木葉功一

詩と小説と散文

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  • ソムニウム~夢~

    夢をモチーフにした詩と短編小説です。

  • ゴスペル

    暴力を終わらせる少年────草薙マリオの物語。

最近の記事

ソムニウム(89)紅葉

自宅マンションのキッチンで友人と夜御飯を食べている。 彼がぽかんとした表情になって、背後のリビングを凝視する。 振り返ると照明の消えたリビングの、壁の高いところから、 真っ黒な禿髪に、真っ赤な和服を着た、 年齢も性別も分からない、下膨れの顔が生えている。 顔はとても大きくて、鼻と頬がつやつや光ってる。 枯れ葉で埋まった山の道を、サンダルでどんどん歩いていく。 真っ赤な紅葉が混じり出して、道がどんどん赤くなる。 道の終わりに、縄文杉ほどの太さの紅葉の巨木がある。 見上げるよう

    • ソムニウム(88)遺灰とスリ

      妻の実家で、妻と話してる。 彼女はとても優しくて、自分のことを大切に考えてくれてるのが伝わってくる。 なので、話せば話すほど、その人が妻ではない、と思えてくる。 妻の母親を呼んで、彼女の正体を確かめる。 「実は...」と言って、仏壇の中から、貝殻の口紅入れを出してくる。 中には遺灰が入ってる。 生まれてすぐに死んだ娘の灰で、あなたが話したのはこの子だ、と言われる。 初めて聞かされる話に驚き、どうして黙っていたのかと問うと、 妻の母親がピエロのようなメイクになって、訳の分からな

      • ルビー・ザ・キッド Last Bullet

         日比谷線広尾駅の改札を出て雨上がりの空を僕を見上げる。  濡れて光る横断報道を大勢の人たちが渡っていく。信号が変わって車が流れ出し路面にきらめきの波紋を作る。それを見ながら券売機の脇に立ち、胸をときめかせて僕は待つ。  待ち合わせの十六時ぴったりにプラチナシルバーのリムジンが滑るようにやってくる。歩道に寄せて静かに止まり、後部座席のドアを開く。ローファーのつま先を光らせて甲斐美猟先輩が降りてくる。 「おまたせ」  去っていくリムジンを見返りもせず歩み寄ってきて先輩が言う。

        • ルビー・ザ・キッド Bullet:29

           気がつくと二つの歯車を見ていた。  透き通っていて大きかった。ねじれるように傾いていた。  二つは噛み合って回っていた。ときどきそれが外れて滑った。片方の回転のスピードが速かった。    これが破壊と再生の歯車か───。  そう思ったところで、僕は、僕を取り戻した。  自分が誰で、何をして、どうなったのかを思い出した。  世界の裂け目となったことで、その始まりと成り立ちとあり方を知った。 ✣  最初に自分を感じる存在があった。  それは大いなる霊だった。  存在し

        ソムニウム(89)紅葉

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        • ソムニウム~夢~
          89本
        • ゴスペル
          14本

        記事

          ルビー・ザ・キッド Bullet:28

           そして公開処刑日の四月一日がくる。  大型台風が小笠原沖に接近していて、朝から強い風が吹き荒れ、灰色の雲が空を走る。  紅い拳銃を渡された日とそっくりな天気だな、  とトレーラーの荷台にセットされた強化ガラスのコンテナの中で、床に溶接した椅子に座らされ、両足首を鎖でつながれて、オリンピックスタジアム跡地の刑場へと運ばれながら、八年半前の『ブランカの夜』を懐かしく僕は思い起こす。  護送の車列は二十号線を千駄ヶ谷へ向かってのろのろ進む。きっと黒桃の指示で僕の姿を都民に晒してる

          ルビー・ザ・キッド Bullet:28

          ルビー・ザ・キッド Bullet:27

           ICPOとFBIと米軍の合同チームによって、草薙マリオがアメリカのアリゾナ州で拘束され、日本に護送されたというニュースが世界中のメディアで流される。  オリンピックスタジアム・テロと同時多発テロを併せて、死者・行方不明者が六万人、重症者が二万人、家を失った人が五万人を超えるという、史上最多の無差別殺戮を犯した快楽殺人者を処刑しろ、裁判なんてすっ飛ばせ、というメッセージがSNSで爆発的に拡散され、公官庁とテレビ局に電話とメールが殺到する。政治家とタレントと動画配信者がその流れ

          ルビー・ザ・キッド Bullet:27

          ルビー・ザ・キッド Bullet:26

           スマホに残されたハルのメッセージのループ再生を僕は止める。  ユタの荒野の孤立丘の頂上で寝転がって見上げる冬の夜空は、無数の星が冴え冴えと輝き、流星群が針のような軌跡を刻み続けてる。  十三トンの地中貫通爆弾に直撃されて体を潰され、屋敷ごと吹き飛ばされてしまったハルの最後を思い出しても、辛くもなければ悲しくもない。ハルの体が壊れた瞬間に中から愛が出てきたところを、しっかり見たはずの『三歳の怪物』も沈黙を守り続けてる。まるで屋敷の跡地のクレーターに自分の中身を置いてきたみたい

          ルビー・ザ・キッド Bullet:26

          ルビー・ザ・キッド Bullet:25

           ネイティブのおばあさんにお別れを言い、ピックアップトラックを見送ってから、荷物を整理し、瞬間移動で僕とハルは岩穴住居を去る。  カリフォルニア州の武市先生の屋敷の庭に現れて、エントランスで待っててくれてた先生にハルを引き会わせる。先生がハルにハグをして、それでハルが泣いてしまう。号泣してへたり込んでしまったハルを二人で屋敷の中へ入れる。特殊なミリタリーウェアを着込んでいるハルの姿を見て、管理人の老人と家政婦さんたちがギョッとする。 「この娘のことは他言無用ね」  先生が彼ら

          ルビー・ザ・キッド Bullet:25

          ルビー・ザ・キッド Bullet:24

           眠れずに朝を迎えた僕は、太陽が昇り、世の中が動き出すの待って、八ヶ月前に暗記した電話番号をコールする。  五回、十回、十五回───呼び出し音が繰り返される。  居住地跡の石段に立ち、雪に覆われた荒野を見ながら、スマホを耳に当て僕は待つ。  四十一回目で相手が出る。 「はい」  かなり年配の男の声だ。 「クサナギ・マリオといいます。タケチ・クミコにつないで下さい」  できるだけゆっくり僕は言う。  相手がしばらく沈黙する。 「転送いたします。お待ち下さい」  男が答えて保留音

          ルビー・ザ・キッド Bullet:24

          ルビー・ザ・キッド Bullet:23

           美猟と生きたい、絵を描いて生きたい。  それが叶うならそれ以外のすべてを壊せるし殺せる───はずだったのに、できなかった、殺せなかった、紅い拳銃で自殺できなかった。人間であること、生き物であること、命であることに叛かれた。ガルシアのシナリオから出るための活路を、自分自身に塞がれてしまった。  驚き呆れて笑うだけ笑い、ぐったり疲れて途方に暮れ、ナバホの居住地跡へ戻ったところを、僕は何者かに狙撃される。  瞬間移動を解いて現れ、固まり始めた雪を踏みしめ、岩穴住居へ入ろうとしたそ

          ルビー・ザ・キッド Bullet:23

          ルビー・ザ・キッド Bullet:22

           鼻をつく焦げ臭さで目が覚める。  頬が、胸が、腹が冷たい───地面に倒れているらしい。  頭のすぐ横を人が走り抜けていく。次から次へと、何人も。  うつ伏せの状態で目を開く。  しみる───煙だ。あたり一面。  咳き込みながら起き上がって、自分の体を確かめる。  ヘッドギアはかぶってなかったけれど、福生の基地から瞬間移動したときの戦闘服姿のままで、どこにも怪我はしていない。  僕は頭を振って立ち上がる。  煙ではっきり見えないけれど、高架下の歩道にいるらしい。  後ろから走

          ルビー・ザ・キッド Bullet:22

          ルビー・ザ・キッド Bullet:21

           それから一週間後に配信された『草彅マリオ』のテロ予告動画で、椅子に縛られ、口を塞がれ、スーツの腹部にタイマーを貼られた美猟の姿を僕は見る。ロサンゼルスのギャラリーで開かれた個展の客たちと話しているとき、画商に呼ばれてスタッフルームの奥にあるパソコンのモニタで見せられる。  タイマーは六桁で、二十四時間後にセットされてる。  美猟にだけライトが当てられていて、周囲の状況は分からない。 このタイマーがゼロになったら 官房長官の首を切り落とし 東京の人口密集地を爆破する オリン

          ルビー・ザ・キッド Bullet:21

          ルビー・ザ・キッド Bullet:20

           平井耀として生きることになった僕は、ユタ州のゲストハウスで本格的に制作を始める。グランドチェロキーに画材を積んでモニュメントバレーへスケッチに出かける。ナバホ族の聖地なので立入禁止の場所が多いけど、ペンタゴンが話をつけているので僕は何も気にしなくていい。大地と空に挟まれて風の音しか聞こえない場所で、目と手をひたすら動かし続け、夕方にアトリエへ戻ってスケッチをキャンバスに写していく。複数の作品を並行して描き、一ヶ月で十三枚の風景画を仕上げる。  美猟が完成した絵を見たいという

          ルビー・ザ・キッド Bullet:20

          ルビー・ザ・キッド Dead Bullet : ミッション・オブ・ガルシア・アズール

           ガルシア・ガブリエル・アズールは、アメリカ南北戦争に南軍の少尉として参戦し、北軍との戦闘に敗れて、灼熱の荒野を彷徨っていた。  二十一歳のときだった。  二メートル近いがっしりとした体躯に三発のライフル弾をぶち込まれ、銃剣でえぐり出された左の眼球を頬からぶら下げ、大量の血液を垂れ流しながらふらふらと足を運んでいた。残された右目の朦朧とした視界に途切れることなく入ってくるのは、友軍の兵士たちの死体だった。蝿にたかられ蛆をわかせて膨らみながら腐っている、かつての仲間たちを見下ろ

          ルビー・ザ・キッド Dead Bullet : ミッション・オブ・ガルシア・アズール

          ルビー・ザ・キッド Bullet:19

           僕らが打ち込んだ洗脳のコマンドが日本の国民に効いてくる。  警視庁に拘束された美猟のことを特集したテレビ番組に対して、「甲斐都知事に限って」「信じられない」「テロリストと決まったわけじゃない」というコメントが視聴者から大量につけられ、美猟を擁護するかのように複数のテレビ番組や動画サイトでストックホルム症候群が特集される。  そして警視庁公安部が、規定の拘束期限が切れると同時にあっさり美猟を釈放する。揃えた証拠の信憑性の薄さを自分たちでわざわざ立証し、検察に送検することは不可

          ルビー・ザ・キッド Bullet:19

          ルビー・ザ・キッド Bullet:18

           三日後、内閣府の記者会見で、オリンピック・スタジアムで起きた大規模テロの容疑者と、活動資金を提供していた共犯者の名前が公表される。 「まずは警視庁に送られてきた犯行声明を見てほしい」  テレビモニターの中で黒桃が言う。画面が切り替わって僕が映る。美猟の部屋で椅子に座って不敵な笑みを浮かべている。  俺の名前は草彅マリオ。  スタジアムのテロは俺がやった。  過去のテロも全部そうだ。  警察やマスコミは俺たちのことを、反政府組織なんて言ってるけど、  全

          ルビー・ザ・キッド Bullet:18