どくどくと詠う

 昨年末、ふらっと立ち寄ったスナックでの出来事だった。
「君、面白いね。今度自作の詩を披露する朗読ライブ出てみない?」
聞けば彼も出演するとのこと。
ちなみに私は面白いねと言われると弱い。
更に、全く未知のものに遭遇すると好奇心の勝ってしまう危なっかしいタイプでもあった。
「え、出ます。」

 …そういえば、ジャグリング部に入部したときもイケメンの先輩に釣られて「あ、入ります」って言ったな。道具も決まってないのに。
なんて少し後悔しながら、朗読ライブ「どくどく7」への出演が決定した。
舞台経験があるとはいえ、今までのものは身体表現だ。声を使った表現に挑むのはこれが初めてだった。本番までは3ヶ月。私の挑戦が始まった。

 台本は意外にもすぐに仕上がった。恥の多い一生に加えて、ショッキングな事件もあったものだからそれを一気に原稿に吐き出した。問題は「読む」ということだ。与えられた時間は10分間。初心者からするとかなりの長さだ。演劇ワークショップに通ったり、元演劇部の友人のアドバイスを受けながら「声」を使った表現に自分なりに3ヶ月向き合った。

 そして迎えた本番。普段使用する劇場とは違い、ライブハウスの舞台は小ささの中に暖かさがあった。高校時代観に行ったライブのバンドマンたちは、こんな景色を眺めていたのだろうか。コロナの影響で演者だけの集まった小さなライブだったが、そこは間違いなく「ライブ」だった。

「面会時間は10分間です。
それでは始めなさい。」
 私は愚かな囚人。この狭い社会に囚われ、身を滅ぼした現代人という名の罪人。静かに重苦しくスカートの裾をたくし上げ、壇上に登る。
深く息を吸い、目を開けば、そこは私が主役だ。
““やっぱり私、舞台が好きだな。””
きっとこれだけは変わらないんだろうなと思っているうちに、あっという間に幕は下りていた。

 昔から鼻にかかった低い自分の声が嫌いだった。自分の声は何かを表すのに向いていないと思っていた。でも、この低い声をいいねと言ってくれる人も居ることに気付いた。有難いことに、「君には伝える力があるね」と言ってくれる方もいらっしゃる。
 最初は、無謀な挑戦で1度きりで終わると思っていた。それでも言葉を使った表現が、「声」を使った表現が、誰かの心を少しでも動かすなら私は続けていきたいと思う。


…というわけで、次回の出演が決定しました!
6/27(土)「電脳どくどく2」
個人的には以前よりも、言葉や自分の感情と向き合って書けた作品なので是非観に来て頂きたいです。宜しくお願い致します。

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