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【第1回】アグラオネマの流通形態を考えて見る

アグラオネマの流通形態ですがおおまかに3つに別れます。他の園芸品種と違い、メインの供給元が野生フィールドですから一般の園芸品種とは違った流通形態で、その辺りを考慮しないといくら丈夫な草と言ってもトラブルを引き寄せる結果になります。

【野採り株】

いわゆる野生採集個体です。但しウチのアグラオネマ然り他の採集業者さんも基本山ん中に生えている個体を採集している訳ですので、元を辿れば全て野生採集個体です。ただ山の中に生えていたのは同じですが、市場に並ぶまでに各採集業者さんやショップさんのコンセプトや技量で単に「アグラオネマ ピクタム」と名前は同じでも、全く違った商品(敢えて商品)になる訳です。遠く5000kmも離れたスマトラ島で採集して、日本に持ち込むわけですからホームセンターや花屋さんに並ぶ一般園芸品種の様に均一性はありません。

基本的にアグラオネマ採集は1週間から2週間掛けますので、日本に持ち込むまでに数週間、早くても5日間はビニル袋に詰められているので大なり小なりダメージを受けています。アグラオネマにかぎらず、生体輸送の肝は「如何に温度を下げるか?」と「欲張って詰め込まない」ですので輸送中は基本冷やしています(残念ですがこれ出来ていない業者さんは結構います)。そういう見た目は問題がないんだけど、なんとか低温でダメージを抑えている株をいきなり26℃の多湿ケースに放り込むと…

「葉っぱが溶ける、落ちる」「ドリルが溶ける」「根っこも溶ける」「茎がポッキリ折れちゃった…」etc

後ろ向きのスイッチが入ったくらい一気にやらかすんですが、輸送経路を逆算すれば原因はある程度はつかめる訳ですね。ただこういったトラブルの対処ですが、できるだけ風上側で対応する方がトラブルを押さえ込めやすいんです。ええ、採った本人は採集からどれだけ日数が経過したのか道中の管理はどうだったのか判っている訳ですから、植え込み後の失敗も少ない訳です。ショップさんが養生するとしても、入荷日は判りますが「この株がいつ採集されて、どういった輸送状況だったのか?」は完全なブラックボックスです。更に趣味家サイドまで行くと、入荷日すら分からない訳ですから、単に「葉が溶けた」と言ったトラブルでも原因が判りずらい訳ですね。

栽培も輸送もしっかり管理された園芸品種とは違い、ピクタムは野生採集株ですので無養生の株を植え込んだ場合は何らかのトラブルが出てきますし、流通末端の趣味家がトラブルに対応するのは非常に難しいのはこういった理由からです。

【養生株】

野採り個体を採集業者やショップにおいて、経過観察された個体です。私が現状販売するのはこの「養生株」もしくは「増殖株」のいずれかです。

インドネシアから採集から約2週間掛けて持ち込まれたアグラオネマですが、見た目は問題無くても、植えこんだ後に色々トラブルが出てきます。「葉っぱが黄変する、溶ける」「成長点のドリルが溶ける」「草体ごと倒れる」ともう本当に待ってました!とばかりに日に日に状態が悪化していきます。ただ元々は強健な植物ですので、溶けた葉は除去、溶けたドリルも除去、倒れた草体もカットや植え直しで十分対応出来ます。我々採集業者やショップはそういったトラブルの「引き出し(対処法)」はちゃんと持っていますので、原則個別に対応出来ます。

いわゆる初期トラブルですが、植え込みから3週間以内にほぼ出尽くします。これはもう本当に感覚ですが、3週間問題が出なかった個体はその後、ノートラブルで行ってくれます。逆に2週間だとまだ怖いのでウチでは3週間は温室でしっかり管理しています。ちゃんと管理された養生株なら皆さんが入手してもトラブルに遭う可能性は低いですし、トラブルに見舞われても初心者でも十分リカバリー出来ます。ただ養生期間ですが葉っぱ5-6株程度の中株までなら3週間もあれば十分ですが30cmを越えるような大株は、そもそもの扱い方が違って来るので初心者や中級者には難易度が高いですね。

因みに「養生」ですが昔からあるシステムじゃなくて、ここ3年で出来上がったシステムです。アグラオネマ ピクタムのブームの前はブセファランドラやホマロメナ、クリプトコリネも我々採集業者は帰国後即出荷するいわゆる「採って出し」でショップさんも入荷した草はそのまま販売するシステムが主流でした。「養生」のシステムが出来た背景は今回割愛しますが、初心者や初期養生に自信がない方は養生株から入った方が無難です。


【増殖株】

入手先としては採集業者にショップやヤフーオークションからの購入、趣味家間のトレードなど入手の選択肢としては一番多いでしょうですね。ただ全てが手を出しても問題無い訳じゃなくて、下手すると野生採集株より手こずりそうな「なんちゃって増殖株」もありますので、葉っぱが2-3枚以上でしっかりした株を選びたいです。

たとえ増殖株でも極端に大きい株は入手後の扱いが難しいです。大きい株は「殖やすのか?」「綺麗に育てるのか?」で扱いが180度違って来ます。この辺を決めかねないまま栽培すると、大抵持て余します。大きい株の捌き方ですがまた別の機会に紹介したいと思います。

と言う訳で初心者や養生に自信のない方は養生株や増殖株を入手することをオススメします。初心者の場合、元々の引き出しが少ない上に状態が悪化した原因も分かりづらいので、敢えて多くの引き出しが必要な野生採集個体から始めるより、少ない引き出しでマッチ出来る養生株や増殖株の方が上手く行きます。アグラオネマに限らず、生き物を飼育するって「病気が出た時どうするか?」よりも「どうやって病気を出さないか?」が重要でしょう。トラブルは趣味家が対処するよりは、プロ側に任せた方が結果は良い…はずです。

「何故養生するのか?」

きっかけは3年前の例の病気からです。自分が一生懸命採集した株が他所の病気を貰ってロスされるのは、心情的には当時も今も将来も耐えられないですね。ただいわゆる「採って出し」の先が無いのは体感的に感じていましたのであくまできっかけです。

元々アクアリウムの人間で魚と水草の扱いはそれなりに経験はありましたが、アグラオネマは完全に畑違いですので一言で養生と言っても右も左もわ判らず試行錯誤の連続でした。期間も1週間から始めて結局「3週間」に落ち着きました。ただ畑違いな割に、短期間でそこそこ出来る様になったのは、やはり数々の失敗を自分で経験した「習うより馴れよ」を地でやって来た結果です。「養生」は仕事として見れば避けたいのは山々ですが「趣味」としてはそりゃ楽しいんですよ。色んなアプローチがありますし、葉っぱ2枚の地味な株がいきなり大化けしてくれたりするんです。まあそういう「美味しい部分」は他人に渡すのは勿体無いっちゃー勿体無いですね。ということで今年も頑張って養生します。

皆さんが手に入れた株は唯一無二ですので当然大事に扱われるでしょうが、その前の段階の扱いで、上手く行くも失敗するも決まる恐れがあるのを頭の片隅に置いて頂ければ幸いです。

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