4.リルケから考える言語文化の話

(1)リルケって誰??

リルケは、有名なオーストリア人の詩人です。(確か)
今日はリルケの初期詩集の言葉から、言語文化について少し考えたいと思います。

「ぼくはひとりだったためしはない。ぼくより前に生きて、ぼくより先に別れてゆこうとした人々も、ぼくという存在のなかに生きていたのだ。…(中略)ぼくには空間が必要だ。一族全部が生きるに足るほどの空間が。」

この言葉をどのように捉えるかは読み手の感性に委ねられるべきではあります。
僕はこの詩を初めて見たとき、何かスピリチュアルな類の話であると思いました。
ご先祖様が現在を生きる僕のなかに生きているだなんて人間の思い込みに過ぎない、と。

しかし、この詩は現代における言語文化のあり方、捉えられ方を上手く示した詩でもあります。

(2)言語文化論の基本的な概念について

そもそも、世界にあるものごとの多くには本来意味はありません。
人間が勝手に意味を与えて、一定のコミュニティの中でその意味を共有しているに過ぎません。
例えば、国によってお酒を飲める年齢は異なります。
本来、子どもと大人に絶対的な線引きは存在しないということです。
もちろん人間が生きていく上で大人と子どもを区別することに意味はありますが、その区別の方法は国や地域によって異なりますし、動物等にとってはそもそも明確な区別は必要ではありません。

その意味づけの方法の差異が「文化」と言うことになります。視覚的に同一に見える事物や存在が言語圏の相違によって全く違ったものになるのは、国ごとにそう解釈するに至った生活や歴史が異なるからです。(例えば、タコは日本人にとっておいしい食材であるという認識ですが、海外の人から見れば、タコはデビルフィッシュです。)

そのため、異文化を安易に否定したり忌み嫌うことは、ナンセンスだと言えます。

(3)リルケから考える言語文化論

国や地域といった広い範囲だけでなく、個人についても同じ論理が適用できます。
僕達がそれぞれ持っている個性やアイデンティティを含めた自己とは、先天的なものではありません。
その人間がこれまでに歩んできた歴史や生活体系が、その人間そのものとして表出するのです。
そこには、多かれ少なかれ周囲からの影響、とりわけ家族の影響が色濃く反映されるはずです。

ここまで学べば、リルケの詩が持つ意味合いも理解できます。「ぼく」という人間(の個性やアイデンティティ)は自らが「ひとり」で自由に生み出したものではなく、そこには周囲の人々の影響や、親、その親、そのまた親、といった、祖先の影響(無意識下での制約とも)が確かにあるのです。

特に前近代においてはむしろ、僕というアイデンティティなど庶民の心には存在せず、個人は家族の代表としてのみ社会と交わっていました。(だから、自由恋愛ではなく家同士の契約としての結婚を自然に受け入れることができます。)
つまり、僕という個性はそのまま僕の帰属する一族の個性とイコールだったわけです。

つまり、ヨコの繋がり(家族、友人etc)と、タテの繋がり(一族全て)によって、「ぼく」という存在は共時的かつ通時的な存在だと定義できます。
だから、人間には動物にはない深みや奥行きがあります。(DNAに裏付けられた生き物としての性質以上のものを人間は持てるようになったからです)
リルケのいう「ぼくには空間が必要だ」という表現にもそのような意味合いが含まれていると思います。

(4)言語文化論を応用すると…?

僕は子どもの頃からディズニー映画が好きで、そのひとつにライオンキングがあります。
詳しくない人にはピンと来ないかもしれませんが、ムファサがシンバに向かって言う、「父も祖父もお前の中に生きている」というメッセージに、子どもの頃は意味も分からず感動し、励まされていました。
このメッセージは単なる迷信や後の世代の者への励ましだけに留まらず、本当にムファサはシンバのなかで生きているんだと言うことを伝えていますよね。(さすがディズニーです)

もっと分かりやすい例で言うと、「ヒカルの碁」のヒカルと藤原佐為の関係も同じようなものですね。
扇子を「象徴」として、ヒカルの中に佐為の生きざまが確かに継承されたということです。
ヒカルの碁は佐為の碁でもあるわけですね。

僕自身、尊敬する親戚のおじいさんが亡くなった時にはとても悲しい思いをしましたが、この話を知ってからは、自分の中に確かに存在するおじいさんの生き方や考え方を大切にしながら生きていこうと思えるようになりました。(あらためて振り返ると、シンバやヒカルもそうやって大切な人の死、あるいは消失と向き合い、乗り越えていますね。)

かなりかいつまんで書きましたが、これらの概念は近代言語学における基本的な考え方ですので、物語にもよく用いられる概念ですし評論や論文も色々あります。よろしければチェックしてみて下さい。
反論・指摘があればどんどんお聞きしたいので、是非コメントにどうぞ!