伊藤晋毅

抱きしめながら突き飛ばすっていうのを、絵でも詩でもテーマにしてる。<PSJ2018ファイナリスト・伊藤晋毅>

伊藤晋毅さんは2018年ポエトリースラムジャパン東京大会Bで、観客投票による「会場賞」を獲得、全国大会に出場しました。 

全国大会以降も、各地のオープンマイク、タッグスラム、ゲスト出演などで活動の幅を広げている伊藤さん。印象的な作品『ハンバーガーバー』を始め様々な切り口で、日々おもしろい世界線を切り開いています。 

 現代アートを経て、スポークンワードとの遭遇へ

 ーポエトリーリーディング を始められたきっかけは?

最初は「詩のボクシング」に出ようかなって思ったのがきっかけです。そうするとまずは詩をつくらなきゃなって。「詩のボクシング」を知ったきっかけは高校のときの国語の授業で、先生が詩のボクシングについて話してたんですよね。高校のときからずっと美術をやっていて、それでしばらくたった後に他のジャンルにも手を出してみたいなって思ったときに先生が話してた「詩のボクシング」を思い出したんです。

 ―高校の授業で、ですか。

そう。母校が詩の授業に力を入れているというわけではなかったんですが、たまたま生徒が詩のボクシングの全国大会だかなんかのいいところまで進んでいて、その紹介をしながらみたいな話でした。その「詩のボクシング」ってワードがすごく残るじゃないですか。で、あったなーって検索したら「ああ、やってるじゃん、岐阜か。」って。それが3年前です。

 ―どんな美術作品をつくっていたんですか? 

ぼくは現代アート、って呼ばれる方のジャンルだと思います。使う絵の具も油絵の具とかこだわりはなくて、マッキーとか筆ペンとか結構使って、リアルに描くというよりも面白くする、こう、ドローイングみたいな線だけで見せるという感じですね。(  伊藤さんのアート作品はこちら

 ―どんなことを意識しながら制作していますか?

 テーマとしては、ざっくり言うと、見た人がぞわぞわしたり、思わず困ってしまうような衝撃を与える…。新しい発見じゃないですけど、俺の作品を見た時だけに味わうことができる感覚を味わってほしい。という思いがあります。それは「変なことをすればいい」ということではなくて、ぞわぞわするけど、ちょっとなんか共感できる部分もある。理解し合うけど、けどぞわぞわするし、おかしな方向にすすんでる、みたいな。変なことしすぎると人って何か突き飛ばすじゃないですか。抱きしめながら突き飛ばすっていうのを、絵でも詩でも同じテーマとしてやっている感じです。 

 ―では初めて詩を朗読したときにというのは…。 

大学生の時にぎりぎり「詩のボクシング」を思い出して、岐阜大会にはじめて参加しました。でも「詩のボクシング」なんて本当にどんなのかわからない。人の詩を聞くのも、人前で読むのも初めてで、そこで『ハンバーガーバー』をやったんですけど…。けっこう大きな挑戦でした。確か大会に人が集まり過ぎちゃって、予選をやることになったんですよね。

 ―予選ということは、つまり観客がいない状況で朗読したんですね。

 はい。その予選を通って、「あ、いいんだ」って。もしかしたら弾き返されるかもしれないっていう覚悟はしていたんで、せっかく読むんだったら正統派の様子見のものよりも、読みたいものを読んだほうがいいかなって。

 ―正統派のものも作っていたんですか? 

様子見の作品も用意してたんですけど、それだと緊張して声震えちゃうかなって思って。 『ハンバーガーバー』の方は、声が震えたとしてもいい味が出るんですよね。緊張もいいほうにいくかなって思って、そっちを読みました。正直心臓バックバクでもやれちゃうので、どもってもそういう感じになるから、一発目にいいなあっていう印象でした。 「詩のボクシング」岐阜大会のあと、詩っておもしろいなって感情が芽生えましたね。成績は予選通過で、一回戦敗退でした。そこから1年は、特に詩の活動はしていませんでした。ヒップホップっぽい活動とかしていたかな、それで年に1回ぐらいのペースでライブっぽいことをやっていました。2016年はそのライブをしていたので、そのときの表現したい欲は解消されていました。

 お客さんの反応を直に感じる爽快感 

―「ポエトリースラムジャパン」に参戦したのはいつから? 

2017年に、もともといた愛知から上京してきて、その年もライブをやったんですけど、まだいろいろやりたいなって思ったときに「詩のボクシング」を検索しました。そしたらぜんぜんやってなくて、「あ、もうやってない? 俺でたいのに」ってびっくりして。そしたらなんか検索の上のほうに「ポエトリースラムジャパン」ってあって。「スラム」ってあるな、雰囲気違うなって思いながらおそるおそるウェブサイト開いたら、フライヤーがけっこう可愛らしくて、あ、大丈夫かなって思って、予約しました。それが2017年大会の東京大会Bでした。

 ―試合はどんな感じでしたか? 

そのときは詩をそんなに用意できてなくて、勝ち進めたい、という気持ちよりも人前でたくさん詩を読みたいって気持ちでした。一回戦勝って、二回戦で負けちゃったんですけど。そのとき岩村空太郎さんっていう、ユーモアのある詩を詠む感じの詩人さんが決勝まで残って、「詩のボクシング」ではそういうおもしろい詩を読む人はあまりいなかったので「あ、こういう人がいるんだ、もっとやっていいんだ」っていう気持ちになりました。 

―ポエトリースラムに出場して特に印象的だったことはなんですか? 

2017年での試合展開は「詩のボクシング」のときと似ていて、『ハンバーガーバー』がめっちゃウケて、他の詩だとまだ勝ち上がれない、って感じでした。 ただ、ポエトリースラムでは『ハンバーガーバー』をお客さんの前で詩を読むことができて、 「あ、こいつなんかやるぞ」ってお客さんが思ってくれたのを感じることができました。2回目の詩を読むときも俺が立っただけで「おおっ」みたいな。それで3分朗読しただけで期待、とかこんな風に思ってくれるんだって思いました。 

 ―お客さんの反応を直に感じることができたんですね。 

はい。あと終わったあとにメッセージカード(来場者が出場者に感想などを伝えるカード)があったじゃないですか。自分から渡したりしてたんですけど、一人の方からメッセージカードをいただくことができて、そのときに自分の言葉が届いたっていう実感がありました。それでああ、また来年も出ようって思いました。 

―それで翌年も参加されたんですよね。 

2018年は検索ワードはわかっていたので「ポエトリースラムジャパン」ってすぐに検索して応募しました。そのときは上京したてだったので、いろいろフィールドワークとして自分で行動してたんですよね。自分にとっては新しい街だったのでいろいろ観察したりとか。テレビも映るチャンネルが変わってて。いろいろ見てみよう、観察してみようって時期だったので『ハンバーガー』タイプの作品プラス観察したやつで勝負しようという気持ちで臨みました。ハンバーガー系は、東京大会の『ハンバーガーバー』と全国大会の『ハンバーガーバンガロー』。観察系は東京大会の『心くん』と『メレンゲの気持ち』、それに全国大会の『女子大生あすか』ってかんじで。女子大生のやつは、職場で観察したOL達の会話を分解して作った作品ですね。観察系は共感する部分がメインで、「ハンバーガー」は突き飛ばし成分が多い、ということを自分のなかで考えています。


 「おまえいってこいよ」と背中を押された全国大会

 ―2018年ではどんなことを感じながら大会に臨みましたか? 

予選では、全国に行きたかったかというと、それよりも一個でも多く詩を人の前で読みたい、という気持ち。オープンマイクの存在を知らなかったから、詩を読む機会を得るには勝たなきゃいけないって思ってて、「なんちゅー厳しい世界なんだ」と。だから、最初っからがんがん自信のある詩を読んでいる感じでした。全国大会も変わらなくて、とりあえずこの2編で進みたい、という気持ちでした。『ハンバーガーバー』とかのハンバーガー系を読んで、次にマイクの前に立ったときにお客さんの「おっ」て感じを持ってくる、というのが何よりもいい流れなのかなって思ってました。まずは自分を認知してもらうっていうのがいいのかな。

 ―予選では会場賞でしたが、どんな気持ちでしたか? 

そうですね…。まず会場賞候補に3人選ばれたじゃないですか。ひとり呼ばれて「あーよかったねよかったね」って拍手して、もうひとり呼ばれて、驚きつつそうだよなぁって…からの3人目だったので「おおお」ってなりまして。会場賞って、前回大会のメッセージカードの延長なのかなっていう気持ちだったので、あれがもっとブワっともらえたような気持ちでした。「おまえ行ってこいよ」ってお客さんに行ってもらえた気がして、全国大会やりきりたいなって思ったし、「ハンバーガー」は読まなきゃなっておもいました。

―全国大会に出場していかがでしたか? 

お客さんがいっぱい来て、あんなに人が集まるんだってまず思ったし、予選のときよりも対戦者どうしで話すことが多かったのが印象的でした。控室があったおかげで、そこでよろしくおねがいします! って言い合えたのがすごくよかったです。その意味で全国大会は人のつながりが広がりました。そこでの会話の中でオープンマイクの存在を知ったりすることもできました。お互いリーディングを聞いていない対戦相手もいるじゃないですか。でも全国まで行ってるから、みんな強いやつなんだっていう共通認識があって、知らないけど強いことは知ってる。みたいな。

 ―全国大会を通じて、これからのポエトリーリーディングでやっていきたいことはなんですか?

もし来年PSJがあるなら出たいです。いま、初めて「優勝したいな」って思ってます。全国大会に出たことで、自分の中でもっと詩に真摯に向き合うぞって気持ちになってます。全国では会場賞の責任感でぐっと心が引き締まって、それが大きな自信にはなってるんですけど、まだ優勝してはないなって思いが湧き上がってきて、それって作品としても「ハンバーガー」での「おおっ」ていう反応の一歩先に行かなきゃいけないってことだなって。レベルの高い、違うステージの人たちと同じところに立つためには、もうちょっと先を見ないといけないなって思っています。 オープンマイクもおぼえたので…。そこで武者修行を、月に2~3回くらいのペースでいきたいなって思ってます。あとは…「ハンバーガー」みたいな、もうひとつ新しい発明をしたいですね。

 ―ハンバーガーは発明なんですね…! 最後に…どうして「ハンバーガー」だったんですか? 

聞かれると思って色々考えてきたんですけど…なんか…本当に、ないです。「ハンバーガー」をいま3個作って、作るたびに題材として作りやすいなっていうのを感じています。永遠につくれますわ!て気分です。 

 【プロフィール】

 伊藤晋毅 <いとうしゅんた>

 所沢生まれのフィールドワーカー(チェーン店の閉店日巡り、女子大生に成りすましてブログ更新、他人のくしゃみの文字起こし、渋谷ハチ公前で行われるインタビュー観察、露天風呂での大学生の会話収集、テレビタレントのパブリックイメージ考察など)。 2015年絵を描いてる時に、突然ハンバーガーバーの詩を思いつく。それを持って同年に行われた詩のボクシング岐阜大会にて朗読デビュー。 Poetry Slam Japan2018東京B大会にて会場賞、全国大会出場をきっかけに、2019年初頭より積極的に朗読活動を開始。     

                        (取材・原稿/木村沙弥香)

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