ことを前提にしなくてもいいんじゃない?って。なんか、もったいない気がするんだよね」

ああ、本当にそうだねぇ…と、ぐわんぐわん頷く私。

そうなのだ。戻りたい!と思えるのならもちろん戻ればいいけれど、当たり前のように帰国を「前提」にしなくてもいいはずなんだ。違う国で生きていく、そういう選択肢を、本当は誰だってとることができる。

彼女を見ていると、いまの暮らしがとてもナチュラルで、過不足なく幸せで、満たされているんだなぁと感じる。ご本人は「ただ流されていたらここにいたんだよ」と笑うけれど。

流れ流れていまの暮らしが「ま、いいかもなぁ、この人生」というところに行き着いているのは、とてもハッピーなことだ。


■ 「軌道修正がしづらい」日本

さて、ここでインタビューは終わる予定だったのだが、「もっと自由に生き方を選んだらいいのにね」というトピックの流れで、盛り上がってしまったふたり。

せっかくなのでもう少し、人生談義をお楽しみください。

「例えば別に、30代になってから大学にいくのって別に変な話じゃないじゃん。でも日本でやっていたら結構変わった人、みたいにとられるよね。『30歳になって働いてないってどういうこと?』って。『30代になってからもう一回大学生し直すって人生無駄にしてない?』とかさ。

でも、海外に出てみたらそれって全然普通のこと。『え?途中でキャリアチェンジしたいからだよ、以上』みたいな感じで、何も問題ないわけで。でも日本にいるとそれが大問題、みたいにとらえられるから。なんかすごく、一回始めたことを辞めづらいし、軌道修正しづらいんだよね

そう。本当にそう。軌道修正しづらい、という表現はとてもわかりやすい。これまで積み上げてきたものが、とか、いま持っている地位とか、そういうものを壊したり手放したりすることに、日本のひとはとてもセンシティブだと思う。

「浪人になったら終わり、とか、就活浪人、とかさ。行きたい大学に入れなかったからもう人生終わったとかさ、なんだかそういうふうに思う空気があるじゃん。でも全然そんなことないんだよね。そういう方向に目を向けて行ったら、自殺者とかも減ると思うんだよね。日本で本当に全員を敵に回したとしても、本当に、他の国で生きていけるってことを知ってたら、すべてを捨てられるじゃん」

そうなのだ。そういう逃げ道が、日本ではとても、見つけづらい。そこに他の生き方があることを知らないし、考えつきもしないのだ。

↑シドニー都市部の風景。生き方には思っている以上に無数の選択肢がある

個人の経験からしても、海外生活を経て一番大きく変化したのは、その部分だった。

私の場合は日本へ戻る選択をしたけれど、会社で働いても、どんなところにいても、極端な話、「日本でもし生きられなくなっても別の国で生きていけるだろうから別にいいや」という気持ちが、頭の片隅にずっとあった。

そして、その選択肢があるということを知っているだけで、だいぶ、決断する強さを持つことができる。「ああ、これがなくなったら終わりだ……」、ではなく、「これがもしダメになったとしても、他にも方法はたくさんある」。そう思えるか否かで、例えば起業したり、フリーランスになったり、とれる行動の自由度が変わる、と思う。

「そうだよね。そういう選択肢があることを知らないんだよね。でも、どうやったら知れるかっていっても、難しいよね。やっぱり自分で一回出てみないと、その感覚はわからないし、想像だけでは無理なところがある。かといって、全員に早く一歩出てみなよっていっても、そんなのやらない人のほうが多いよね……」

誰かに強制させられて、無理やりさせるものでもないのだ。どうやったらその視点をもっと早いうちから、誰もが持てるようになるのだろう。なんだか教育論に行き着きそうになってきた。


■ 「置いておく」思考 - Just leave it!

↑庭になっていた野生のレモン。放置で育つらしい。おみやげにもらった。

「あ、電話窓口相談みたいなところで、回答のひとつの選択肢として、それがあってもいいのかもしれないな。『海外行ってみたらどうですか』って。そのひとが悩んでいることについて『解決しよう!』じゃなくて、それはもうそのままそこに置いておいて、『そこから離れてみてはどうですか』っていう考え方が、日本ではあんまりないよね」

あ、それおもしろい! 確かに。オーストラリアにいると、わりといろんなことが“leave it !”って感じだもの。

「そうそう。無理なものは無理だし、なんというか、会社とか組織って変えられるわけじゃないから。そうなったらそれはもうそのまま『置いておいて』、自分が離れればいい。いじめとかでも、『逃げればいい』とかいうと、なかなか逃げる勇気はないと思うんだけど。でもたぶん、『逃げる』という言葉がよくないだけで。ただ、『置いておけば』いいんだよそこに、と思う」

それはもうそこにあって変えようがないんだから、あとはもう、自分で変えられることを変えればいいってことだものね。

「うんうん。もう解決できないことって、いっぱいある。たとえばだれかの性格を変えようとしたって無理だし、わかってもらおうとしたってわかってもらえないことなんていっぱいあるし、会社のルールを変えようと思っても無理だし。それならもう、置いといちゃいなよ、って感じで。それを無理して、がんばってどうにかしようと思うことの方が、精神を病むというかさ」

いや、おもしろい。彼女語録が出版できそうな気がしてきた。「『置いておく』思考で人生はラクになる」的な。以前から私も似たようなことは思っていて、よく「逃げていいんだよ」って言っていたけれど。日本の「逃げる」ってどうしてもネガティブな印象がつきまとうから、「ただ、置いておく」というのはいいキーワードだなぁ。

「なんかね、フタをする、でもないし。そのまま、“Just leave it!”って感じ」

“Just leave it!” その言葉がスッと、体に落ちた。

実はこの取材のために乗った行きの飛行機で、まったく同じフレーズを耳にしていたのだ。

国内便の機内で、座席の上にある荷物入れの扉がはずれ、プラーンとぶらさがっていて。近くにいたアジア人の男性が、気になってガチャガチャと直そうと試みるのだが、一見直ったように見えても閉めようとするとまたはずれ、プラーン。それでもやはり気になってなんとかしようとする男性。そんななか、キャビンアテンダントさんから放たれた言葉が、『Just leave it.』。いま直す人を呼んでくるから、と付け加えて。

でもまさに、その状況。適任ならその人がやればいいのだけれど、それは自分でなんとかなることではないから、専門家に任せて、あなたと私はJust leave it.よ。 無理して自分だけでなんとかしようとしない、というスタンスが、その根底にある。

「まー、置いておけばいいよ、っていうのが、この部屋のカオス化を表してるけどね。なんでもかんでも全部『置いとけばいいよ』って。それでこんな散らかってる(笑)」

生活感のあふれる部屋を見渡して、彼女は笑いながら言う。いやいや、いいんじゃないかなぁ。自分たちが暮らしていくのに心地がいい空間なら、それが一番。実際、私はお邪魔させてもらって、とても心地よい時間をおすそ分けしてもらった気分だ。

そしてそんな話をしているあいだ中、ちょこまかとしながらも、泣き叫んだりグズったりすることもなく、ゆったりと落ち着いて楽しんでいるようすの息子くん。母親がリラックスしていると、こどももまた、リラックスして過ごせるのかもしれない。いいねぇ、幸せだねぇ、息子くん、ハッピーだねぇ。

無理してもしかたのないところで無理をせず、肩の力を抜いて、流れに身を任せて生きる。

彼女のそんな生き方は、オーストラリアの田舎町で、のびのびと育つ息子くんのようすに、しっかりと投影されていた。

(2015年編 おわり)


* * *

以上で、インタビュー2015年編は終わりです。

最終回となる第4回では、2018年の7月にスカイプで実施した追加インタビューの内容をお届けします。“―あれから、3年”。家づくりプロジェクトの話など、彼女の暮らしの「いま」をご紹介します。どうぞお楽しみに。

“Just leave it !!” の考え方で、生きるのはたぶんラクになる 【4/4】【ワーホリ、その後 #009
・育児を中心に、暮らしのバランスを探る
・自分たちの手で、家づくりの真っ最中
・完成しなくても「あり」の感覚
・追い詰められそうなら、スッと離れてもいい

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