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愿以山河聘10(作者:浮白曲)の有志翻訳【中華BL】



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愿以山河聘リンク
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第十章リンク
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翻訳

毒見

その夜、衛斂うぇいれんは養心殿に引っ越した。
これは過去どの王后も得られなかった栄誉だ。王后は椒房殿に住み、毎月一日と十五日は君主を独占する。普段は君王は妃妾を召し、通例では輦車れんしゃで后妃の寝殿へ行く。后妃を養心殿に来させることがあっても、子の刻(午後十一時)を過ぎれば送り返さなくてはならなかった。
より寵愛が深い場合は夜が明けて君王が朝議に出るために着替えるのを手伝い、その後帰宅する。養心殿は天子の場所で、龍の伏す場所、真の主人は永遠に只一人だけだ。
しかし衛斂うぇいれんの様子ではその場所に長く住むつもりのようだ。明らかに陛下の命令によるものだ。
この王朝の後宮には后も妃もなく、衛斂うぇいれんが寵を競う相手は誰もいない。
傍目から見ると、衛斂うぇいれんはまさしく幸運だった。陛下の恩寵を受け、栄華、富貴、権勢、地位を全て容易く手に入れることが出来ないはずはない。
人質の公子は元は秦王宮では誰もが踏みにじる泥のように卑賎な者だったが、ひとたび見出されて高い位置へ登ると、ある者は羨み、ある者は嫉妬した。少なからぬ宮人が心の中で、王の傍にいるのは虎の傍にいるのと同じ、今日は華やかに歩んでいても明日には首が地に落ち転がることになるかもしれない、と考えた。
他人が何を考えていようと衛斂うぇいれんは知らなかったし、知ったとしても気にしなかった。
養心殿はとても暖かく、食事はとても豪勢で、布団はとても分厚い。衛斂うぇいれんは非常に満足した。
秦王はどうか?それはどうでもいい。あっというまに高い地位に押し上げてくれて、良い生活を送らせてくれる単なる道具だ。
君王の愛情は愚か者が求めるもの。衛斂うぇいれんには不要だ。彼はずっと現実主義的で、栄華富貴を追い求めることは終始なく、恋愛感情についても全く興味がない。
この点は秦王も同じで、双方は即座に意気投合し、それぞれが必要なものを得、良好な協力関係を築いた。
この時、衛斂うぇいれんは協力者の食卓に侍っていた。
夕方になると養心殿には食事が運ばれ、宮女が木製の机の上に美味佳肴を次々と素早く並べる。
吉祥如意餅、瑪瑙糖酸魚、八宝玲瓏燕の巣、翡翠緑豆巻……ごくごく普通の料理が宮廷に入って、豪華で気取った名前を付けられ、王家の高貴を纏う。
姫越じーゆえの目には何という事もなかったが、半月を饅頭と漬物ですごし、昨晩は何も食べていない衛斂うぇいれんにとっては──彼は今すぐ秦王を押しのけて自分が食卓に着き、全てを食べ尽くしたいと思っていた。
しかしそれは出来ない。
規則によると、衛斂うぇいれんは食事が出来ないだけでなく、秦王の傍に侍り、食事の世話をしなくてはならない。
狗、皇、帝。
衛斂うぇいれんは大人しく顔を俯け、豪勢な料理に目をやらないように努力しながら、秦王の傍に立った。
汁物からゆらゆらと熱い湯気が立ちのぼりとても美味しそうだ。食卓には華やかな料理が並び、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
侍従は銀の針で毒が入っていないか一つ一つ調べた。その傍には毒見の宦官たちが命令を待って静かに控えていた。衛斂うぇいれんは目を上げて、世の中には銀の針で試したところで検出できない毒が沢山あり、即効性はなくとも人を殺すことの出来る薬も沢山ある、と考えていた。
君王が命を惜しんだとて、人の命を奪う手段を全ては防げない。衛斂うぇいれんがそうしたければ、彼らの目の前で毒を盛ることも出来る。
衛斂うぇいれんはかつて縁あって出会った師から全ての技を継承した。医術、毒、武術、兵法と謀略、詩歌詩句について議論すること、琴、碁、書画、様々なことに精通し、奇門遁甲や五行八卦の占術にまで通じていた。
師傅も彼の並外れた天賦の才に驚いていた。
衛斂うぇいれんはまた人心を篭絡し自分の味方とすることも出来た。楚王はその功績を恐れて護国将軍をその一族郎党まで全て処刑したが、衛斂うぇいれんは密かに画策して死刑囚とすり替え、将軍一族を救出した。
楚王が回収した虎符は偽物だ。本物は護国将軍の手中にあり、衛斂うぇいれんの命に従う。
師傅は天の意図を伺い知ることの出来るほどの高みにあり、かつて彼の為に卦を立てた。彼の運命は非常に高貴だ、しかし二十歳より前は才能を隠し密かに力を蓄える必要がある、そうしなければ命を失う相が出ていると断言した。
現在彼は十九歳で、二十歳まであと一年だ。
もう一年耐えればいい。どうにかして解毒薬を騙し取り、秦王の支配から逃げ出さねばならない。死を装って秦国を離れ、天下を自由に放浪するのだ。もしくは思い切ってこの狗皇帝を暗殺し、自分が天下の主となってもいい。
当面の悩みは依然として体内にある毒だ。
誰かに行動を縛られるのは嫌いだ。衛斂うぇいれんは丸薬を飲んだ時、心づもりがあった。自分で解毒薬を作ろうと思い、少し表面をこすり取って粉を指につけておいた。しかし王室が密偵を統制するための手段であるだけのことはあって、当然そう簡単にはいかなかった。衛斂うぇいれんには手掛かりがなかった。
目下のところは気にしないようにするしかない。
命を失う相とはまさかこの毒薬のせいではないではないだろうな?

銀の針での確認は終わり、異常はなかった。衛斂うぇいれんはそれを見てこの卓上の料理は問題ないことだろうと考えた。
宦官が試食しようと箸を取った時、衛斂うぇいれんは突然言った:「陛下、臣が試食いたします。」
彼の口調は穏やかだったが、そこにいた全員が衝撃を受けた。
……まさか死に急ぎたい人がいるなんて?
秦王が憎まれていることを知らぬ者はない。彼らの陛下の名は七国の暗殺対象名簿の一番上に載っており、刺客達の注目の的だ。
試食担当の宦官は危険な職業で、前任者の死により時々交代していた。
宮人たちが衛斂うぇいれんを見る目は愚か者を見る目だった。こんなに美しい公子なのに、この歳でどれだけ頭が軽くて鈍いのか、と思った。
ただ試食担当宦官は彼を救世主を見る目で見た。
……あるいは身代わりを見る目。
姫越じーゆえは「ああ」と一声言った:「この試食は毒見だと分かっているか?」
衛斂うぇいれんは答えた:「分かっています。」
「死ぬのが怖くないのか?」
「陛下の為に死ぬのであれば幸いです。」この話を秦王は信じていいのか分からなかったが、衛斂うぇいれん自身は信じていなかった。
姫越じーゆえは微笑し、心の中で言った。お前の腹は分かっている。
ただ食べたいだけだろう。
瑪瑙糖酸魚をずっと見つめていたのを私が知らないとでも思うのか。
衛郎うぇいらんが危険を冒すのをどうして私が放っておけるだろう?」姫越じーゆえは言った。「衛郎うぇいらんは座って私と一緒に食事をするように。」
衛斂うぇいれんは口では「恐れ多いことです。」と言いながら、座る速度は異様に早かった。
毒見についても何も言わなかった。元々彼の目的は食事をすることだ。
さもなければ、秦王の食事の世話が終わるまで待ってから、彼自身はそこで冷たい残り物を食べることになる。彼が養心殿にやってきた意味とは何だ?
彼がとっとと座ったのを見て、姫越じーゆえの目にはちらりと面白がるような光が浮かびすぐに消えた。
ただ彼はそんな素振りも見せず唇を引き締めた。
毒見の行程はまだ終わっていない。宦官は恐る恐る試食を行い、自分の命がまだあることに気付くと大きなため息をついた。
命が惜しくない者がいるだろうか?上は君王から下は奴婢に至るまで、皆生きていたいと思っている。
衛斂うぇいれんもまたそうだった。
楚国の王族の食事には「食べるのは三箸まで」という規則があり、どんな料理も例外なく三回より多く箸をつけてはいけなかった。好みを明らかにしないことで、悪意のある者に利用されないようにするためだ。
だが秦国にはそのような規則はない。
彼らは演技する必要があることを忘れなかった。それは宮人の口を通して大臣の耳にも入る。
彼らは同じ食卓に着いた。秦王は彼を甘やかし、時々瑪瑙糖酸魚を取り分けて与えた:「衛郎うぇいらんは痩せすぎだ。この魚をもっと食べて栄養をつけろ。」
衛斂うぇいれんも水晶蝦餃子を秦王の皿に取り、優しい声で言った:「陛下ももっと召し上がって下さい。」
これら一切を養心殿中の官人が目撃し外に伝えたので、公子れんがいかに寵を得ているかは広く知られることになった。
秦王の膝に座り口から口へ食べ物を与える妖妃とほぼ変わらない。
しかし衛斂うぇいれんはそこまではしないつもりだ。彼と秦王は表向きは互いに食べ物を食べさせ合うほど愛し合っているように見えるが、実際には取り箸で取り分けただけだ。
彼らはお互い唾液がつくのが嫌だった。
衛斂うぇいれんは秦王の皿に適当な料理を載せて機嫌を損ねるようなことはしないよう気を付けていた。
珠翠じゅーついの言ったことは正しかった。秦王の好き嫌いは苛々させられるほど酷かった。葱、生姜、大蒜を食べないことに留まらず、酸っぱいもの、苦いもの、辛いもの、生臭いもの、脂っこいもの、薄味の汁物、これらを一切受け付けない。また少しでも味が薄いと全く食べなかった。
幸いなことに彼は秦王だ。もし普通の庶民であれば、すぐに餓死していただろう。
秦王の味の好みは変わっていた。水晶蝦餃子を除くと、他には甘い菓子を食べるのも好きだった。ふんわりと柔らかく、べたつくほど甘い、小さな白兎の形をした菓子が特に好きだった。
輝かしくも気分屋の暴君がこのような甘い菓子を食べて機嫌が良くなる青年だなど、誰が想像するだろう。
姫越じーゆえが満足そうに食べているのを衛斂うぇいれんは無表情で眺めた。
古往今来、暴君の名を冠する者は皆、奢侈や淫行、酒池肉林に耽り、人肉を食べるという馬鹿げた噂さえあるものではないか?
でもこれは、更に馬鹿げている。
甘い菓子を食べるだけでなく、可愛いものを食べることに拘っている。
暴君界の面汚しだ。


チベスナ顔とはまさにこのこと

分からなかった所

糕:Google翻訳だと「ケーキ」になりますが、どう見てもケーキではない……。もちとか蒸しパンと訳されているのも見ます。検索すると、ういろう的なものからもっとドライな感じのまで色々あるみたい。

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