28)違和感に目を向け続ける

同じ仕事をずっとしていると、慣れる。慣れることによって、楽に仕事が進むようになる。いちいち引っかからずに、さらっと片付けられることが増えてくる。最初はなんでだろうと思っていたことも、次第に気にならなくなってくる。経験を積むということは、その仕事に合わせて自分がカスタマイズされていくということでもある。

多職種連携が必要なとき、それぞれの職域でカスタマイズされた専門職同士が話をする。慣れて気にならなくなったことや気にしないことにして目を背けてきたことを掘り起こされる。積み上げた経験を、いったんばらしてみて、共通の言葉にできるところまで戻ってみる。経験を積めば積むほど掘り起こすものが多くて大変な作業になる。だが、それをやらなければ、お互いに話は伝わらない。

どんな仕事であっても、その細部にわたって最初からまるごと心底納得できるということばかりではない。素朴な感覚では違和感を持つところを、学んで理解を深めたから納得したり、慣行に逆らえずにこなしているうちに慣れてしまったりしたことが、多かれ少なかれある。

他の分野の人と接触すると、いったん棚上げにした違和感を引きずり出される。お互いに。丁寧に説明するだけなら相手が聞いてくれるならそれほど苦ではない。やっかいなのは自分が見ないことにしてきたところを無邪気に尋ねられるときだ。自分の、考えの浅さを指摘されたようなやましさを感じて動揺する。気持ちが弱っているときなどちょっと腹が立ったりもするが、相手は悪くない。そこは違和感を感じるところなのだ。たぶん、その違和感の中に、ものごとを理解する大事な鍵がかくされているのだ。初心に返ってその違和感に向き合う機会だと思いたい。

経験を積みつつ、違和感を忘れない。
難しいけれど、大切なこと。

2019/08/05

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