「人がどれだけ大人になれるかは」
「人がどれだけ大人になれるかは、耐えてきた困難の量で決まる」
マウスの発明者として知られる、ダグラス・エンゲルバートの言葉。
ディスプレイの中に複数のウインドウを開いて、それぞれのウインドウには遠方にいる人たちが映り、リアルタイムに情報を交換したり、討議したりする現代の映像付き多地点会議システムは、Skype や FaceTime でお馴染みだが、ダグは、このシステムを1950年代にデモンストレーションしてみせた。
1950年代と言えば、巨大なメインフレームによるバッチシステムが世界を席巻していた時代だった。
その時代に、高価な計算機を、意味のないことに使おうというアイデアを披露したところで、誰も相手にしなかった。
そう、意味のないこと。
だって、そんなことしなくたって、会議のメンバーが、ひとつところに集まればよいのだから。
計算機を運用するコストに比べれば、会議のメンバーが集まるコストの方がずっと軽い。
だが、現代では、コンピュータとネットワークを使った多地点会議システムは、一定の市民権を得ていると言っていいだろう。
Skype を使うとき、FaceTime を使うとき、あるいは、Line を使うとき、ダグの顔を思い浮かべる人は、まず、いないことだろうと思う。
早すぎるアイデアと、そのアイデアを披露した「早すぎる」人は、人々の記憶に残らない。
でも、僕は、マウスを手にするとき、時折、天才ダグラス・エンゲルバートと、彼の言葉を思い出す。
「人がどれだけ大人になれるかは、耐えてきた困難の量で決まる」
僕も半世紀以上の間、困難に耐えて来た。
僕も少しは大人になれただろうか、と思う度に、いつまで経っても子供だな、と思う。
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