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勇者のタイムマシン * ショートショート

未来から来た私を若いママと呼ぶその男は絶命してしまった。

今となっては確かめる手段はない。
タイムマシンの様なものも見当たらない。

そもそも、どの様にして未来から現在に来たのかわからないし、
本当に未来から来たのか?私の息子?病院に連れて行くべきか?
病院行ったとしてこの話は信じてもらえるのか?
まず無理だろう。

とにかく私が疑われる。
もしくは頭のおかしな奴と思われるのが関の山だろう。


どうせ未来から来たこの男は、
身元不明の不法入国者に過ぎない。

放っておくしかないだろう。
山奥にでも捨てに行くしかない。

女の私にはなかなかの重労働だが誰かに頼むわけにもいかない。

そろそろ同棲している彼が帰って来る頃だが、
どう説明したらいいのかわからない。

信じて遺体の処理を手伝ってくれるだろうか?
浮気の末の殺人だなんて思われたらたまったもんじゃない。


1人でやるしかないか。
本当に自分の息子なのだとしたら心苦しいが突然やって来て突然死なれたのだ、
迷惑しているのはこっちなんだ。

わかりやすい印でもつけておいてくれればいいのに。
出荷される牛の耳についてるタグみたいに、
過去に戻るパスポートの様なものがあれば信じられるのだが、
と言っても過去に住む私たちにはそんな未来の制度知る由もないのだから一緒か・・・


なんて、変な事を考えていても仕方がない。今すぐ埋めに行くしかない。
汚れてもよい服に着替え、遺体を車に詰め込んだ。
アリバイになるかわからないがとりあえずSNSで映画を観に行くと呟いておこう。

スマートフォンでアプリを開くと驚くものが目に入って来た。

「未来から来た娘とデート」

会社の先輩の投稿だった。
私だけじゃないのか?
検索してみると次々とその様な投稿が見つかった。
日本だけではなく、全世界で同時に起きている様だった。

みんなの投稿を調べて行くとある程度事の発端がわかって来た。
52年後の今日、過去に戻ることのできる機械が発売されたこと。
発売されたばかりのその機械では、現代のこの時間にしか戻ってこれないこと。
江戸時代にとか、彼氏に振られたあの日になんて細かな設定はできないのだという。

そして、個人差はあるにせよ必ず死んでしまうということ。
死んでもいいから過去に戻ってみたいという、
勇敢な人というか物好きというか、
とにかくそういう一部の人間だけが購入したのだという。


自分の息子かもしれない男が
そんな浅はかな男だったと思うとちょっとショックではあったが、
私のところに会いに来てくれたのは少し嬉しくもあった。

そして、この機械を使うのには資格の様なものが必要だということもわかった。

この機械は使用中にとても強い衝撃を受けるのだそうだ。

死んでしまうのもこの衝撃が、原因と言われているらしい。

なので、子供や老人は使用できず若くて健康そして、
テストにパスした人だけが使用できるとのこと。

そのテストも8割以上がパスできない過酷なテストで
言わばこの機械を使うことができるのは選ばれたごく少数の人だけなのだ。

この時点で息子がすごいのか愚かなのかよくわからなくなっていた。

このテストを受けると、首の後ろのところに三角形のアザが出来るのだそうだ。


私は、息子の遺体の首の後ろを確認してみた。

アザひとつないきれいな首をしていた。

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