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永遠の不眠 * ショートショート

「必ず眠れる電気毛布」

不眠で悩んでいた私に
ある日、突然これが届いた。

差出人は、空欄であった。

少し恐怖も感じたが、
本当に不眠で悩んでいた私はこれを試してみることにした。

形状は、いわゆる普通の電気毛布の様であった。

毛布の端に機械が付いていてそこからコードが伸びている。

コンセントに差し電源を入れるとランプが光った。

ランプは10個あり全て点灯していた。

最大パワーということなのだろう。

もう1週間以上睡眠をきちんと取れていない私は
いきなり最大パワーで試してみることにした。

まだ昼の12時だが、
寝ていない私に時間などあってない様なものだった。

ベッドに横になり早速、電気毛布をかける。

普通の電気毛布の様に熱で温まるということはない。

目を閉じる。

人は悩み事があると眠れないものだ。

考えが考えをめぐらし気がつくと脳が冴えて眠れなくなる。

私の悩みは眠れない事だ。

寝ようと思えば思うほど頭が冴え渡って来る。

今日も寝付けないのかと、恐怖に思うことさえある。

何も起きない。

いつもと一緒だ。

昔感じたフワフワとした眠りにつく瞬間の気持ちいい浮遊感や
突然ガクッと眠くて落ちる感じもない。

やっぱりインチキか、そんな商品あるわけがない。

考えれば分かりそうなものだ。

睡眠薬ならまだしも「必ず眠れる電気毛布」なんてあるわけがないんだ。

こんなものにすがろうなんて思うのも寝ていないからであろう。

正常な判断ができていない証拠だ。


私は目を開けると、起き上がりベッドから降りた。

喉が異様に乾いていたので水を飲んだ。

激しい尿意をもよおしトイレに駆け込んだ。

はぁ、また眠れなかった。

ため息をつくと心なしか息が臭い。

歯を磨き、お腹が空いたのでパンを焼いた。


ふと時計を見ると針はちょうど6時を指していた。

6時?

どういうことだ?

ベッドに入ったのは昼の12時だったはず。

時計は6時を指している。

6時間も時間が経過したのか?

テレビをつけた。

いつもみている朝のニュースをやっていた。

夕方の6時ではない。

朝の6時だ。AM6時。


携帯を確認すると日付けが1日進んでいた。


つまり、ベッドに入ってから18時間経過していたのだ。


いつのまに?

まさか、電気毛布の力?


心なしか体が軽い気がした。

目の下のクマがなくなってる。

何より髪の毛が寝癖で爆発していた。


私は、 眠れたのだ。
あの、目を閉じて開けたあの間に、18時間も経過していた。

試しにもう一度寝てみた。
毛布をかけ目を閉じる、そして目を開ける。
時計を見ると7時間ほど経過していた。

やはり寝ている。

眠る時間はまちまちの様だ。
まぁ、さっき18時間寝たばかりだ早々十何時間も寝ていられないだろう。

とても良い商品を手に入れた。
私の不眠は解消された。
いつでも睡眠が取れるという安心感から普通に眠れる様になっていた。
それでも、眠れない日はその毛布を使用した。
同居している母親にも試してみた。
初めて、この毛布を使用している人を見た。
いつ起きるのか不安になるくらいぐっすりと寝ていた。

飼っている猫にも試してみた。
猫にも効果はてきめんだった。

ふと気がつくと、10個点灯していたランプが2つしか点灯していないことがわかった。

パワーが落ちているのか?

調節のつまみやボタンの様なものは見当たらない。

気にはなったが放っておいた。
その日の夜は、蒸し暑く、とても寝苦しかったので毛布を使用した。
15時間後に目が覚めた。
パワーが落ちるどころかいつも通り通常運転で安心した。

ランプが1つになっている。

もしかしてこのランプは、使用できる回数を表していたのではないか?

そうに違いない、あと一回しか使えないのか。
急に不安になってきた。
この毛布が使えなくなったらまた、不眠生活に、戻ってしまう。
本当に辛くきつい時に使わなくては。

案の定私はねれなくなった。
1日が過ぎ、2日が過ぎ、私は毛布を使うタイミングを伺っていた。
「まだいけるまだいける」
そう言い聞かせながら生活した。
10分くらい寝ることは出来た。
これがまた良くない。
もしかしたら寝れるのではないかという迷いがでた。
それで余計に頑張ってしまう。
限界はまだだこの先がある。
何日すぎただろうか?体は痩せこけ、意識も朦朧とする中ここが限界かというところまで来た。

今使おう、今しかないんだ。

毛布に手を伸ばし体にかけた。
目を閉じる。
よし寝れる。
今まで溜まった疲れが全て吹っ飛ぶ。
目を開けたら何時間後だろう。
2、3日は眠り続けるかもな。
起きたら飯を腹一杯食べて、スポーツでも始めよう。
これからは毛布なしで生きていかなければならないんだ。
体を動かせば寝れる確率も、上がるだろう。
そうだ、人生一度きりだ。
旅行もしよう。
人生を楽しむんだ。
私はそんなことを延々と頭の中で巡らせながら目を開けるタイミングを伺っていた。

「目を開けると毛布は使えなくなっていることだろう」そう思うとなかなか目を開けられない。

いつ目を開ける?なるべく多く睡眠をとりたい。
どのくらい眠っただろうか?
1日?3日?もしかしたら1週間くらいは眠ったもしれない。
もう目を開けても良いだろう。

思い切って私は目を開いた。

喉の渇きも無ければ空腹も尿意もなかった。
ふわふわと体が軽い感覚だけはあった。
十二分に寝ることができたみたいだ。

ふと気がつくと、目の前に私がいた。
そこにはすやすやと眠る私の姿があった。

毛布のランプは消えていた。

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