見出し画像

愿以山河聘16(作者:浮白曲)の有志翻訳【中華BL】


本家リンク

愿以山河聘リンク
https://www.jjwxc.net/onebook.php?novelid=4439761

第十六章リンク
https://www.jjwxc.net/onebook.php?novelid=4439761&chapterid=16


翻訳

美しい夢

姫越じーゆえ衛斂うぇいれんと手を交えたのは何度目になるか分からないが、今回もまた敗北に終わった。
単なる口先のやり取りでは、おそらく一生あの青年に敵わない。
衛斂うぇいれんの舌鋒は鋭く、反応は早い。更に重要なのは、例えどんな状況に直面しても冷静さを保つことが出来、こちらの想定を超えて反撃することが出来るということだ。
俗にいう鉄面皮だ。
結局のところ姫越じーゆえは君王であり、いついかなる時も多少は体面を気にしている。
その夜、牀榻の上。
傍の青年は安らかに眠りに落ちた。
姫越じーゆえは何度も寝返りを打ち、眠れずにいた。
体を覆っている錦の布団を見つめていると、昼間青年が作った官能的な詩が頭の中に浮かんできた。
錦の布団は乱れ、愛しい男を覆い、夜明けまで揺れていた。
くそったれ、何が愛しい男を覆い、夜明けまで揺れていた、だ。
姫越じーゆえはそこまで聞いた時に呆気にとられた。
彼は隣で熟睡している衛斂うぇいれんに複雑な視線を向けた。青年は一尺の距離を隔てて背を向けて横になり、真っ暗な中にただ輪郭が見えていた。
こんなにも優雅なのに、あんなにも物凄いことを言うとは。
確かに人は見た目で判断出来ない。
姫越じーゆえは心中で考えながら目を閉じる。
夢を見た。
顔がはっきりとは見えない白い服の青年の夢だ。暗紅色の唇から耐えがたいような言葉を吐き出す。そのひと言ひと言は全て、彼が童貞であることを嘲り笑うものだった。思いがけず猥雑な言葉を聞かされて慌ててしまう。
なんと不条理で、なんと傍若無人な。
姫越じーゆえは彼の舌を切りとって黙らせたいと思った。
しかし夢の中なので、何度「誰か来い。」と呼んでも誰も来なかった。
姫越じーゆえは少し考えてから思い切って大股に前へ進み、青年の腰に腕を回すと身を屈めて口づけして青年の唇を封じ、それと共に償い難いほど腹立たしい言葉も封じた。
青年は驚いて声を上げ、両手を彼の胸に当てたが、押しのけることは出来なかった。
ただ頭を仰向けてされるがままになっていた。
煩わしい言葉は歯の隙間に消え、ただかすかな喘ぎが漏れた。
口づけをされて目は真っ赤になり、唇はわずかに腫れ、息も絶え絶えだった。青年は弱弱しく呼んだ:「陛下……」
姫越じーゆえは頭が真っ白になり、彼の腰を引いて抱き寄せた。
夢の中で場面が代わる。牡丹のように赤い紗の帳が垂れ、蝋燭の灯りが二人の人影をぼんやりと映し出す。
彼はその人を寝台の上に押さえつけて交わった。青年の両手は彼の首に回され、指先は力なく垂れ、顔はほんのりと赤らんでいた。
漂煙と流水が描かれた屏風が外側に立てられ、部屋の中の水音を隠していた。
「陛下。」青年が小さく哀願した。「……お許しください。」
彼は腕の中にいる人に得意気に軽く尋ねた:「今もまだ私を童貞だと笑えるのか?」
「笑いません、笑いません。」青年は息を飲んだ:「陛下はまさしく立派な大人の男です。」
姫越じーゆえは戦いに勝ったことを誇らしく思った。彼は満足そうに青年の顎を持ち上げて口づけようとしたが、涙に潤んだ青年の顔を見て体が固まった。
それは衛斂うぇいれんの顔だった。
その時鋭い鶏の鳴き声が聞こえ、驚いた姫越じーゆえは寝床から起き上がった。
夜は明け、鶏が鳴いている。
……なんと彼は一晩中淫らな夢を見ていたのだ。
夢の中の人は衛斂うぇいれんだった。
彼の顔色は赤くなったり青くなったりした。
通常、王族は十三、四歳になると宮女に手引きをしてもらう。当時姫越じーゆえは教育担当の宮女を追い出し、長年その方面の事に関心を持つことが無かった。
彼はこれまでずっと寡欲で、寝床に侍る女を召すこともなく、自慰さえ一度も経験がなかった。二十一歳にして初めて淫夢を見た。相手は同じ男性、姓はうぇい、名はれんという人だった。
これも分からないことではなかった。姫越じーゆえが通常接する相手は大臣と宮人だ。身の回りの宮女については一人も覚えておらず、朝廷の大臣たちや李福全りーふーちぇんもそのような夢想の相手としてはとても考えられなかった。
そうすると、若く美しい衛斂うぇいれんだけが適任者だ。
正常な状態だ。深く考える必要はない。
姫越じーゆえはこのように自分を慰めながら、牀榻を下りて身支度をする為に人を呼ぼうとした。空は少し明るくなってきており、そろそろ起床して朝議へいく時間と思われた。
ところが、身じろぎしたところで不意に全身が強張った。
下着が……濡れている……
……
姫越じーゆえは寝床の上に座って途方に暮れた。
さらにまずいことに、彼の動きのせいで隣でぐっすり眠っていた青年が起きてしまった。
衛斂うぇいれんはぼんやりと目を開き、寝ぼけながら言った:「陛下、お目覚めですか……」
姫越じーゆえは身体を強張らせた:「うん。」
衛斂うぇいれんは眠い目をこすった:「着替えのお手伝いをしましょうか?」
姫越じーゆえは反射的に答えた:「不要だ!」
その声は非常に激しかったので、衛斂うぇいれんはほとんど目が覚めた。
衛斂うぇいれんはじっと見つめた:「陛下は昨夜よく眠れなかったのですか?目の下がそんなに青黒くなって……」
姫越じーゆえは顔を背けた:「悪い夢を見た。」
そうだ、あれは悪夢だ。淫らな夢ではない。姫越じーゆえは自分に言い聞かせた。
衛斂うぇいれんは心配そうな顔をして、近づいて来ようとした。姫越じーゆえは驚き、布団の下の状況を見られないように彼を押しのけた。
「……うっ!」衛斂うぇいれんは突然押しのけられて防ぐことも出来ず、牀榻の柱に肩をぶつけた。雪のように白い肌が見る間に青く痣になった。それを見た姫越じーゆえは無意識に助けようとし、謝罪の言葉が口から出かけたが、下半身のベタつきを感じて動きを止めた。
頭も冷静になった。
彼はこれまで誰にも謝ったことがない。
姫越じーゆえは冷たく言った:「お前には関係ない、寝ていろ。」
「でも陛下──」
「寝ろ、命令だ。」
衛斂うぇいれん:「……」
青年が黙り込んだ様子を見て姫越じーゆえは喉にものがつかえたように感じ、硬い声で付け加えた。「肩に玉容膏を塗るといい、痛みが止まる。」
実際にはごく軽くぶつけただけだったのだが、衛斂うぇいれんの肌はとても白いので怪我が重いように見えた。姫越じーゆえ衛斂うぇいれんに対しては、非常に高価な玉容膏をまるでタダであるかのように使おうとした。
衛斂うぇいれんは頭を下げて小さく笑った:「大丈夫です。大した怪我ではありませんので、玉容膏を使うほどではありません。」
彼はまた横になって眠った。姿勢は以前と変わらず姫越じーゆえに背を向けている。服が肩の辺りでずり落ちて、わざと肩の青くなった部分を露出している。それを見た姫越じーゆえは名状しがたい気分に囚われた。
姫越じーゆえはしばらく牀榻に座り、衛斂うぇいれんが寝入ったことを確認してから身支度の為に官女を呼んだ。
数名の官女が洗面器、手拭、朝服を持って列を為して入って来た。先頭は容姿端麗な珠月じゅーゆえという名の官女で、秦王の着替え専任で仕えていた。
実は妃嬪が君王の寝殿に侍った場合、翌日その妃嬪が君王の着替えの世話をするので官女が仕える必要はない。だが姫越じーゆえ衛斂うぇいれんに対する深い愛情を示すかのように早朝に彼を起こしたがらず、衛斂うぇいれんを十分に眠らせた。
今日も同じだった。珠月じゅーゆえが朝服を姫越じーゆえに差し出した時、姫越じーゆえはそれを断った:「湯の用意を。沐浴する。それから、衛郎うぇいらんが起きるまで待って、敷布団と掛布団を取り換えるように。」
珠月じゅーゆえは驚いた。こんな朝早くに沐浴?掛布団を取り換える?
珠月じゅーゆえは王の下半身に濡れているような何かがあることに気付いた。ちらりと横目に見ると寝台の上の青年の肩には青い痣があるのが見えた。
珠月じゅーゆえ:「……」理解した。
珠月じゅーゆえは声色には出さずに目線を元に戻し、膝を折って礼をした:「かしこまりました。」

養心殿の西館には宮女たちが住む部屋がある。珠月じゅーゆえは戻ってくるとすぐに扉を閉め、むしゃくしゃした気持ちで寝台に座った。
珠翠じゅーついは椅子に座って刺繍をしていたが、それを見て顔を上げた:「どうしたの?随分朝早くから誰に怒っているの?」
少し考えて「陛下にお叱りを受けたの?」と言ったが、「違うわね。」珠翠じゅーついはすぐにその推測を否定した。「もし陛下を怒らせたら、あなたの命はないものね。」
珠月じゅーゆえ:「……」
珠月じゅーゆえは憎々し気に言った:「衛斂うぇいれんとかいうあの小悪魔に怒ってるのよ!」
珠翠じゅーついは刺繍をする手を止めた:「どうして公子を名前で呼び捨てるのよ。」
「あいつがどこの公子だっていうのよ?楚国から来た落ちぶれた狗が、どうして陛下のお目に止まるのよ!」
彼女がますます度を越していくのを見て珠翠じゅーついは慌てて扉を閉めた:「珠月じゅーゆえ、言い過ぎよ。」
「あいつには我慢出来ないの!」珠月じゅーゆえはバッと立ち上がると、化粧台の鏡の前へ行き、歯噛みした:「私はこんなに美しいのよ?陛下にお仕えして三年になるのに、未だに名前も覚えてくださらない。衛斂うぇいれんが何よ?たった三日で陛下のお心を惑わせて。私のどこがあいつより駄目だっていうの?」
珠翠じゅーついは冷静に言った:「あなたはあの方ほど美しくないわ。」
珠月じゅーゆえ:「……」
「一人前の男が閨に侍るなんて、恥ずかしいと思わないのかしら!」
「公子はそんな方ではないわ。」珠翠じゅーついはすぐに衛斂うぇいれんを弁護した。「やむを得ないんだもの。」
「やむを得ないもんですか。」珠月じゅーゆえは冷笑した。「一日中陛下に纏わりついて誘惑しているのを知ってるんだから。今朝あいつの体に痕があったのを見たわ。あいつは楽しんでやってるのよ。」
珠翠じゅーついは眉をひそめた:「結局のところ、あなたは悔しいだけでしょう。あの方は誘惑出来るけど、あなたは誘惑出来ない。嫉妬してるだけじゃない。」
彼女は珠月じゅーゆえに分をわきまえない所があるのを知っていた。珠月じゅーゆえの容姿は彼女達侍女の中では最も傑出している。君王の傍仕えを任されることになって、一生君王の侍女として仕えることを喜んでいた。
陛下は若く並外れているので、玉の輿に乗って側室になろうと年若い侍女が心を惑わせるのも無理はなかった。しかし陛下は情欲に興味がなく、誰一人後宮に入ることがなかった。珠翠じゅーついが何度も諫めるうちに、珠月じゅーゆえは徐々に落ち着いていった。
もし陛下が一人も側室を取らなければ、珠月じゅーゆえは耐えることが出来る。だが陛下が男寵をこのように深く寵愛しているとなると、珠月じゅーゆえはたちまち不満を抱き、心の中が恨みつらみで一杯になるのは避けられなかった。
「あいつが妬ましい。」珠月じゅーゆえは叫んだ。「珠翠じゅーつい姉さま、あなた以前言ったわね。私は理想が高すぎる、私たちは卑しい召使である運命で身分の高い方との結婚なんて出来ないんだから、高望みはしないことだって。いいわ、私は分かった。でも衛斂うぇいれんはどうなの?あいつは秦王宮に来て、元々は私達よりもずっと下の立場だったじゃない。あいつはどうして……あの顔だけじゃないの。」
珠翠じゅーついは驚いた:「あの顔があれば十分じゃないの?」
公子れんがどれほど美しいことか。珠月じゅーゆえは自分の美貌を鼻にかけているが、公子れんと比べれば雲泥の差だ。
珠月じゅーゆえ:「……」
珠月じゅーゆえ珠翠じゅーついの言う事を聞きたくなかった。
「見てなさいよ。」珠玉じゅーゆーは乱暴に涙を拭う。目には憎しみがあった。「陛下は冷酷な方よ。あいつがいつまで良い気でいられるか見てやるわ!」
珠翠じゅーついは沈んだ声で警告した:「珠月じゅーゆえ、余計なことは考えない方が良いわよ。さもないと悲惨なことになるかもしれないわ。」
珠月じゅーゆえは今や完全に嫉妬の炎で目が見えなくなっている。心を燃やしつくしてどんな馬鹿げたことを仕出かすかと珠翠じゅーついは恐れた。
「いいえ、珠翠じゅーつい姉さま。」珠月じゅーゆえは微笑んだ。「私は分かっているわ。」


大臣や李福全と比較して綺麗なのは衛斂くらいしかいないから正常!って、姫越はその比較対象のチョイスに疑問を感じるべきだと思います

分からなかった所

神他娘的:Fワードみたいな罵り言葉らしい。時代劇だから他妈的が他娘的になっているんでしょうか?

童子鸡、战斗鸡:若鶏と闘鶏。童貞と非童貞の暗喩だろうと思いつつ何か慣用的な使い方があるのかなと童子鸡を調べていたら、ものが立派でない事を指すと言っている人が居ました。そうなの?!どっちにしても姫越の中の衛斂のイメージが酷い


#愿以山河聘 #願以山河聘 #中華BL #中国BL #BL


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?