ゴミ箱王子です。野良猫を蹴りました。

小学3年生の頃の話です。
当時、私達のクラスでは「〇〇王子」「〇〇姫」という渾名が流行っていました。サッカー王子、とか、なわとび王子、とか。
私は内気で、そういった場所からは離れた人間だったので、暫くの間渾名が付くことはありませんでした。

その当時の私は鼻炎と花粉症で、頻繁に鼻を噛んでいて、ちり紙を捨てるのに授業中毎回立つのも良くないだろうという事で、教室のゴミ箱を自分の机の横に置かせてもらっていました。
ある日、クラスの一人がそんな私を見て、「ゴミ箱王子」と言いました。
教室が私を中心に、私以外にとって居心地の良い笑いで包まれました。渾名が定着するのは一瞬の事でした。
家庭の事情で怪我も多く、内気であまり喋らない「ゴミ箱王子」が無邪気な悪意の標的になるのは、当然でした。

担任の先生は若い女性で、そういった状況を見ても強く言えませんでした。
仕方のない事だと思います。

とある日の朝の会、先生が「うちの学校の校区で、ランドセルを背負ったまま野良猫を蹴る子供が見られました。」というお話をしました。
それを聞いて私は、ちょっとした悪戯を考えました。

その日の放課後、私は先生に「野良猫を蹴ったのは僕です。」と言いました。
先生は嘘を疑わず、私に「どうしてそんなことしたの!?」と、苛めっ子を咎めるよりも強い口調で私に問いました。
私は「汚れていて弱っていたので、蹴ってもいいんだと思いました。今日先生が、朝の会で、汚れていても、弱くても、蹴ってはいけないと教えてくれて良かったです。」
と言いました。
先生は押し黙り、泣いてしまいました。

次の日の朝の会で、野良猫の話は一切出ませんでした。
誰にも話されずに、この事件は自然と忘れられていきました。

先生は、その一年で学校を辞めることになりました。
お別れ会がクラスで開かれました。クラスの一人ひとりがメッセージカードを書いて、先生に渡しました。
私は、「一年間、僕の事を考えてくれてありがとうございました。」とメッセージカードに書きました。

先生は泣きながら学校を去っていきました。


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