見出し画像

愿以山河聘14(作者:浮白曲)の有志翻訳【中華BL】



本家リンク

愿以山河聘リンク
https://www.jjwxc.net/onebook.php?novelid=4439761

第十四章リンク
https://www.jjwxc.net/onebook.php?novelid=4439761&chapterid=14


翻訳

秦王として姫越じーゆえは数えきれないほどの美辞麗句を聞いてきた。あるいは彼の長寿を祈り、あるいは後世に残る名声を称えた。その言葉に真情はなく、虚礼に過ぎない。姫越じーゆえは何とも思っていなかった。
こんな日が来るとは考えたこともなかった。ごくごく簡単な一言が琴線に触れるなど。
──人心は邪悪ですが、あなたの心は違います。何を恐れることがあるでしょうか?
秦王がずっと望んでいたのは、賛美されることではなかった。
望んでいたのは、恐れられないことだ。
これは彼が一心に望んでいたが、手に入れることが出来なかったものだ。
姫越じーゆえは測りがたい表情で衛斂うぇいれんを見つめた。青年は白い衣を翻し、見つめるに任せた。
暫くして姫越じーゆえはゆっくりと言った:「私が舌を切るように命じるのは、これは凶悪な行いだ。太后は私が王位につくのを助けたが、その後私は彼女の一族を処刑した、これは恩知らずな行いだ。私は領土開拓のため死体の山を築き血の海を為した、これは貪欲な行いだ。私は目的の為には手段を選ばない、これは下劣な行いだ。」
彼は唐突に軽く笑った:「衛郎うぇいらんは人心は邪悪だと言うが、私も全く同じだ。世界中の人々が私を恐れる。お前は何故私を邪悪ではないなどと言えるんだ?」
衛斂うぇいれんはその言葉に迷わず答えた。「宮人が主君を悪し様に言えば、殺されるべきです。太后は朝廷を牛耳り法を無視したので、誅されるべきです。六国の群狼は悪事を企てようと常に様子を伺っているので、戦うべきです。君王が行うことはただ結果だけが問われるので、為すべきです。」
「陛下がなさることは、全て君主の道です。世人は君主に聖人であることを求めますが、乱世に和を以て貴しとすれば、最後には群狼に呑まればらばらにされてしまうのです。暴君となるか、亡国の君主となるか、あなたに選択の余地はありません。天下の人々は誰もそれを理解しようとしないのです。」
彼はこれを淀みなく、ほとんど考えることもなく答えた。姫越じーゆえは一瞬唖然として、小さく言った:「だが、お前は理解している。」
姫越じーゆえの瞳に光が生れ、ごくわずかに笑った:「衛郎うぇいらん、もっと早くお前に会いたかった。」
「褒めすぎです。」
「あの大臣たちに本当の美人とは何かを見せてやろう。私は彼らを口先だけでなく心から感服させてみせる。あんな教養のない女たちなどお前の足元にも及ばない。宮廷画家に知らせて……いや、待て普通の画家がどうしてお前の風格が描けるだろう?」姫越じーゆえは気に入った者に対して自分の好意を隠そうとしない。足早に机に駆け寄ると紙と筆を広げた。「私が自分でお前を描こう。」
「陛下は臣の肖像画が欲しいのですか?」
「当然だ。」
「しかし、陛下は人物画は描かれないと聞きました。」衛斂うぇいれんの目がかすかに煌めいた。
秦王は暴君として知られているが、風雅を解さないわけではなかった。琴、碁、書画、これらはすべて貴族の師弟の必修課題だ。
秦王は子供のころから類を見ないほど聡明で、絵画においては入神の域に達していた。造詣が深く、八歳には先王の為に描いた『祝寿図』が天下に名を馳せた。この絵画のおかげで、先王がこの聞いたこともなかった子供に気付き、関心を持つようになった。
泰王の技巧は卓越しており、風景画、花鳥虫魚、全てに熟達していた。
しかし皆が知るように、泰王は人物画は描かなかった。苦手なので短所が露見しないように描くのを避けているのだという噂もあったが、所詮は噂にすぎない。
「誰も描くに値する者がいない。」姫越じーゆえは筆をとり、流れるように描き始めた。「従来、表面を描くのは簡単だが、内面を描くのは難しい。美人は内面にあり、表面にはない。私は人間の表面を描くことに興味はない、衛郎うぇいらんだけは表面も内面も兼ね備えた美人だから描きたいと思ったのだ。」
これは非常に栄誉ある賛辞だ。
衛斂うぇいれんは窓の前に立ち、姫越じーゆえが筆を止めると尋ねた:「描き上がりましたか?」
「出来た。」姫越じーゆえは絵筆を置いた。「ちょっと見てくれ。」
衛斂うぇいれんはすぐに近寄って驚いた。素晴らしい技術だ、と心の中で呟く。
彼は琴、碁、書画に精通しており、絵画については秦王とそれほど差はないだろうと思っていたが、一目見て思い知った。秦王がこれで人物画が不得手なら、画力については明らかに秦王が上だ。
衛斂うぇいれんは窓辺に立っていたが、秦王は絵の中で彼を雪の中に立たせた。後ろには白雪で覆われた黒い屋根瓦の宮殿が重なっている。彼は一本の紅梅の傍に立ち、雪のように白い狐の毛皮を纏っている。目を上げて軽く微笑む顔は真に迫っていた。
「本物のようです。」衛斂うぇいれんは微笑みながら長い間それを見つめた。
衛郎うぇいらんがここに何か言葉を書いてくれ。」姫越じーゆえが言った。
衛斂うぇいれんは少し考えて筆を取ると、紙の上に「国」の一文字を書いた。
抑制の利いた中に激しさを隠し持つ精妙な筆遣いだ。
字もその本人のように非常に美しく、穏やかさの下に軽妙さがあり気骨が感じられる。
姫越じーゆえは心の中でまず賞賛のため息をついたが、少し退屈でもあった。衛斂うぇいれんは「国秦民安」の類の縁起の良い言葉を書くのだろう。
しかしまたしても意表を突かれることになった。
衛斂うぇいれんは八文字を書き終えた。
風華絶代、国士無双
(その風采と文才は古今を通じて稀であり、国中で並ぶ者のいない優れた人物であるという意味)
姫越じーゆえの目の端を細めた。
この八文字は誇大ではなく、衛斂うぇいれんをよく表していると感じた。だがこの八文字を衛斂うぇいれんが自分で書いたと考えると……
姫越じーゆえは少し笑ってしまう。
公子れんは少し自惚れが強いのではないか。
しかし姫越じーゆえはこの種の行動が好きだった。彼の目の前では上辺だけの言葉を弄するものが多く、うんざりしていた。衛斂うぇいれんがこのように思い切りよく好き勝手に振舞ったので、彼は却って本当に好ましく感じた。
おそらくそれは行う人によって異なる。彼は目下衛斂うぇいれんを気に入っており、衛斂うぇいれんに対しては受容限度が非常に高くなっている。もし見知らぬ者が秦王の目の前で「私は国士無双だ。」などと大口を叩いたなら、姫越じーゆえは穏やかに笑ってその人をつまみ出し、斬り捨てるだろう。
「風華絶代、国士無双」姫越じーゆえは声に出して読み上げた。声には笑いが隠し切れなかった。「衛郎うぇいらん、お前は身の程知らずにもほどがある。」
「臣は陛下にお手づから絵を描いて頂くに値する者なのですから、当然この評価にも値します。」衛斂うぇいれんは顔色一つ変えずに答えた。
「いいだろう!」姫越じーゆえは手を叩いた。「お前のその高慢さが好きだ。」
衛斂うぇいれんはただ笑って何も言わなかった。
彼は理解していた。秦王は面前で派手によく話す人物を嫌い、尊大で思い上がっていると言って殺し、内気すぎる人物も嫌って、朴訥で面白みがないと疎んじた。恭しく振舞うのを嫌い、身分を弁えないのも嫌った。
衛斂うぇいれんはこれを的確に把握していた。恭しく穏やかな衛斂うぇいれんが偶に奔放に振舞い、知識と分別がありつつ短気な所を見せることで、秦王は新鮮に感じ、殺したいとは思わなくなったのだ。
衛斂うぇいれんの秦王に対する態度は勝手気ままに見えて、その実全て綿密に計算した結果だ。一挙手一投足が全て適切に行われた。このように非常に難易度が高いことを普通の人がやっていれば、もう八百回は死んでいるだろう。
しかし彼は衛斂うぇいれんだ。
衛斂うぇいれんは気まぐれな君王の心を掴んだことで満足しなかった。
人の心はこの世で最も理解するのが難しいものであり、君主の心となれば猶のことだ。
秦王は簡単に騙せるような人物では絶対になく、今の彼に対する興味は一時的なものだ。
彼はまだ先の長い道のりを行く必要がある。

養心殿の生活はとても心地良かった。衛斂うぇいれんが今や寵を得、帝王の寝殿に住んでいることを宮中の人々は皆知った。誰も彼を軽んじる者はいなかった。衣装は最も美しいものが送られてきた。食事もまた最高に手が込んでおり、冬を凌ぐための寝具も万全で、決して寒さや飢えを感じることはなかった。
実際にはその必要はなく、彼はほとんどいつも秦王と一緒に住み一緒に食事をした。君王の為のものは当然最高級だ。そして衛斂うぇいれんもその相伴に預かった。内務府はもう何一つ必要なものを切らしたりすることはなかった。最初の半月の誰もが侮辱してきた日々とは天地の差だ。
美しい衣服に美食、化粧品に膏薬が山積みになり、豚でさえあっという間に太って肉にされてしまうだろう。
衛斂うぇいれんは最近腰ひもに緩みが無く、自分が少し太ったことに気付いた。ある日起きて着替えようとすると、帯が緩くないことに気付き、驚いて減量を開始した。
彼は今も自分の容貌をとても重視している。秦王は美人にも容赦しないが、醜いものには猶更容赦しない。
重要なのは平時にあっても危険に備えておくことだ。秦王はこのところ彼に対して非常に好意的だが、安逸な日々が長く続くと頭が鈍ってしまい、どんな油断が秦王を怒らせることになるか予測出来ない。
衛斂うぇいれんはよく食べてよく寝ることだけを望んでおり、他には何も求めなかった。だが自分の運命が他人に握られているのも嫌だった。毒薬を飲まされたことは言うまでもない。秦王は非常に短気なので、談笑していたかと思うと一瞬の後にはどうやって死んだのかも分からないかもしれない。このような人に付き合うのはとても危険なので、衛斂うぇいれんは早く抜け出したいと思っていた。
他人の優しさに自分の命を委ねるなど、そんな馬鹿げたことはない。
衛斂うぇいれんは死んだふりをして逃げだすことを計画していた──実行するのは二十歳の誕生日以降になるだろう。その前に実行することは出来ない。死んだふりが本当の死につながる可能性が非常に大きい。彼の師傅が語った「命を失う相」はいまだに恐ろしかった。
彼は一生王宮に閉じ込められたいとは思っていない。生まれながら籠の中にいる小鳥だけが飼育されて喜ぶ。しかし彼の心は広い空を駆ける大鳥だ。
自由がないなら死ぬまでだ。

目下の最重要課題は減量計画だ。
楚王宮に居た頃は衛斂うぇいれんは無人の中庭で剣の鍛錬をすることも出来た。だが今は出来ない。秦王宮内では秦王の密偵の目がどこにあるか分からず、「鶏を縛る力もない公子」である衛斂うぇいれんは食事制限をするしかなかった。
具体的には秦王が取って寄越す肉類には一切触れずに皿に放置し、ただあっさりしたものだけを食べた。
姫越じーゆえは細かい心配りを見せ、優しく尋ねた:「衛郎うぇいらんは食欲がないのか?」
衛斂うぇいれんは頷いた:「近頃はあっさりしたものが好きになりました。ご心配ありがとうございます、陛下。」
李福全りーふーちぇんは傍に控えており、すぐに言った:「うぇい侍君、あなた様は侍君です。あなた様が陛下にお仕えするべきなのに、どうして陛下にご心配をかけたり出来るのでしょうか?」
衛斂うぇいれんは彼を見て何も言わなかった。
官人は目に同情を浮かべた。
李福全りーふーちぇん:「???」
何かがしっくりこないと感じた。彼はこの三、四日怪我の養生のため休養していた。出勤してみれば何故この世界は変わってしまったのだ?
姫越じーゆえは箸を置き、静かに言った:「話し過ぎだ。」
李福全りーふーちぇんの心臓はどきどきと動悸を打った。また何か逆鱗に触れてしまったのか。
彼は陛下と十二年共にいる。子供の頃から陛下に仕える宦官の数は数知れないが、長となるのはただ一人だけだ。李福全りーふーちぇんはいつも姫越じーゆえについて考えており、その誠実さには偽りがなかった。
彼は陛下が何かを心から愛しているのを見たことがない。陛下は幼い頃、一羽の兎をとても可愛がっていた。夜寝る時も抱いて眠り、人間のように話しかけ、兎の大好物の大根の葉を食べさせた。
しかし、その兎は太后がやってくると駆け寄り、太后に抱き上げられて可愛いと褒められた。太后が帰った後、兎は陛下の手で厨房へ送られ煮込みにされた。
夕方、太后がまたやって来た時、陛下は太后に食事をとるよう引き留めた。太后は食卓の角煮が良く出来ていると感じて何気なく聞いた:「ゆえや、これは何の料理ですか?」
十二歳の少年は唇を引いて軽く笑った:「昼に母上が抱かれたあの兎です。食べてみても可愛いですか?」
太后は顔色を変えると、すぐに立ち去った。
このような事は枚挙に暇がない。陛下はあるいは何かを愛することもある、しかしそれは一時の興味に過ぎず、長くは続かない。李福全りーふーちぇんは、このことをはっきりと認識していた。
なので今度はうぇい侍君が寵愛を得ていると聞いても、真剣に受け止めていなかった。
その後に陛下がどれほど衛斂うぇいれんを嫌おうとも、少なくとも現在のところ衛斂うぇいれんは彼の機嫌を損ねてはいない、ということを忘れていた。
彼は何度か職分を超えてしまい、陛下の禁忌に触れた。
我に返った李福全りーふーちぇんは額中に冷や汗をかきながら、即刻跪いて謝罪した:「奴婢が僭越でした。」
「同じことを繰り返すな。」姫越じーゆえは無表情に言った。「もし次回があるなら、私が昔の情を覚えていなかったなどと責めるなよ。」
李福全りーふーちぇんは震えながら体を起こした:「……承知いたしました。」
「それから、」姫越じーゆえは突然「侍君」という称号が理由なく青年を侮辱するようで少し不快に感じた。「命を伝えろ。宮中の者は皆、衛郎うぇいらんを公子と呼ぶように。夫人の位と同じ待遇とする。」
李福全りーふーちぇんは頭を下げた:「承知いたしました。」
彼は養心殿を退出した。部屋の熱が消えると外を吹く雪風が打ち付け、李福全りーふーちぇんは寒さに震えあがった。そしてすぐに、自分が恐ろしさで冷や汗をかいていることに気付いた。
彼は若い宦官に陛下の命令を伝えるように命じ、扉枠に寄りかかって汗を拭きながら心の中で考えた。:この公子れんの腕前は本物のようだが、いつまで王の寵を維持することが出来るだろうか。
「勿論、公公ごんごん(宦官に対する敬称)が考えているより長く、です。」珠のように麗しく優しい声が背後から聞こえ、李福全りーふーちぇんは恐怖で背中を壁にぶつけた。心臓が固まった。
衛斂うぇいれんは微笑んだ:「公公ごんごん、気を付けてください。」
李福全りーふーちぇんは無意識にまた体が震え、荒唐無稽な錯覚を覚えた。この公子れんは温和で優雅に笑いながら、笑顔の下に刀を隠し持っている。その表情は陛下と全く同じものだ。
うぇい侍……」李福全りーふーちぇんは口を開いてすぐに陛下の命令を思い出し、慌てて改めた。「うぇい公子はどうして外へ出てこられたのですか?」
「外の空気を吸いに。」衛斂うぇいれんは穏やかに答えた。
李福全りーふーちぇんは礼をして立ち去ろうとした:「それでは奴婢は失礼して……」彼は今は衛斂うぇいれんと交流したくなかった。この人物はいささか危険だ。
……陛下と同じように危険だ。
「それと、公公ごんごんとお話もしたいと思って。」衛斂うぇいれんはさりげなく付け加えた。
李福全りーふーちぇんの足は止まった。


衛斂の現れ方がホラー

分からなかった所

诺:今更ですけど、仕えている人たちが何か命じられた時に「诺」と返事するのですが、Google翻訳にかけると「いいえ」と訳されるのは何故。誰も言うことを聞かない王宮になってる。

#愿以山河聘 #願以山河聘 #中華BL #中国BL #BL


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?