【ほぼ毎日エッセイ】揺蕩う

【2019/07/06】
「はっ」と目覚めたのは午前4時過ぎだった。
朝と呼ぶには早すぎるし、夜と呼ぶには遅すぎるというなんとも言えない時間に目を覚ましてしまった私は、二度寝の準備に取り掛かる。
とりあえず起き抜けに水を一杯飲んで、体内から黄色い液体を放出させたら、数秒前いた場所に元いた形で寝転がった。

次に目を開けたのはそれから2時間ほど経った後で、枕元から覗く窓の先に映る景色は少し明るい。
どんよりしている天気に一つため息を吐き、肩を揉みながら「いかんいかん」と呟いた。
今日は倉庫整理のため千葉まで出向かなくてはならない。
それも朝の9時過ぎには内房線沿にある駅に到着していなければならないというのだから、私はうかうか眠ることができなかった。
埼玉に住む私が集合時間に間に合うためには7時過ぎの電車に乗らなくてはならないため、いそいそと準備を始める。
少しソファーに横たわりながら目を瞑っていたらもう既に30分も経っていたのだ。
ダンボールを何箱も運ぶという肉体労働に備えて、汚れてもいい安物のパンツと少しよれかけている紺色のTシャツを身に纏い、リュックにタオルと着替え用のTシャツ、そして読みかけの小説とエッセイを放り込む。
片道2時間かかるその駅まで、どちらも読みかけなので1冊では心もとない。
荷物を背負ってから、まだ寝ている彼女に向かって「行ってきまーす」と呟いて、いつ壊れてもおかしくないニューバランス574を履いて駅へと向かった。

土曜日の朝7時だというのに、混んではいないが座席がいっぱいで立つしかない京浜東北線に今一度溜息をつく。
日暮里だか西日暮里だかで人が降りてようやく座れたところで、今度はふぅと一息ついた。
秋葉原まで揺られたあと、総武線に乗り換える。
乗り換えに少し歩きながらみたび溜息をついた。
溜息をつくと幸せが逃げると言うが、この時点で私は3つもの幸せを逃したことになる。
お陰様で総武線のホームに着くと雨が降り始めていた。

程なくしてやってきた総武線に乗り込むと、随分とふくよかな女性が彼と思わしき男性にカラオケで友人が歌ってる最中に違う友人と話すくらいの声量で話かけていた。
「これやぁばぁくぅなあい〜?めっちゃ可愛良くな〜い?これチャオパだよ?やぁばくない?」
朝7時半過ぎにしては大きすぎるその声に「黙れ肉団子!」と一蹴してやりたい気持ちになったところで、読んでいた小説を閉じて顔を上げると、目の前の窓ガラスに肉饅が写っている。
自分だった。
「お姉さんごめん。揶揄してごめん。僕疲れてたんだ。許しておくれ」となんだか勝手にバツが悪くなったところで、快速に乗り換える錦糸町駅到着した。

快速のホームに乗り換える途中、私の頭の中は中華のことでいっぱいだった。
左には肉団子、目の前には肉饅だったからである。
ぐぅっとお腹が鳴った。
思えば朝から何も食べていない。
快速のホームに着くと、立ち食い蕎麦屋が目に入った。
電車の時刻を2秒もかからず教えてくれるアプリで出発時刻を調べると、発車まで20分ほどある。
迷いはなかった。
券売機の前に立ち、山菜そばのボタンに手を伸ばす。
が、その時画面にまた肉饅が映る。
読者諸君はもうお分かりだろうが、そこには自分が写っていた。
「反射するようなやすい画面を使うな!」と当り屋のような怒りをぶつけると、画面の左に中華そばのボタンを見つけた。
「これから肉体労働だしいいだろう」
なんだか寂しい言い訳をひとつこぼしてからボタンを押した。

食券をカウンターの向こう側にいるおばちゃんに渡して、3〜4分待つと元気な声で呼ばれた。
朝にちょうどいい元気さにやっと出会えた嬉しさから、気分を良くして中華麺を啜る。
美味い。
全く手の込んでいない立ち食い蕎麦屋の中華そばだが、これがなんだか異常に美味い。
朝8時に食べる背徳感からか、とにかく猛烈に美味かった。
すぐに気がつけばもうそこには麺がなかったものの、「もう少し食べたい」とはならない心地よい満腹感で店を後にした。

ホームから見える曇天のスカイツリーを見ながら「嗚呼、帰ったら泥沼のように寝てやろう」と思う。
リュックにしまっていた小説をもう一度取り出してから大きく深呼吸をする。
今日は土曜日。
せめて電車に揺られている時間くらいはゆっくり休もうと思いながら、ホームに入ってくる車両を確認して深く吸った息を吐いた。

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