2015.3.5ロー未来の会セミナー「“弁護士就職難”の謎を解く」書き起こし

〈10/27「司法試験3000人合格を実現する国民大集会」書き起こし〉でレポートした、司法改革を当初の予定通り貫くべきだという主張の弁護士を中心とする会「ロー未来の会」が2回目の会を開きました。

前回は弁護士会館のクレオという大ホールを使ってのイベントでしたが、今回は同会館の中規模会議室で40名ほどの参加者で行われました。講師の伊藤歩氏は経済ジャーナリストとして高名で、2000年代初頭の不動産証券化など資産流動化や仕組み金融などに鋭い考察を加えた記事をたくさん書かれている方です。また、講演の内容は「東洋経済オンライン」で発表する予定だそうです。

今回、伊藤氏は統計を駆使して「弁護士就職難」の実像を明らかにしようとされました。しかし、肝心の収入についての国税庁の統計のデータの取り方がよくなく、苦労されたようです。twitterでそのあたりを批判されている方がおられますが、データから読み取れる評価への批判(統計の読み方については、私にも個人的な意見はあります)はともかく、データの取り方そのものへの批判は的外れだと思います。

前回の大がかりなシンポジウムに比して小じんまりとした会で、またテーマも「外から物申す」のでなく、弁護士の独立状況に絞られたため、議論が地に足がついてきたように感じました。また、ネットを含めた法曹養成改革の議論全体も、ひところの「戦犯叩き」から、中味のある議論に移ってきたように思います。この書き起こしは、その一助となるために労力を提供しているつもりです。批判は大いにすべきですが、単なる揚げ足取りではない議論になることを望みます。

私は同会とは何の関わりもない傍聴者で、同会を支持する立場でもありません。以下、私がまとめた内容は同会とは無関係であり、正確さについても保証するものではありません。ただし、引用の場合は出典を明記し、転載の場合はご一報ください。


■講演 弁護士就職難の謎を解く
伊藤歩氏
 新司法試験世代がひどい言われようだが、実際に取材してみるとメディアが報じる状況と違うと感じる。
 弁護士は新司法試験の合格者に強烈な持論を持っており、1500人、1000人、500人と、それぞれ、こだわる数字がある。「若い人たちが食えなくてかわいそうだ」とよく言われるが、心外だという弁護士も多い。「“新司法試験世代は優秀でない”というが、馬鹿呼ばわりしないでほしい。うちの弁護士は優秀だ」という弁護士もいる。
 テレビには困窮しているという弁護士が顔を隠して出ているが、こういう人はどうしたら探し出せるのか? 困窮している弁護士を誰も知らないのではないか?
 そこで、日弁連の『弁護士白書』や、『自由と正義』を使って検証を始めた。

 就職難の根拠のひとつとされる統計に「修了者の進路別人数の推移」がある。これは法曹養成制度顧問会議で事務局が用意した。これによると、確かに67期で550人がで就職できていない。だが、これは12月1日の一斉登録時のもので、日弁連の資料によれば、月を追うごとに減って行き、64期の新司法試験受験者からは、一年後には2%台まで減少している。宇都宮健児元日弁連会長は「一斉登録できないのが問題だ」と言うが、それは妥当なのか。勘違いをしているか、意図的な情報源にオルグされているか。いずれにせよ、「就職難で未登録者が増えている」説は論破ができる。

 登録抹消者が年々増えているのは事実だ。死亡や除名の他、自らの求めによる請求があるが、「経済的に困窮している人たちがたくさんいる」根拠とされている。日弁連は内訳を公表しないというので、毎月の自由と正義の登録と抹消をリスト化して突き合わせた。登録番号3万5000番で切って集計みると、半々で均衡している。基本的に上と下に有意な差がないと言える。

 1年の中でも、6月と3月にヤマがある。3月の抹消は弁護士研修を行った裁判官の復職で登録抹消が多い。また、60期の5年目の登録抹消が目立つ。留学するために登録抹消するのではないか? 再登録しているかどうかを調べたら、けっこう再登録が行われている。それらを差し引くと、0.8〜1%のレベル。はたして大騒ぎするような数字だろうか。若い世代で「仕事がないから登録抹消」という流れがあるとは言えないのではないだろうか?

 所得については、国税庁税務統計の「事業所別平均所得」(国税庁)で公開されている2008年〜13年のデータを集計した。ただし、項目により所得の捉え方に違いがあり、残念ながら厳密に比較することができない。
 2013年では、医師が878万円、弁護士・税理士は500万。全職種で2番目の高さだ。業種別平均所得推移を見ると、弁護士は病院・診療所の次に高い。医師は上昇しているが、弁護士は2008年から2013年まで1400万から1000万弱に落ちている。司法書士も急落している。
 その原因として「過払いバブル」の終焉がある。不動産バブルが2007年の年明けに終わり、08年にリーマンショックがあった。資産流動化のブームが急に終わり、いっせいに仕事がなくなった。推移からすると元に戻り、なおかつ医師の次にリッチなのだ。

 「弁護士の格差が拡大している」という話は本当か。業種別所得階級別人員数の「所得階級別構成比推移」を見てみる。2008年から2009年にかけて100万円以下が急増しているが、2010年にピークアウトした後は減っている。注目すべきは300万以上600万以下で、ここのボリュームが膨らんでいる。600万以上1000万以下も増えている。減っているのは1000〜2000万、5000万以上、1億円以上も減っている。このことから、「たくさん取っている人が大幅に縮小している」ということが読み取れる。
 格差は拡大しているのではなく縮小しているのではないか?

 事業所得の統計では、全体(弁護士に限らない)で100万円以下の深刻な人が非常に多い。それに比べれば、弁護士はまだリッチだ。勤務医は平均所得2400万でもっともリッチ。歯科医は弁護士と似た傾向をたどっている。司法書士も減っている。給与所得者(確定申告をしている給与所得者に限られる)はリッチな層が増えてきている。

 以上のことから、弁護士は世間相場からいえば金持ちではないか。格差は広がっておらず、縮まっている。600万が膨らんでいるのは健全ではないか。60期、61期がアソシエイトを雇おうとしている。経営が安定しているのではないか。

 次に、懲戒について調べてみた。法曹人口の増加に反対する人は、「食い詰めた悪徳弁護士が増える」という。「4万番台の懲戒が増えている」という話があり、驚いたので『自由と正義』で調査してみた。
 懲戒対象者で一番多いのは1万5000番台だが、3万番代もいる。しかし、有意に多いとは読み取れない。懲戒処分には申立てから時間がかかり、まだ処分に至っていない場合があることには留意したい。

 修習辞退者についてまとめると、直近の3期に関して言えば辞退者が50人ほどいる。22年度にそれまでの20人代から跳ね上がり、さらに80人まで伸びたが、最近は50人に落ちている。
 予備試験からのルートをたどる若年合格者が多い。卒業を1年先送りにしているのではないか? 宇都宮元会長は「貸与制になったから辞退者が出ているのだ」と主張している。給費制が延長になった64期から増えているので、確かに宇都宮氏の主張と一致する。

■質疑応答

岡田和樹氏
 『資本主義の正体』(池田信夫著)という本に「各職種別の年収の変化」というグラフが載っており、弁護士は2006年に突出して上がっている。これは過払いバブルのせいか?

伊藤氏
 額からいえば、過払いよりも資産流動化(高瀬注・不動産証券化など)とスクイーズアウト(高瀬注・ある会社の株主を特定の大株主のみにするため、少数株主に金銭を交付して「締め出す」こと)が全面解禁になり、担当した弁護士にそれらの収入が入ったことが大きいと思われる。(高瀬注・リーマンショック以前は)M&Aも盛んに行われ、リーガルアドバイスする弁護士が儲かった時代だ。07年の不動産バブル崩壊までは大規模事務所が空前の稼ぎを上げていた。もともとこれらの分野は非常に地味な分野だったが、(高瀬注・90年代末から2000年代初頭、金融システム危機で銀行の破綻リスクが大きくなって融資機能がマヒし、市場から資金調達する直接金融の制度が整備され)20年分の稼ぎをここで上げた。

馬場健一氏(神戸大学教授)
 資料を見ると2008年と2009年で所得70万円以下の層が増えているが、原因は何か。

伊藤氏
 よくわからない。所得が低い人が多い時期と、過払いが終わり始めている時期ではある。

馬場氏
 「弁護士貧困化」論者はこのあたりの数字を見て言っている。大した問題でないと言い切っていいのだろうか?

伊藤氏
 法務関係の人材バンクのニーズを聞くと、最近は中小企業の法務にニーズがある。個人対象の事務所は相当きついのではないか。また、企業法務担当者のネットワークができており、そこでノウハウの交換が行われ、大事務所の言いなりに高いフィーを払うことが相当抑制されている。
 いま、大事務所のパートナーは相当苦しいようだ。一方、市民派の弁護士が、「詐欺などでだまされる人が高齢化している」と言っていた。40代、50代はお金がないのでだます対象にならない。事件数はたくさんあるが、お金にならないようだ。

飯田隆氏
 未登録者数の推移で1年後を見ると、そんなに未登録者は増えていないことがわかる。需給バランスが崩れていれば、未登録者が溜まって行くはずだ。私は一斉登録の12月を過ぎてから面接しているが、就職希望者がたくさんやってくる。私は2006年の日弁連副会長時代に就職問題を担当してきたが、新司法試験が始まる前から1年経っても就職できない人はいた。職員は、「昔から十数名はそういう人がいた」と言う。実証的に検討する必要がある。

岡田氏
 馬場先生の指摘にある、所得70万円以下の層が倍増しているのは、有意な差を意味しているのではないか。経済変動の影響だろうか?

伊藤氏
 それは大きいと思う。リーマンショックで、いったん日本経済の全てが止まり、資産価値も下がった。これはいろいろなところに影響があり、たとえば相続では課税対象資産が下がるので。同じ仕事をしても報酬が減ることになる。企業が萎縮した時期で、お金のかかることをやらなくなった。

岡田氏
 過払金バブルの影響をどう考えるか。

伊藤氏 イベントとしては大きかったが、額はあまり大きくない。ピークは06、07年で、08年には既にピークアウトしたと見ている。

弁護士 所得70万以下の層のボリュームがこんなに大きいだろうかという疑問がある。自分の周りを見てもそのような実感はない。

伊藤氏
 国税庁の統計は不十分で、箇所によって事業所得の定義が違ったりする。集計に使っている統計は、給与所得と事業所得をダブルで入れているなどしているかも知れない。

■現場からの報告1 地方での即独の実態
岡田氏
 私は27期だが、「就職しなければいけない」という発想も、これはどうかと思う。そこで、地方で即独している弁護士の事例を紹介したい。

・長野県須坂市MAIMEN法律事務所 藤原寛史弁護士
(藤原氏は会場に来られなかったので、会事務局次長の多田猛弁護士による報告)

多田氏
 最初に、私の事務所の話をしたい。私は弁護士法人Nextを立ち上げ、昨年末に67期を対象に採用活動をした。15名応募があり、2名を採用した。その際、「あなたのクラスで就職が決まっていない人いる?」と聞いて見た。修習は70人弱が一クラスを組み、30クラス弱があるが、聞いた限りでは内定が決まっていない人はいないか、いても一人ぐらいという答えだった。だから、修習直後で決まっていないのはネットで20〜30人ぐらいと想像できる。
 ただし、意識の変化はあるようで、当初企業への就職を考えていなかったが、就職活動をする中で「今は視野に入れている」と答える修習生が目立った。
 もっと、企業、自治体で活躍する弁護士が増えるのが望ましい。組織内弁護士がまだ浸透していないのではないか。
 もうひとつ特徴として挙げられるのは、応募の15人は、東京と首都圏での希望者であり、福岡事務所の志望者はゼロだった。地方で働きたいという弁護士がいない。地方はむしろ人材難なのではないかと思った。
 私は2人採用したが、東京は1万3000の法律事務所がある。東京だけでも採用できてしまうのではないかと感じた。

【MAIMEN法律事務所レポート】
 「地域では若い弁護士でも食って行ける」という例として紹介したい。藤原弘文弁護士は、事務所を前から経営していた弁護士と合流する形で事務員を含めて4人で発足させたが、全員が上智大学ロースクール出身の仲間という特徴がある。
 司法修習の最中に開業準備をし、即独したが、地縁はなかった。「田舎暮らしへの憧れ」があり、地方での開業を目指して市場調査を行った。
 須坂市は5万人以上の人口があるが、法律事務所はなかった。「ゼロワン地域」はあくまで裁判所の本庁・支部のある地域を対象にしており、このような町への観点が落ちている。このように市民の視点に立った市場調査が功を奏して、予約待ちの状態になっている。最近、66期の弁護士が2つ目の事務所を開業した。

 依頼ルートは、最初はHPを見ての依頼が多かったが、最近は紹介が増えている。特筆すべきは市からの紹介も多いことで、市との信頼関係が根付いていることを示している。須坂市に限定しなければ、地理的範囲は8万人規模に及び、高速道路が近いことから富山や新潟からの依頼もあるという。

 ここからは多田の私見だが、綿密なマーケティングと明確なブランディングがうまく行っている。地域プロバスケットチームの顧問をするなど、地元に浸透する努力を重ねていることが、市からの信頼につながり、地域密着が成功している。
 OJTについてはどうかと聞いてみたところ、最初は不安だったという。しかし公益活動で汗をかき、地元弁護士会の委員会では先輩から弁護士の在り方、使命を含めて親切に教えてくれたという。
 このように、地域に根付いた立派な法律事務所がある。有資格者である弁護士は、全員就職する必要があるのだろうか? 安定を求めるか、独立してやっていくかという選択ではないだろうか。
 誤ったネガティブキャンペーンが張られていると感じる。どこにいるかわからないような弁護士像の暗い宣伝がされている。弁護士とは、ちょっとした創意や工夫で成り立って行く仕事だ。

岡田氏
 心強い話だ。次に、滋賀県で即独された、僧籍を持っておられる弁護士の報告を。

【円城法律事務所のレポート】
円城得寿氏
 企業に20年以上勤めていたが、ロースクールから弁護士になって開業した。なぜ弁護士になったかとよく聞かれるが、それは「仏のお告げ」とお答えしております(笑)。
 守山市の人口は8万人で、4人目の弁護士として開業した。新快速で京都に30分、大阪に1時間というロケーションで、割合に競争が激しい。相手方の弁護士の三分の一が京都・大阪の弁護士だ。滋賀では63期以降、即独の弁護士は毎年1名〜3名いるが、みんなそれなりにやっている印象がある。イソ弁を雇った即独弁護士もいる。

 キャッチフレーズは「あなたを守るお坊さん弁護士」とし、週3、4件の相談を受けて、民事受任は40件ほど。初回の相談に2時間とり、夜8時まで受け付けるのを売り物にしている。収入はサラリーマン時代を上回るようになった。相談の内容は離婚・債務・交通事故・相続で8割を占める。
 相談の経路は、ネット経由が53%を占めているが、地縁者の紹介だんだん増えてきた。ネットのSEO対策をしっかりしている。思い切った投資をしたが、二ヶ月で回収することができた。

 地方には、まだ顧客獲得の余地があると感じている。弁護士は県庁所在地に偏っており、顧客の他地域への流出があるのではないか。また、交通事故などでは保険会社の言いなりになっている人も多く、開拓の余地があると思う。また、共存共栄の風土が残る、物価が安いというメリットもある。

 OJTでは、県弁護士会のフォローと、日弁連の支援チューター制に助けられている。また、即独弁護士によるLINEでのネット作りも行い、お互い教え合っている。また、裁判所書記官、事務官、法務局には頭を下げて教えを乞うている。顔を覚えられているので、メリットもあると感じている。
 悩みとしては、先例ひな形のストック不足や、弁護士倫理のからむ判断をしなければならない時に迷うことがある。私は退職金を充てることができたが、開業資金、運営資金の確保も即独弁護士にとっては高いハードルになっているだろう。
 思わぬニーズだったのは寺院向けの相談だ。確かにこの分野の弁護士はいなかった。東京、千葉からも問い合わせがある。

岡田氏
 就職の可能性は検討したか。

円城氏
 最初は不安だったので考えたが、年齢の問題もあって厳しかった。「自分の優位は何か」を考えて即読を選んだ。

馬場氏 地方都市で、支部、本庁がないところでの開業はどうか?

円城氏 弁護士は裁判所のある町に出て行けばいいわけで、「依頼者の近くにいる」のがいいと思う。

飯田氏
 即独は市民事件が中心になる。しっかりやれば大成功だ。東京23区では弁護士が飽和していて仕事にならない。千葉県北西部、さいたま市を除く埼玉県、茨城県・栃木県・群馬県南部など、東京近辺にも未開拓のマーケットがある。市民対弁護士の人数比率を見ることが鉄則だ。

岡田氏
 日弁連法曹人口政策に関する提言でも、OJTの話が出た。

■現場からの報告2 新人弁護士を育成する立場から
飯田氏
 私は2002〜04年に日弁連法科大学院設立・運営協力センター委員長を務め、評価事業を立ち上げた。法科大学院の応援団を辞任している。森・濱田松本法律事務所を退職して宏和法律事務所を立ち上げ、2012年に募集したところ20人ぐらい応募があり、3人採用した。昨年は12月10日から面接を始めたが、69名の応募があった。
 ひとり30分面接するが、就職相談になっていることもよくある。合計10名を受け入れ、当初1年の期間限定と考えたが2年に延長し、扱いはノキ弁だが500〜600万円は払う保証給制にした。
 面接している弁護士たちは、森・濱田のレベルとそんなに大差はない。いい人が残っていると思う。成績の二桁台のいい人たちも多かった。また、純粋未習者は、既習者よりも伸びしろが大きいと感じている。
 弁護士の就職難を悪く言いすぎだと感じる。合格者500人時代はダイヤモンドだった。2000人に増えると、ダイヤモンドではないかも知れないが、輝けることには間違いはない。人数が減るのは法曹の危機である。

 最後に法科大学院一年目のトライアル評価について触れたい。法曹の使命・資質・能力の項目にたくさん要件が書かれている法科大学院と真っ白の法科大学院の対照が目立った。これは、実務法曹との接触や、そこから学ぶ姿勢の多寡が影響していると思う。多いところは法曹へのイメージが持てていると感じた。

井垣敏生氏
 私は20期で裁判官を務めていたが、法科大学院の教員を経て2月から藤木新生法律事務所で仕事をしている。
 就職できない人がいるのは事実だ。紹介の協力をしたりするが、高年齢、女性は圧倒的に不利だと感じる。最近、35人面接をした。ある50代の女性は100通履歴書を出したが、一ヶ所も面接にこぎ着けられなかった。即独せざるを得ないかと考えたが、初期のOJT受けたいと門を叩いてきた。立命館ロースクールの出身で、試験を受けている最中に母親が倒れ、介護で2年の空白が生まれた。その代わりに社会保障問題に関心を深め、この分野のプロフェッショナルになりたいという。まずこの人を採用しようと決めた。
 また、高卒で法務局に入り、20年仕事をしたが、通信教育5年で大学卒業資格を取ってロースクールに飛び込んだ人もいる。このようなエネルギーを持った社会人を法曹界に導くのがロースクール制度のはずだったが、いまは嵐が吹き荒れている。

 その人たちが不安なのは初期のOJTだ。最初の1〜2年を見てほしいという人がたくさんいる。だが、生活ができる収入が見込めなければ個人事務所は作れない。ノキ弁という言葉はやめたい。「研修弁護士を受け入れる弁護士事務所」と呼びたいものだ。
 やる気のある弁護士はたくさんいる。子育て経験した40代の弁護士を必要としている社会がいる。
 藤木新生法律事務所では、ベテランの事務局が弁護士に厳しく教え、何でも自分でやらせるようにしている。内容証明郵便も今はネットを使って出せるが、郵便局に行かせている。区点(。)の位置のための行変えの仕方など、「なぜこうなるのか」という原則から教えることが必要だからだ。細かいことを手取り足取り教えて、自分でできるように教えている。

 そもそも弁護士は独立心が強く、一人で仕事をやりたいはずだ。だから、自信をつけてやればいい。地方では、依頼者が殺到しているところもある。佐渡島は三ヶ月待ちと聞いている。

■質疑応答
岡田氏
 飯田氏に聞きたい。12月10日以降面接しているというが、なぜ一斉登録なのに決まらないのか。

飯田氏
 「なぜ決まらないの」と志望者に聞くと、「これから本格的に就職活動をやる」と答えが返ってくることが多い。かつては修習を始めてから弁護士になるまで2年半あったが、いまは修習が短縮され、地方で修習だと就職活動のために東京に出られず、二回試験のために勉強しなければならない。修習期間が短いことが問題で、必ずしも出来が悪いからではない。

岡田氏
 就職難の人はいるか。

飯田氏
 それは実際にはいると思う。履歴書を見ればある程度はわかる。使い回したりしているから。それは指導する。就職難の人には3つのパターンがあると感じている。スロー、ファッション(高瀬注・そう聞こえましたが、違うかも知れません)、それからプレゼン能力が弱い。指摘するとすぐ、よくなり2、3ヶ月後に決まっている。

井垣氏
 鹿児島から来た人が2年登録してないことがあった。「登録しないで何を待っているのか」と言ったことはある。

飯田氏
 1800番台から2000番台で受かった人たちは厳しい面もある。応援したいが、なかなか採用には踏み切れない。面接でどうやったらいいかの相談になることも多い。
 これらの人には社会人経験者が多いという側面がある。ローの問題点として、社会人のことを考えてやらなかったことがある。そういう人たちに活躍する舞台を充分に用意できていない。だから制度に対する批判が出る。
 現在の法律事務所でスキルを磨くシステムは、10年で一人前になり、そこから10年が稼ぎ時となる。普通はそこで40代の働き盛りだが、遅いスタートの人は一人前になる前にいい時期が終わってしまう。「修行時代をとにかく早く終わらせるべき」とアドバイスしている。

弁護士 そうすると、回数制限を5回に延ばすというが、後のほうで受かった人はやはり就職難になるのでは?

久保利英明氏
 だから、早く受からせようというのがこの会の趣旨だ。

飯田氏
 即独したほうがいい。苦労してきたんだから。先に述べたように、即独には成功の方程式がある。かつては休んでいいよという風潮だったが、就職活動で修習を休んでいけないということになている。

鈴木修一氏(明治大学法科大学院教授)
 私は法科大学院で教えるかたわら、法科大学院生向けの就職サイトを立ち上げているが、この議論は、客観的な統計なしで話されているとつくづく感じる。思いつき、思い込みの議論、事実に基づかない議論が多い。法曹人口増大を推進するなら、さらに客観的なデータを集めて反駁する必要ある。
 サイトを運営していて、昨年から状況が変わってきたと感じている。67期では、企業法務関係は人が足りていない。組織内弁護士は1442人を数え、2004年が100人だったのに比べれば14倍以上の伸びだ。ようやくクリティカルマスに来たのではないか? 60期代では、日銀、国家公務員など法曹資格を取らない。こういう事実知られていない。ポテンシャルはある。
 また、地方の特殊なニーズがあると痛切に感じる。地方の事務所の採用セミナーを開いているが、普通のルートで採用できない事務所のニーズが大きくなってきていると感じた。

飯田氏
 一斉登録後の面接をしていて感じるが、去年までは平均的だったが、今年は成績が悪いほうにシフトした。ということは、全体的に就職状況がよくなってきているということではないか。

弁護士 この会のテーマは「弁護士人口増大の反対勢力に対する反発」なのだと思うが、このような活動では、守旧派の人たちを柔らかくすることができるとは思えないが、どうするか聞かせてほしい。

■主催者まとめ
久保利英明代表理事
 「弁護士就職難の謎」は解けたでしょうか。肝心なデータがないが、勝手に就職難だと言う声があるが、実際はそうではないということがわかったと思う。今でも弁護士は富裕層だし、格差は縮まっている。困窮で会費が払えず、辞めた人はいないということもわかった。

 一方で、「地方の人材難」という問題がクローズアップされてきている。市民は弁護士にすがって助かっている。就職難だから合格させないということが本当にいいことなのだろうか。
 仕事をできるだけ与える。一緒に組んでやっていく。それが、日本国をリーガルな国にしていく道だ。「弁護士が人権活動できないから減らすべきだ」という意見はそうではないだろう。01年からの司法制度改革は、本当のニーズと弁護士を結びつけるものだ。
 福岡と東京で「雇用労働相談センター」をスタートさせている。弁護士が相談や訪問指導に当たる体制が生まれた。私たちは「合格者を3000人に」と言っているだけでなく、このような弁護士の仕事を作る意味でも「ロー未来」と言っている。志望者を見殺しにして、500人、1000人、1500人で打ち止めとは、とても言えないではないか。

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