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留置場ってどんなところ?①(警察署の火薬庫)

留置場で被告人が死亡したことがニュースになっていますね。この被告人は特別要注意者だったということで警察の管理体制についても関心が集まっているようです。

私は警察官を7年やりましたが、留置場の看守を1年半やっていたのでこういうニュースは本当にショックです。


留置場とは


留置場というのは逮捕された「被疑者」が入るところです。起訴されたら「被告人」となり拘置所へ移送されます。裁判で刑が確定したら「受刑者」となり刑務所へ行きます。

留置場は被疑者が罪証隠滅するのを防止するために勾留されている場所となります。まだ刑が確定したわけではないので、色々と気を遣う部分はありますが、またそれは別の機会に話します。

ホテルではないので当然自由は制限されます

この留置場ですが、私の県では専務(内勤とも言う。刑事課等の交番以外の課)に入る前の登竜門的な場所として位置づけられていました。

若い巡査は交番勤務で数年経つと大体の人は専務に引っ張られます。

警察官は異動や昇任でどんどん転勤して行きますから、例えば刑事課の巡査が異動や昇任をしたら留置場の看守として勤務している巡査を刑事課の巡査として補充するということです。

交番から直接専務に行く人もいますが、留置場経由で行くことが多いですね。

なぜ、看守を経験させるかというと「被疑者との会話に慣れるため」「留置場内の被疑者の生活を理解するため」「被疑者の逮捕後の心情を学ぶため」「刑事訴訟法の手続きを理解するため」等いろいろあるようです。

留置場の被疑者は大きく2つの事を考えていると警察組織は見ています。「逃げたい」「死にたい」です。

逃げたい」はもちろん逃げて自由になりたいということです。

死にたい」というのは人によって違います。

自分の犯した罪の重さに耐えられなくて死にたいと考えてしまう。長期間刑務所に収容されることに絶望して死にたいと考えてしまう。社会的立場があった人は羞恥心から死にたいと考えてしまう。等です。

留置場は警察署の中にあります。取調べが必要な場合には被疑者を留置場から取調室へと連れていくわけです。

警察署の火薬庫

留置場は警察署の火薬庫と呼ばれていました。もちろん火薬が置いてあるわけではありませんよ。

留置場で何か問題が発生すると看守だけでなく署長も処分されるからです。問題というのは被疑者の逃走、自殺だと考えてもらって間違いないです。

日本は法治国家ですから犯罪をした場合、適切な刑事手続きに則って処理されなければなりません。

しかし、被疑者が自殺してしまうとそれができなくなります。重要な被疑者の証言が得られなくなり、事件の真実も分からなくなります。

そういったことになったら大変ですから警察組織としても留置場で問題が起こったら厳しい対応をするということでしょう。

厳しい?
署長が管理責任を問われて処分されるなんて当たり前でしょ。と思われるかもしれません。

しかし、警察署の署長というのは誰でもなれるものではありません。

警察官になって約25年から30年間、優秀な勤務成績を維持し続け、上司にも気に入られ、昇任試験を幾度も突破したごく一部の警察官だけが警視という階級になれます。そして警視になってもすぐに警察署の署長になれるわけではないのです。

長くなるので割愛しますが、警察組織内では一等警視、二等警視なんて言葉もあるくらい、警視の中でも幅があったりします。

そんな優秀な警察官である署長が、警察官になって数年の巡査や巡査部長が看守している被疑者の自殺の責任を取って署長というポジションを失うのです。それどころか以後の更なる出世も難しいはずです。

私が看守をやっていた時も署長は毎日留置場の巡視に来ていました。日曜日もです。それだけ留置場内の規律の緩みや異変を把握しておきたかったのでしょう。

特別要注意者

さて、「特別要注意者」の話に入りましょう。この「特別要注意者」というのは読んで字のごとく特別な注意が必要な被疑者の事です。自殺の恐れがある被疑者を指すことが多いです。

私の1年半の看守生活でも5人いました。

海上保安庁の職員検察事務官医師などでしたね。こういった社会的身分がある人は、身分を失うことへの恐れや後悔、羞恥心から衝動的に自殺をする可能性があるとしてほぼ間違いなく特別要注意者となります。

特別要注意者が逮捕されてくると留置管理係はしばらく休みなしです。

特別要注意者は一人で房に入れられます。そして非番、週休の者が交代で24時間対面で房の前の椅子に座ってひたすら監視します。

夜、被疑者がトイレに入ってるときは見づらいので緊張しましたね。何かあったら全てを失うくらいの気持ちでいつも見てましたよ。

特に専務に異動するのが近づいてきてからは、専務からも「お前は留置場なんだから、最後まで気を抜くなよ。何かあったらこの話(専務)も消えるからな。」などと言われたのを覚えています。

留置場の勤務は交番と違って職務質問や交通取締りのような成績は求められません。しかし、一つのミスも許されないという意味で責任の重い仕事なのです。

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