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砂糖禁止法 * ショートショート


政府が砂糖を指定薬物に認定してから20年が経過した。

今では店頭で砂糖を見ることはなくなった。
お菓子やジュースは製造されることはなく、
対応に遅れたメーカーやケーキ屋、和菓子屋などは軒並み潰れた。

果物の販売数が急激に伸び、果物農家は農地を広げ量産体制を整えた。
しかし、果物の買い占めや食べ過ぎが問題視されると
すぐに規制が入り生産数を政府が管理する減果政策が敷かれた。

子供達には砂糖は悪であると徹底的に教育された。

刑事ドラマでは、白い粉をペロッと舐めて「砂糖だ間違いない、逮捕しろ!」
などというやりとりが行れ、砂糖の撲滅に一役買っていた。

砂糖の排除に無事に成功した。

その結果、肥満の人数がへり、病気や怪我の患者が激減し医療費の負担が大幅に減った。
医師の数も少なくて済むため少数の医師が専門の分野で活躍できる。

しかし、良い事ばかりではなかった。

当然のように、砂糖は闇で出回った。
中毒性が高く、摂取しても見つかりにくい砂糖常用者の摘発は困難を極めた。

お菓子メーカーの技術者やパティシエたちが反社会組織に雇われるケースも珍しくなかった。

昔味わった砂糖の味が忘れられない大人や、老人がターゲットとなっていた。
その魔の手は子供達へと伸びるのにさほど時間はかからなかった。

一度砂糖の味を知った子供はそう簡単には忘れることはできず、
サトウキビを自宅で育てる者まで現れた。

砂糖欲しさに犯罪や売春に手を染める子供達。

あっという間に砂糖は社会に蔓延した。

元お菓子メーカーの技術者や、
パティシエの作った違法スイーツや違法スナック菓子は形や大きさ色が様々で警察の、目を欺いた。

女子高生やOLはカバン中に違法スナック菓子を忍ばせた。

泣きやまない子供に闇砂糖を使いお菓子を作り与える母親。

危篤状態の老人に饅頭を食べさせる医者。

押収した違法スナック菓子を横流しし、
自身も摂取し中毒になる警官などもはや手に負えない状態となっていた。

一度でも砂糖を使ったお菓子やスナック、
スイーツを口にした事のある人はわかるだろう。
この広がり簡単に止めることはできないのだ。
やめようと思っても脳と舌が砂糖の味と幸福感を覚えているのだ。

政府も対策を取らざるを得なくなった。

砂糖を使用した食品の一部解禁である。

日本の伝統の和菓子を解禁すべきだ。
チョコレートを解禁しろ。
コーヒーに入れる砂糖を解禁してくれ。
肉じゃがはどうなるんだ?

国会でもなかなか意見がまとまらない。
ベテラン議員ほど菓子に思い入れが強い。
地元の有権者の意見も吸い上げるとこれはまとまるものではない。

国民からの反感も強まっていった。
デモや暴動も各地で起きた。

政府は結局、砂糖の全面解禁に踏み切った。

一度更地になった業界は一気に活性化した。
今までお菓子を作っていなかった名だたる大企業も参入し、
新たなイノベーションが生まれ日本はお菓子大国となった。

テレビであるコメンテーターが言った。
「そもそもなぜあんな悪法が敷かれたのでしょうか?理解に苦しみますね」

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