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愿以山河聘18(作者:浮白曲)の有志翻訳【中華BL】

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愿以山河聘リンク
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第十八章リンク
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翻訳

阿萌あーもん

阿萌あーもん衛郎うぇいらんを紹介しよう。」姫越じーゆえ衛斂うぇいれんに馴染ませたいと思い、阿萌あーもんに言った。
阿萌あーもんは人間の性質をとても良く理解している。マスティフ犬は一生にただ一人の主人を持ち、その他の人間には獰猛だ。姫越じーゆえが特に言い聞かせた人を阿萌あーもんは二度と傷つけないが、だがその態度は乗り気ではなかった。
姫越じーゆえの言葉は阿萌あーもんの前で衛斂うぇいれんに死刑を免れる金牌を与えるに等しい。
これまで阿萌あーもん姫越じーゆえの命令をよく聞いて従っていたが、今日に限っては簡単に同意したくなかった。
ご主人様はこの人類に惑わされているに違いない!犬が本性を暴いてやる!
阿萌あーもんは大人しく衛斂うぇいれんに挨拶をしなかったばかりでなく、主人の後ろ盾を恃んで再び傲慢になった。犬は牙を剥いて荒々しく低い声で吠え、衛斂うぇいれんに襲い掛かる姿勢になった。
衛斂うぇいれんはさっと袖で顔を覆い、姫越じーゆえの胸に更にぴったりとくっついて、言葉を震わせた:「陛下……」
姫越じーゆえはその人を腕に抱くと、不機嫌に言った:「阿萌あーもん、止めろ。伏せ。」
阿萌あーもん:「……」
犬は非常にしぶしぶ地面に伏し、敵意に満ちた丸い目で衛斂うぇいれんをじっとりと見つめた。
衛斂うぇいれんは恐ろしそうに犬を一瞥し、すぐにまた恐怖で顔を背けた。
阿萌あーもん:演技だ。また演技している。
衛斂うぇいれんの演技は自由自在で、この場面を見ていた官人たちは皆、彼は本当に犬が怖いのだと思いこんだ。ただ阿萌あーもんだけが真相を知っているのだが、言葉を話せないのでただワンワンと低い声で吠えて注意するしかなかった。
以前は彼の考えを良く理解してくれた主人が今日は何も分かってくれない。
「お前にも何かに怯える時があるんだな。」姫越じーゆえ衛斂うぇいれんの前で何度も面目を失ったが、とうとう優位に立って攻撃出来るものを見つけたので、すぐにからかってみせた。「お前は何に対しても大胆で物怖じしないのに、犬一匹でこんなに怯えるなんて。」
衛斂うぇいれんは唇を結ぶと少し躊躇い、小さく言った。「臣はただ陛下を信じているだけです、臣を傷つけたりしないと。他の人間や動物のことは信じられません。」
臣はただ陛下を信じているだけです。
このようにただ一人信頼されているという感覚は何とも不思議な気持ちだった。姫越じーゆえは少し目を細めたが、その言葉を信じているわけではなかった。
この世の中は嘘ばかりが多く、本当の言葉はとても少ない。どうして信じることが出来るだろうか。
各自が自分の必要なものを取るという取り決めからすべてが始まっている、衛斂うぇいれんの命は彼の手に握られている。蜜のように甘い言葉も聞き流すだけだ、そんなものを真に受けるのは愚か者だけ。
それが彼と衛斂うぇいれんの密約だ。
姫越じーゆえは心の奥深くに湧きあがった思いを無視して笑みを浮かべた:「阿萌あーもんは私の仲間だ。衛斂うぇいれんとは今日初めて会ったばかりだから少し警戒しているが、すぐに仲良くなる。お互い少しずつ気ごころが知れるようになれば仲良くなるさ、問題ない。」
阿萌あーもん:「!!!」
いやいやいや、犬はこの人類と仲良くなりたくない!
衛斂うぇいれんは困ったように言った:「でも、臣は犬が怖いです……」
「私がいれば阿萌あーもんは絶対にお前を傷つけたりしない。」
衛斂うぇいれんも何も言えなくなった。
「思い立ったが吉日だ。」姫越じーゆえは言った。「お前たち、今日から仲良くし始めるといい。」

十五分後。
阿萌あーもん衛斂うぇいれんはお互い顔を見合わせていた。
正確に言うと阿萌あーもん衛斂うぇいれんを食ってやれないことを不本意に思いつつ銅鐸ほどの大きな目で見ていただけだ。姫越じーゆえが傍で見張っているので仕方ない。ただ爪をしまい込んで口を閉じ、大人しいふりをしていた。
衛斂うぇいれん姫越じーゆえに背を向けていたので、それほど表情を取り繕わずにいた。目の前の金毛獅子頭を不憫に思い、眺める目には同情が浮かんでいた。犬であるお前にとっては演技を学ぶのは難しい事だろうな──私も面倒だよ。
阿萌あーもんは青年の目の奥にある同情に激怒した。狂ったように吠えてやりたかったが、主人が気になってしまい、口から出るのはウーウーという唸り声だった:その目は何だよ?犬には尊厳がある!同情は要らない!!!
衛斂うぇいれんは飄々とした視線を向けた:阿萌あーもんなんて呼ばれるマスティフ犬に尊厳なんかないだろ。
尊厳はその名前をつけられた時点で無くなっているよ。
阿萌あーもん:「……」
阿萌あーもん衛斂うぇいれんを引き裂いてやれないことを悔しがった。
衛斂うぇいれんもこの臭い犬を殺してやりたいと思っていた。
もし素早く反応しなければ、犬の爪に襲われて腹を引き裂かれてばらばら死体になっていただろう。
本当に衛斂うぇいれんが恨んでいないと思うか?
一人と一匹はお互いに相手を殺したいと思っていた。しかし他人の目には、青年は優しく親しみ深く、マスティフ犬は従順でいう事を良く聞いており、お互い十分仲良く和やかな絵面に映った。
姫越じーゆえはとても喜んでいた。
辰の刻(午前七時)を四十五分ほど回った後、彼らは養獣館を離れて養心殿に戻った。
姫越じーゆえは毎日まだ空が暗い卯の刻(午前五時)に起床し、一時間程朝議を行い、辰の刻になると帰ってきて、衛斂うぇいれんと朝食を食べる。
宮殿に戻った時、衛斂うぇいれんは突然あることを思い出して足を止めた。姫越じーゆえは気づいて尋ねた:「どうした?」
衛斂うぇいれんは首を横に振った:「なんでもありません。外に長く立っていたので、疲れたのかもしれません。」
彼はまだ病弱な公子の設定を続けていた。
姫越じーゆえは頷いた:「では早く戻って休もう。」
衛斂うぇいれんは同意した。
本当はわざとこう言うつもりだったのだ:「臣と一緒にいた官女がまだ戻ってきていません。彼女が戻ってきたら誰も居なくて困るのではないかと心配です。」
ただこの話をするだけで秦王がその官女を処刑するのに十分だ。
秦王はとても聡明なので、この話だけでその官女がわざと衛斂うぇいれんを死に追いやろうとしたことに気付くだろう。衛斂うぇいれんは王宮に不案内だ。養獣館が行ってはいけない場所になっていることを知らない。だが内部の者がそれを知らないことがあるだろうか?わざわざそこへ彼を連れて行く意図は?
衛斂うぇいれんの頭はいつも冴えている。あの犬を使って彼を死なせようとしたのが誰なのかは明らかだ。
彼は善良な人間に数えられることはなく、かつて自分を辱めた人間を皆殺し尽くしたし、彼を踏みにじった人間には皆同じだけのことをやり返した。衛斂うぇいれんはわずかな恨みも必ず返す。珠月じゅーゆえが彼に対して殺意を抱いて行動した以上、衛斂うぇいれんは彼女を生かしておくつもりはなかった。
人はいつでも自分の行動の代償を支払わなくてはならない。そうではないか?
珠月じゅーゆえは死ぬべきだが彼が原因で死ぬわけにはいかない、と衛斂うぇいれんは考え直した。
彼は善良ではないが、今は善良な人間の設定だ。もし彼の「何気ない一言」が原因で一人の命が失われることになったら、自責と後悔をどれだけ演じる必要があることか。善良な人であるためには毎夜悪夢にうなされる必要があるだろう。
すごく面倒だ。実際物凄く面倒すぎる。
衛斂うぇいれんは演じるのが面倒だった。
珠月じゅーゆえが犬の力を借りて凶行に及ぶのであれば、彼は刀を借りて人を殺そう。珠月じゅーゆえに自分の手で苦い果実を摘んでもらうすっきりしたやり方はいくらでもある。
それは衛斂うぇいれんがどの方法を使いたいかによって決まる。

珠月じゅーゆえは腹痛を装って衛斂うぇいれんの傍を離れた後、当然ながら手洗いへは行かず、養心殿へまっすぐに戻った。
西棟では珠翠じゅーついがまだやりかけの刺繍を続けていた。彼女たちは養心殿の大官女なので仕事がない時はとてものんびりと過ごしている。
珠月じゅーゆえがどこへ行ったかも知らない。珠翠じゅーついは針と糸を手に考えた。今朝あの子は扉を閉めて不敬な話をしていた。彼女をしっかり諫めたが、ちゃんと聞いていたのかどうかは分からなかった。それから出かけて行ってまだ戻ってきていない。
珠翠じゅーつい珠月じゅーゆえの関係はあまり親しいとは言えなかった。ただ同じ部屋に住んでお互いに助け合っているだけだ。珠翠じゅーつい珠月じゅーゆえが高慢なことを知っていた。珠月じゅーゆえは自分を未来の側室と考えて、容姿がそれ程でもない珠翠じゅーついを馬鹿にしていた。珠翠じゅーついは彼女よりは落ち着いた性格なので、言い争いたくはなかった。両者は表面上は仲良くしていたが、姉妹愛などは全くなかった。
珠翠じゅーつい珠月じゅーゆえが戻って来たことに気付いた。
「またどうしたの?」珠翠じゅーついは驚いた。「顔がすごく白いわよ、外で凍っちゃったの?」
珠月じゅーゆえは彼女を無視して白い顔をして人形のように寝台に座っていた。心は恐怖の余韻に怯えていた。
何しろ人を殺すのは初めての事だ。彼女の計算では一人の命を奪ったはずなので、心の中は当然緊張していた。
しかし後悔はしていなかった。
もし衛斂うぇいれんが本当に死んでいたら、口が耳まで割けるほどほくそえんでいただろう。
珠翠じゅーついは何かがおかしいことに気付いて真剣な口調で言った:「あなた一体何をしたの?話してよ。」
珠月じゅーゆえは激怒して言った:「私が何をしたっていうのよ!訳の分からないことを言わないで!」
珠翠じゅーついは訝し気に彼女を見つめたが、余り考えすぎない方がいいだろう、と考えた。彼女は口調を和らげた:「分かった、分かった。私が心配しているのが分からない?あなた体調が悪そうよ。今度は私の当番だから、あなたは休んだ方が良いわ。そろそろ陛下のご朝食が終わる時間だから、お仕えしに行くわね。」
珠月じゅーゆえは上の空で珠翠じゅーついの話を何も聞いていなかった。彼女の心は麻のように乱れていた。一方では衛斂うぇいれんの死の知らせを期待して待っており、また一方で事情がばれてしまったら自分はどうなるのかと心配をしていた。
いや、ばれるはずがない。公子れんは死んでいるはず。あのマスティフ犬に遭わなかったとしても、何も起きないだけで彼女が失うものはない。何事もなければ責任を追及されることもない。
珠月じゅーゆえは自分を慰め続けた。
珠翠じゅーついは彼女の魂が抜けたような様子を見て、軽く頭を振りながら扉を開いて去った。

秦王は毎日やるべきことが沢山あり、朝食を終えるとすぐに御書房へ大臣を招集して情勢について議論したが、衛斂うぇいれんは養心殿に留まっていた。
宮人たちが食卓の残り物を片付けた後、珠翠じゅーついが入ってきた。少し考えた後、衛斂うぇいれんの傍へこっそりと近づいて小さな声で言った:「公子、お知らせしたいことがあります。」
長い間考えた後、やはり珠月じゅーゆえの様子がおかしいと感じたので、公子に警告するのが間違いないだろうと思ったのだ。
衛斂うぇいれんは落ち着いて他の官人たちが皆退出するのを待ってから言った:「うん?」
「これはただ奴婢の推測に過ぎませんが、」周りに誰も居なくなったので、珠翠じゅーついはわずかに気を緩めた。「珠月じゅーゆえにお気を付けください。」
衛斂うぇいれんは表情を変えず、彼女が話を続けるのを待った。
珠翠じゅーつい衛斂うぇいれん珠月じゅーゆえが誰なのか覚えていないだろうと思った。養心殿の宮女は多いので、一人一人皆を記憶することは出来ない。陛下に至っては国事については一度目を通せば忘れることはないが、人のことには関心が薄かった。李福全りーふーちぇんを除いては、陛下が名前を憶えている者は養心殿中に一人もいなかった。
今となってはもう一人、公子れんもいるが。
珠翠じゅーつい珠月じゅーゆえが如何に秦王を慕っているか、如何に希望的妄想を抱いたか、如何に衛斂うぇいれんに対して良からぬことを考えているか、今日のこそこそと後ろめたそうな様子がどうだったのかを全て話した。彼女は珠月じゅーゆえには全く仲間意識が無く、目の前の玉のような穏やかな公子に対しては強い哀れみと説明出来ないほどの好意を抱いている。珠月じゅーゆえの為に隠し事をする気はなかった。
衛斂うぇいれんはそれを聞いて、思った:「なるほど。」
話をしたのは初めてなのに、どうして官女から殺意を向けられるようになったのか。それは秦王の腐った桃の花だったからだ。
珠翠じゅーついは言った:「公子は十分お気を付けください。彼女はいつまでも手をこまねいてはいないと思います。」
手をこまねいているどころか、既に彼を死地に送ろうと奸計を実行している。
衛斂うぇいれんは多くを語らず、ただこう言った:「わかりました。注意してくれてありがとう。」
珠翠じゅーついは頭を下げ、小声で言った:「公子をご心配するのは奴婢の仕事の範囲ですので。」
衛斂うぇいれんはただ笑って何も言わなかったが、内心では既に警戒を始めていた。
……彼もまた一枝の桃の花を引き寄せたようだ。
この娘は一体どうしてこう簡単に人を好きになれるんだろう。
彼は当初珠翠じゅーついに近づいたのは情報を探る為だった。人の感情を弄ぶつもりはなかった。彼は掛け値なしの断袖なので、女の子に何も応えてやることは出来ない。
珠翠じゅーついの様子を見るに、この秘密の情報源はもう今後使うことは出来ない。
姫越じーゆえと同じく、衛斂うぇいれんも利益関係外の感情の絡む関係を好まなかった。

珠翠じゅーついが西棟に戻った時、顔にはまだ笑みが浮かんでいた。
また公子に会い、一人で公子と話した。喜ばずにいられない。
公子はなんと素晴らしいことか。彼女は一目惚れをし、近づく度にさらに好きになっていった。
珠翠じゅーついの興奮した様子は珠月じゅーゆえの絶望とは鮮明な対比を為していた。彼女の喜びが余りに猛烈だったので、珠月じゅーゆえは我慢出来ずに聞いた:「何がそんなに嬉しいの?」
彼女は頭の中にあれこれと湧きあがる考えから気を逸らす為に何か他のことが必要だった。
珠翠じゅーついは笑って言った:「何もないわ。ただ公子が食後に私とお話してくださっただけ──あっ!」うっかり口が滑った。
珠翠じゅーついはあわてて口を閉じて黙り込んだ。
しかし珠月じゅーゆえはその話を聞いた瞬間顔から血の気が引いた。
衛斂うぇいれんは死んでいない?!


衛斂がナチュラルに阿萌と意思疎通しているのが笑えます

分からなかった所

特になし

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