46)常備するポストスケール:愛着のモノたち

昭和の高校生の頃にわくわくしながら手に入れたものがいくつか、今でも手元にある。小さな町の商店街の不愛想な文具店で、ちょっと珍しいモノを何か月も迷った末に買ったり買わなかったり。雑誌の文具特集に何度も登場する銀座伊東屋は夢の世界だった。高校生の小遣いで買えるものは限られていたが、逡巡の末に数百円を投じたモノはなかなか手離せず、小さくて古びない生き残りたちがいまだに日常をともにしている。

その一つがペンケースに常備しているポストスケール、簡素な形状ながら正確に小物を計量できる。一見、奇妙な分度器のような金属板の片端にはおもりが、もう一方には洗濯ばさみのようなクリップがついている。クリップに小物をはさみ、中心を支点として吊り下げるとハート形の窓のツノが目盛りを指すというものだ。目盛りは100gまであるが、50gくらいまでは特に細かく正確に量れる。

なにしろシンプルな造りなので、機械というよりは道具と呼ぶのが似合う。こんなに無駄のない形、簡単な使い方、それでいて高い精度が出せる道具を見ると、ああ、そんな解があったのかとため息が出る。出会えたことがうれしく、生み出した人をうらやましく思う。

これだけ長い期間持っているのに、今でもたびたび同じ感慨にひたってしまう。わくわくが擦り減らないことにかけては、付き合いの長いモノたちのなかでも格別である。

2020/05/09


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