王子に出会って、瞬く間に色づいたわたしのパリ生活。

2012年、9月。

あこがれていた海外での生活も半年ほどすぎたころ、わたしはとてつもなく日本に帰りたかった。仕事はなんとなくうまくいかず、気軽に遊べる友だちもいない。楽しいはずのパリでの生活は、秋に近づくにつれなんとなく暗くなっていった。毎日がつまらなく感じていたからか、フランス語が得意ではないせいでいつも断っていたフランス人の友人主催のピクニックに行くことを決めた。

フランス人は太陽の光をいっぱいに浴びてピクニックをするのが大好き。スーパーでバゲットとチーズとハム、それにワインを買って公園の芝生に広げれば、そこはあっというまにパーティーテーブルになる。それらをつまみながらおしゃべりしたり、本を読んだり、昼寝をするのがフランスの休日。

そんなピクニックで、突然彼に出会った。彼は、私を招いた友人の友人に連れられて来たのだという。

彼を初めて目の前にした時、わたしのからだじゅうを電流が走り抜け、こう思ったのだ。

「王子が現れた…!」

王子は、細い体で長めの髪の毛に黒ぶちのメガネをかけていて、日本語でわたしに話しかけた。どうしよう、こんなに素敵なフランス人が、ここ、パリにいたんだ。完全にわたしの心は踊っていた。こんなに自分の理想の見た目を兼ねそなえた人ははじめてみた、というくらいもうほとんどそれは一目ぼれ、だった。でもそれと同時に、「こんなにかっこよくて日本語も話せるんだから、日本人の女の子にモテモテ、いや、すでに彼女もいるだろう」と思いなおした。

ほんの3分前に一目ぼれした王子への思いに、少し早いがそっと蓋をすることに決めた。「こんな素敵な人に会えてよかった。この人はわたしの心のアイドルにとどめておこう。」と、こんな具合に深呼吸して心を静めた。本当に、この時はそう思ったのだ。見た目はパーフェクトだったが、彼とじゃなくても、当時は恋愛する気分ではなかったし。

と、心にそう決めた次の瞬間、王子はわたしに話しかけた。

「ねぇ、これからカラオケにいかない?」

平常心に戻った心が、またざわつく。一目ぼれして、その気持ちにあっさりと蓋をして、その蓋がぱかっと開けられるまでにものの10分ほどしかなかった。結局、王子と、王子をピクニックに誘った友だちと、わたしの友だちと4人でカラオケに行った。カラオケで何を歌ったのかはほとんど忘れてしまった。

覚えているのは、帰り際わたしが寒そうにしているのをみて黒いマフラーをかしてくれたことと、オペラ・ガルニエの前で「また明日ね」と言って去っていくうしろ姿。

「明日も会えるのかなあ」そう思いながら首に巻いたマフラーをぎゅっとにぎりしめて帰った。どきどき、していた。


あっというまに色づき始めたわたしのパリ生活。

忘れもしない、秋の始まり。

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