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交番勤務ってどうなの?①(初めて切符切った時の話)

私が初めて交通違反者の切符を切った時のことを話します。

初任科を卒業して警察の独身寮に入った私はインターネットがしたかったのでネットカフェへ行きました。当時はスマホなんて無かったし、その街には1週間前に来たばかりです。さびれた港町でしたね。とりあえず目に入ったネットカフェで会員カードを作ります。

その時、対応してくれた若い受付の女性が自分が今まで見たどんな女性よりきれいな人でした。背が高くて、目は切れ長、鼻も高いモデルのような顔です。こんな街にもこんな美人がいるんだな、と思ってつい嬉しくなりましたね。

さて、次の日は人生2度目の当直勤務ですから、インターネットも早めに切り上げて帰って寝ます。初任科出たての我々同期は朝早くから行って署の清掃をしなければなりません。朝6時には署に到着して清掃。そして、8時半から24時間勤務の当直です。

巡査部長の上司と二人でミニパトに乗って交通取締りへ行きます。大体一日のノルマは1人1件ですから2人で2件です。それも交差点違反(信号無視、一時不停止、歩行者妨害等)の青切符がベターです。

初めのころは、違反者の前でなぜか警察官である私が上司に怒鳴られながら切符に必要事項を記載していくというのが半年くらい続きましたね。だから本当に切符を切るのが嫌でした。警察流の仕事の教え方です。

上司は運転席で私は助手席です。だから上司は私の右側にいて私が書き間違えたり同じことを違反者から聞いたりすると「何間違えてんだテメー!この人を待たせているんだぞ!」「ふざけんな!メモしてないのか!」等と怒鳴ります。

すると私の左目から涙が出るんです。泣いているわけじゃないんですよ。ただ右側から怒鳴られるから反対側の左目から涙が出るんです。

さて記念すべき一回目の切符処理は、シートベルトの白切符でした。

シートベルトをしていないのを目視で確認、違反者の車をパトカー車載のマイクで呼び止め、降りて違反者のところへ駆け寄り、パトカーに乗ってもらってパトカーの中で切符処理をするというのが一般的な流れです。

この頃はまだ私はミニパトを運転する内部試験に合格していないので、部長に運転してもらっていました。ですので、マイクで呼び止めた後、私が走って違反者の車へ駆け寄りました

中から降りて来た運転手はなんと昨日のネットカフェの受付の女性でした。見た瞬間分かりました。今日はミニスカートで足は透けるように真っ白です。こんな偶然あるんだな、昨日の客だとバレないかな、と不安でしたが、制帽をかぶっているし大丈夫だろうと近寄りました。

案の定、話しかけても全然気付いてない様子です。早速ミニパトに乗ってもらいます。

余談ですが、シートベルトの違反を否認するつもりで車から降りてくる人というのは、大体右手でシートベルトを握りながら車から出てきますね。シートベルトを握って、さも今外したから右手に持ってるんだよ、とアピールするわけです。

さて、ミニパトに乗せて免許証を出してもらいます。裏面も確認。住所変更等をあらかじめ確認して記載ミスを防ぎます。

ん?名前が絵麗奈(えれな)?

改名のスタンプが押してあります。
(絵麗奈はもちろん仮名ですが、それと似たような麗しい漢字を使った名前でしたよ)。

免許証の表面の名前は洋介(これも仮名です)。

「えーっと、男性の方ですか?」
「はい、戸籍上は男です。」
「あー……、改名をされたんですね。………。」
「そうです。」
「……」

これが私が警察官になって初めて切符処理した時の話です。嘘じゃないですよ。幸い否認はされませんでした。

思い出してみれば、会員カードを作ってもらった時、「すごい美人だけど少し指が太いなー」なんて思ったのを覚えています。でもまさか、男だなんて想像もしませんでした。

本当にきれいな人だったんですから。



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