見出し画像

【あなたに贈る詩】心を整える詩

SNSで「どんな詩が読みたいですか?」と呼びかけたところ、リクエストをたくさんいただいたので少しずつお答えします!


▼これまでのリクエストはこちらから

今回のリクエストは「忙しい時に心を整えることを助けてくれる詩」。
福岡県の一般社団法人 福岡中小企業経営者協会の古賀正博さんからです。

梢ちゃんのリクエストといい、みなさんお忙しいな〜。

本業以外にも、大学生のリベラルアーツの学び舎LAPなどを主催されている古賀さんらしいオーダーというか。お忙しいだろうに、いつも穏やかなのはきっと心を整えることをされているんでしょうね。

レッツ書き下し!「君自ら寛(ゆる)うせよ」

心が乱れたとき、なにをしますか?

引かれるかもしれませんが、わたしは、心が乱れたとき、
漢詩を鉛筆で書き下します。

高1で大切な人が亡くなったとき、頭が真っ白になって
ひたすら漢文を書き下していました。

なぜでしょうか、漢文のあのきっちりしたリズム、波のような抑揚、達観…
千々に乱れた心が官服で包み込まれるような思いがして、救われます。
官服、着たことないけど。

見たことがあるようでない漢字をひたすら倣って美しく書くことに注力していると、ふっと心が高次の領域にいざなわれるような気がします。かの孔子も、「博奕でいいけん、とりあえず手を動かせ!」(『論語』)と言ってるので、もしかしたらバクチでも畑仕事でもなんでも、手を動かせばある程度おなじような作用があるのかもしれませんが。

そういうわけで、忙しい時、またはクライシス・モーメントに「手を動かして」味わっていただきたい詩は、王維(701-761)の「酒を酌んで裴迪(はいてき)に與(あた)う」です!裴迪は王維の年下の友人です。

画像1

書き下し文
酒を酌んで君に與う 君自ら寛(ゆる)うせよ
人情の翻覆(はんぷく) 波瀾に似たり
白首(はくしゅ)の相知(そうち) 猶劍を按じ
朱門の先達 彈冠(だんかん)を笑う
草色全く 細雨を經(へ)て濕(うるお)い
花枝動かんと欲して 春風寒し
世事浮雲(せじふうん) 何ぞ問うに足らん
如かず高臥(こうが)して 且つ餐(さん)を加えんには
意訳
 まあ酒でも飲んでゆったりしなさい。人情はくるくると変わり、まるで波のよだ。しらが頭になるまでつきあった友人でも、ひとたび何かあると剣のつかに手をかけ合い、朱門の家に住んでいる官吏達は人が仕官のチャンスを待っているのをみるとあざけり笑う。
 雑草が雨でも湿い、青々としているが、花が開こうとするには春風が冷たい。(※雑草は小人、花は不遇の君子の喩え)
 世間のことは浮き雲のようにあてにならない。だから心安らかに枕を高くして寝そべり、うまいものを食べることだ。

裴迪が科挙に落ち、不遇を嘆いて落ち込んでいるなか、杯をすすめながら即興で作ったらしいです(いいやつですね、王維)。

特にこの「君自ら寛(ゆる)うせよ」というのが好きで。中学校からの親友が生まれた息子に「寛太(かんた)」とつけたときは「王維じゃん〜!!いい名前〜!」と大喜びして、たぶん引かれました。

王維の「人生イロイロ」

王維は15歳ごろに首都長安に上り、その美貌と詩、音楽(琴)、書画と多方面の才能で社交界の人気者に。21歳で科挙も合格、と華々しい人生のスタートを切りましたが、進士及第後まもなく左遷され、40代の初めまで不遇の時代が続いたそうです。身分ちがいの恋のすえ結婚し、仲睦まじかった妻も失います。しかしほどなく長安の官界に返り咲き、順調に昇進、宮廷詩人としての名声をたしかなものにします。安禄山の乱で捕虜にされたりと、まさに「人生イロイロ」ではありましたが、この詩を読むと、力がぬけていい感じになってるな、という気がします。華々しい才能をもっていながら不遇だったことにひがみを見せず、年下の友人をこうやって励ませる人柄、すき。肖像画のこのゆるっとした背中もイイです。(『晩笑堂竹荘畫傳』より)

画像2

忙しいと、心があれこれにかき乱されます。
そんなとき、久しぶりに漢詩を一遍、書き下してみるのはいかがでしょうか?
10分ほどで頭がスッキリ、心が軽くなるはずです。

こちらもおすすめ

詩というか宮沢賢治の小説の一文ですが、「古賀さんっぽいな」と思ったので、こちらも。

「正しく清くはたらくひとはひとつの大きな芸術を時間のうしろにつくるのです。」『マリヴロンと少女』 宮沢賢治

ではまた。引き続きよろしくお願いいたします!

そのお気持ちだけでもほんとうに飛び上がりたいほどうれしいです!サポートいただけましたら、食材費や詩を旅するプロジェクトに使わせていただきたいと思います。どんな詩を読みたいかお知らせいただければ詩をセレクトします☺️