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同人メモ エルリ 現パロ

「今日も遅いのだろう?俺も遅くなりそうだ。先に帰れても待っているから夕食は一緒に食べよう」
 要は「賄を食べてくるな」ということか、もしくは「賄を食べても夜食として一緒に食べろ」ということだ。半ば強引にワンルームに住み着いたエルヴィンは何かにつけてリヴァイに食べ物を勧める、もしくは買ってくる「いらん」と言うと、「じゃぁ捨てるしかないな」と、リヴァイがそれを嫌がることを知っていて、そう言っては時間をかけてでも食べさせようとする。「少し太れ」は何度も聞いた。食生活の貧しさに自覚はある。癪だが、エルヴィンが転がり込んできてから貧血や眩暈が改善しているのは認めなくてなならない。
 短く承諾の返事をして、リヴァイは早朝のバイトへ向かった。エルヴィンはそれを言うためだけに一度起きただけのようだ。時間までまた寝るのだろう。


…アルバイトも長くなれば、任されるのは1セクションだけではなかったりする。ウェイターとドリンク作りぐらいはやらされることがある。今日は何の厄日が3人も接客が当日欠勤した。予約は常に入る人気店だ。
 会食にもそぐうよう洗練されたインテリアを配し、店の中央にはペンダントタイプのシャンデリアが配置され、卓上のキャンドルは、優雅な雰囲気を演出し、客を迎え、雰囲気だけでも十二分に客をもてなしていると言える。半個室になっている客席には芸能人、政財界の人間が来ることも珍しくはなかった。そんな店だから、接客に出されても「接客マニュアルにある礼儀」さえあれば、無駄に愛想はいらない。だからと言って…とは思うが、店長が「店に出てくれ」と言えば承諾するしかない。バイトだからだ。
 焼き具合とサイズをオーダー通りに切り分けてリブをサーブ、それが今日の皿洗い以外でリヴァイに追加された仕事だ。
 組んでいるウェイトレスが「失礼します」と席に声をかけた。
 …よりによって…。
「いや、私は結構、お二人にサーブを」
 目の前の客は前菜だけは食べたようだった。驚きを隠すリヴァイを楽しむかのように口元が綻んでいるのが分かる。
 初老と言っていいだろう、しかし、野心家なのが外見からも良く分かる男と、その娘らしき女と…エルヴィン。
 食欲がなくて、歳ですかね。と笑うエルヴィンに「特盛牛丼を食ったが何を言ってやがる」と心の中で毒ついて、マニュアル通りにサイズカットの確認をし、エルヴィンには飲み物の追加を聞く。
「まぁ、そう構えないでくれ。私は、君のような男になら、娘をくれてやってもいいと思っているのだよ」
 鷹揚に、しかし何処か小馬鹿にしたように笑う男に、エルヴィンもふっと笑みを零した。
「君は大層野心家のようだ。若者の支持層も厚く期待できる。娘を貰って、政界への道を開いてはどうかね」
 冷淡な瞳で男を見返すとエルヴィンは逆に男を心底哀んだように言った。「迂遠は好みません。単刀直入に申し上げましょう。私は今の地位など捨てても構いません。長年想っていた相手に相応しくあろうと努力した結果がたまたま今の地位というだけです。…その努力の結果だけを見て、好きでもない女と一緒になって政治家になれとは笑わせる」
「なんだと」
「くれてやってもいい?コチラから頼んだ覚えはない。いらないものを恩着せがましく、くれてやってもいいと言われるこちらの身にもなっていただきたい。付きまとわれて迷惑していた。指輪を外した途端、付きまとってきたのは貴方の娘さんだ。週刊誌に追い回され、同棲相手相手を悲しませた。謝罪を要求したいぐらいだ」
 エルヴィンの静かな怒気に、震えあがったウェイトレスが皿を落とした。静かな店内にけたたましい音が響く。破片からウェイトレスを庇ったリヴァイが腕に破片で怪我をした。
 男が「無礼だ」と騒いだのは、食器を落とした店に対してか、エルヴィンに対してかは分からない。
「リヴァイ!」
「騒ぐな。大丈夫だ」
「駄目だ。もうお前ひとりの身体じゃないだろう?」
 な!?と思った時には時すでに遅し。所謂、手遅れ。
「…パートナーシップ制度の成功、心よりお祈り申し上げます」
 恐らくは男が力を入れている政策の一つなのだろう。皮肉気に言いきり、エルヴィンはリヴァイの肩と腰に手を回す。小さく「仕事中だ」と言っても聞き入れてもらえなかった。
 諦めがこの時点であったことは認める。普段より早く上がっていいと店長に言われて「やっぱり」としか思えない自分がいることはもう認める。



 外に出ると、途端に車にクラクションをならされた。軽く2回。エルヴィンだ。横付けされた車に普通に乗るようになったなと思うと、何だか笑えた。
「リヴァイ、腹が減っただろう?牛丼を買って帰ろう、特盛2つ。チー牛でもいいぞ」
「…並でいい」
「駄目だ」
「そんなに腹が減ってるなら、肉を食っておけばよかっただろう」
 リヴァイのその言葉にエルヴィンはやれやれと首を振る。
「あんな連中と、どんなに高い肉を食っても上手くなどないだろう。部屋でお前と毛布を被って食べる牛丼の方が何十倍も旨いし価値がある」
 ・・・。今が夜中近くで本当に良かったと思う。顔が熱いのが分かるからだ。
「…お前、そういうことを簡単に言うな」
「難しく言えと言われてもな…」
 そういう意味では当然ない。
 説明するのも、こっ恥ずかしいし、変な方向に前向きに捉えて喜びだしかねない。
「…ネギ玉にする」
 誤魔化す為に出た言葉は牛丼屋のメニューの1つだった。誤魔化していることに気が付いたエルヴィンは更に付け加える。
「豚汁つけてやる」
 ちゃんと食べろと、笑いながら言われた。

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