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ウミネコ

ウミネコという鳥を知っているだろうか。カモメとよく間違えられるらしいが、嘴の先の色や、尾先の黒い帯が特徴の鳥である。鳴き声が猫に似ているとのことで、ウミネコと名づけられたらしいが、どうにも似てるとは思えない。

彼らの目は、いい意味で死んでいる。いつ見ても、輝きのない目をしている。それが私には、とても美しく感じられる。どこまでも死を追い詰めるような、必ずその瞬間を抉り出すような嘴で、空を飛ぶのである。白い死神がどんな姿をしているかと問われれば、私は初めに彼らの名をあげるだろう。

彼女が、魚を啄むところを見たことがある。生きた魚は、尾を打ち付け、体をくねらせ抵抗していた。しかしながら陸に打ち上げられた時点で、魚になす術はないだろう。ただ彼女にとっても、切開するメスを持っている訳では無い。目やエラなど、既に孔が空いているところにクチバシを差し込み、眼球を抉り出す、エラを引き出す。或いは肛門から内蔵を引きずり出し、食べる。魚は抗い続ける。

翼を広げた死神は、どこまでも美しい白を空に溶きながら舞うものだ。今日も6羽の死神が舟を切り裂いた。私もそこに乗っていた。彼女に触れようとする指先は、いつまでも届かず、海に消えている。舟も、いつの間にか沈んでいたのだ。気づけば、皮膚も、眼球も、臓器も水に溶け出している。

彼女らの視線が刺さる。こういう時に、彼らは何もしない。ただ視線を投げるだけだ。こんな時にこそ、苦しめて欲しいのに、皮を剥ぎ、内蔵を引きずり出して欲しいのに。見ているだけだ、彼らは知っているから。なぜ。なぜ。なぜ。彼女らは、悪魔か、天使か。安らぎか、裁きか。

ウミネコは、今日も鳴き叫ぶ。

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