名もなきさやみどヘッダー

10行でもいいから読んでほしい!『名もなき王国』480ページ全文無料公開の理由(さやみど通信)

2018年8月4日発売、倉数茂(くらかず・しげる)さんの5年ぶりの長編小説『名もなき王国』の担当編集者ふたりが、刊行に至るまでのあれこれをなぜかメール交換形式で語っております。ご笑覧いただければ幸いです。

From: 矢島 緑
Sent: Thursday, July 12, 2018 15:09 PM
To: 小原 さやか
Subject: ついに刊行ですね

小原さやかさま

暑いですね。
今日もお仕事お疲れ様です。

きたる8月4日、倉数茂さんの『名もなき王国』が刊行になりますね。
ついに、ついにです。
二人で長い間、担当編集として倉数さんに伴走してきました。
振り返ってみれば、この480ページの超大作が始まったのは、5年も前のことだそうですね。
2016年の春、小原さんが産休に入られるにあたりこの作品にジョインした私は、
2013年にはまだポプラ社にいませんでした。

この小説、長い年月を経て、当初からは想像もできない形に変容していきましたよね?
読めば読むほど迷い込むような感覚になって、先が見えないんだけどどこにたどり着くのか楽しみでたまらない、伝説の古城みたいな物語!
この作品がどうやって始まったのか、聞かせてくれませんか?

しょっぱなから余談で恐縮ですが、
これが小原さんとの初めてのお仕事でしたから、嬉しさと同時に私はけっこう緊張していたんです。
ポプラ社に入って、小原さんの隣の席になり、お仕事ぶりが垣間見えました。
徹底的に丁寧で、情熱的で、いつも優しくてお茶目で……なんてすごい編集者だろうって瞬時に尊敬したからです。
ちゃらんぽらんな後輩でしたけど、本当にありがとうございました。

矢島拝

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From: 小原 さやか
Sent: Thursday, July 12, 2018 17:12 PM
To: 矢島 緑
Subject: 念のため言っておきますが

矢島緑さま

喜ぶのはまだ早い!
書店さんに並ぶのを見届けて、読者の方に届けるまでが編集ですよ。
とはいえ、ようやくこの日がくるのか、と思うと、
胸の高鳴りが抑えきれません。

倉数茂さんは、2011年、訪れた田舎町で殺人事件に遭遇する少年たちを描いた「黒揚羽の夏」というジュブナイルミステリーで、
ポプラ社主催の新人賞を受賞し、デビューしたんだけど、
本作は、一部に熱狂的なファンを生みました。
矢島さんも読んでくれたんだよね?

2015年8月15日のこと。
『黒揚羽の夏』の続編『魔術師たちの秋』の刊行ののち、
新作の打ち合わせをお願いしても、のらりくらりとかわされていた私のところに、
倉数さんが今まで書き溜めていたという掌編、短編、中編を、どさっと送ってくださったんです。
その中に、『名もなき王国』に収録されている「少年果」がありました。
放課後の図書館、美しいクラスメイトとの密やかな会話、
変わり者の伯母が夜な夜なこもる蔵、真鍮の鍵、蔵の中に植わっていたもの……
短い中に、倉数作品のエッセンスが凝縮されたような物語で、
鳥肌が立つくらいぞくぞくし、夢中で読みました。
「少年果」は、倉数さんにとっても自信作だったようで、
当初、倉数さんは、「少年果」をはじめとする短編集を構想していらした。
でも、冷えに冷え切ったこのご時世、いくら作品に魅力があっても、
それだけで手に取っていただくのが難しいことは、
矢島さんも身に染みてわかっているよね。
読者にアピールするために、なにかフックを考えなければ、と思い、
「それぞれの短編が生きるための枠物語のようなものを考えていただけないか」
とご提案したんです。
『千夜一夜物語』みたいに、「語らなければ殺される!」的な必然性かつ気になる外枠があれば、
主人公も時間軸も世界観も別々の物語を収録することもできるじゃない?
いつも打ち合わせをしている町田の珈琲店で、
倉数さんは、うーん……と腕組みをして長考されました。
「考えてみます」

矢島さんと倉数さんを引き合わせたのは、私が産休に入るタイミングでしたね。
倉数さんは、「身重の小原さんに来させるのは申し訳ないから」と、
会社の近くのビストロまで足を運んでくださいました。
矢島さんは、エネルギッシュで、ムードメーカーで、博識で、
著者をぐいぐい引っ張っていってくれる頼もしい後輩だったし、
なおかつ、その時点で届いていた「王国」と「ひかりの舟」を読んで、
面白い! って言ってくれたでしょう。
あれが本当に嬉しかった。
初対面での打ち合わせも順調に終わり、倉数さんに、
「小原さんが戻ってくるまでには、本ができてしまうね」
と言われたときには、引継ぎがうまくいってほっとしたような、
でも自分はもうこの作品の生まれていく過程を見届けることができないんだ、
と思うと寂しくもあるような、複雑な気持ちでした。

無事に息子も生まれ、本の出来上がりを楽しみにしていたら。
まさか。
よもや。
育休が空けて職場に帰ってきても、
原稿があがっていない、なんてことがあろうとは……。
いったい、どういうことかしら?
私が休んでいた間の事情について、詳しく教えてください。

追伸
今月、息子は2歳になります。

小原

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From: 矢島 緑
Sent: Saturday, July 14, 2018 8:47 PM
To: 小原 さやか
Subject: 合掌

小原さま

メールありがとうございます。
そうか、アラビアンナイト!
その発想を、私なら提案できたかなあ。やっぱりすごいです。

ていうか、こ、小原さん、怒ってるじゃないですか……!?
私が、小原さんのお休みのあいだ、倉数さんに何もできなかったことを……。
そりゃ、そうですよね。
本当にごめんなさい、倉数さんにも小原さんにも。ふがいない限りです。

おっしゃるとおり、「王国」「ひかりの舟」と読ませていただいて(あの頃まだ「序」はなかった)、
めっちゃくちゃおもしろかったんですよ。
「王国」の主人公、無名の作家の“私”が、若手小説家の飲み会に参加して、
もらった名刺に「ことのはクリエイター」と肩書きされているのを見てこの場に馴染めないって思ったり、
ここにいるやつらは本出してないっぽいな、自分は3冊出てるぞって考えたりするのを読んで、
なんてチャーミングな主人公だろうってすぐ好きになりました。
それで、「ひかりの舟」を読んだら、また全然別の話じゃないですか。主人公もどうやら違う人みたい。
しかもこれも滅法おもしろい。すごく切なくてリアルなラブストーリーでぐいぐい読まされてしまう。
それで次の話の構想を倉数さんに聞いてみたら、少年少女のSFだと言われ。
ちょっと待ってわけわかんない、ってなっちゃったんですよね。えっとどうしよう、って。
全体の構造については、細部を考え中であることもあり、ちょっとまあ、読んでみてくださいという倉数さんのお言葉に、全身全霊で甘えた形になりました……。

大きな構造転換があるってヒントはいただいていたので、
伏線の塩梅など含めて、フラットに読みたいので、次はラストまで一気に読みたいのですが、いかがでしょう? と倉数さんにご提案してしまったという……。
そして倉数さんがおひとりで書き上げてくださったという……。
倉数さん、本当に申し訳ありません。

そうですよね、この作品が書きあがる前に、
むしろ小原さんは人間をひとり生み出している。
ご愛息のKくん、まじで可愛らしいですよね。
2歳にしてプリンスのごとき気品あふれるたたずまい。
また編集部につれてきてくださいね。

すみません……!!

矢島・土下座・緑拝

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From: 小原 さやか
Sent: Monday, July 16, 2018 7:08 AM
To: 矢島 緑
Subject: うむむむむ

矢島さま

メール拝受。
なるほど、そのような経緯でしたか。
まあね、たしかにあの状態で託されたら混乱する矢島さんの気持ちもわかりますから、
そんなに息子のことを褒めてくれなくても大丈夫よ。

倉数さんから第一稿が届いたのは、2017年6月13日。
文量は、原稿用紙740枚程度、という大・大・大・大長編になってました。
読み終わった直後に倉数さんに送ったメールを発掘したので、
ネタバレしていないところの一部分を張り付けます。
これだけでも鼻息の荒さが伝わるね(笑)。
、、、
非常に面白かったです。
「序」から「燃える森」まで一気に読み進め、
それぞれの物語の魅力を存分に堪能しつつ、期待感が否応にも高まるのを感じました。
掌編集を経たところで、さて、どれもこれも面白いけれど、
これはどんな風に着地するのか皆目検討がつかないな、
と思いながら「幻の庭」に進んだのですが、
枚数が残り数枚になっても、まだ物語がどう閉じるかわからない。
と思ったところに、このラスト!
最後のこの清涼感漂う切なさと幸福感に、しばらく言葉を発することができませんでした。
もうもう、倉数さん、凄すぎる!!! お見事!!! と感嘆するほかありません。
これまで拝読させていただいたどの物語も私は好みでしたが、これはすごい作品です。
、、、

脱稿してからも、大変でしたね。
なにせ全6章(うち第五章には沢渡晶の短編が当初8本あったね。今の倍!)すべてが企みに満ちていて、
読めば読むほど、すべてが伏線に見えてくる、という……。
この人物とこの人物は同一人物なんじゃないか、とか、
このアイテムは、このメタファーなんじゃないか、とか、
妄想を炸裂させながら人物相関図を手書きして、
わからないところを書き出して、ふたりで答え合わせしましたね。
矢島さんは、原稿のなかの誤字ですら、「これも伏線ですよね?」って言ってたもんね。
その時の手書きの膨大なメモを残していないかと思ったんだけど……
残念ながら見当たりませんでした。残念無念!

小原

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From: 矢島 緑
Sent: Wednesday, July 18, 2018 13:25 PM
To: 小原 さやか
Subject: 無我夢中の日々

小原さま

お疲れさまです。
寛大なお返事をいただき、恐縮です……。挽回すべく、これからもがんばります。
そして誤字ですら伏線、おもしろすぎる。言ってました言ってました。なんでも拾いたくなっちゃって。
机がきたなすぎるおかげで、メモがひとつ出てきました。我ながら、なんのこっちゃわかりません。

『名もなき王国』の製作過程で印象深いことといえば、
タイトル決めもありましたね。
これが、いっこうに、決まらなかった……。
ひたすらに、迷走した……。
3か月くらい迷子でした。
苦肉の策で、初めてタイトルがブランクになっているバウンドプルーフをつくりましたね。笑

最初に倉数さんから送っていただいたファイルについていたタイトルは、
『夏茱萸の庭で』でした。
雰囲気があって、ラストまで読むとものすごくぐっとくる、素敵なタイトルなのですが、
いかんせん「なつぐみ」が読みにくい。漢字が難しくて書けない。
ひらがなやカタカナにすると一気にムードがなくなってしまうので、別案を考え、倉数さんにご提案しようとなりました。

なくしものたちの庭
失われた粒子たちの庭
ひかり遊ぶ庭で
ロスト・ガーデン
かけらたちの王国……
3~40個は出ましたね。

『Sの王国』というのもありました。
Sは登場人物の澤田であり、瞬であり、茂(倉数さん)だとか、
血走った目で私たちは話していました……。笑

私は夢のなかでも小原さんとタイトル会議をしていて、
目が覚めたら、さっきまで『空白の王国』というタイトルが(夢のなかではなぜだか)「かっこいい! イケる!」と決まって喜んでいたことを思い出し、
いやただプルーフのタイトルが空白なだけじゃんって愕然とした覚えがあります。

あの頃の私たち、アップルに表彰されていいくらい、iPhoneのショートメールを乱打していましたね。
いっこタイトル考えるたびに1本白髪が増えたと思う!
小原さんにとってはどんな数か月でしたか?

矢島拝

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From: 小原 さやか
Sent: Wednesday, July 18, 2018 22:49 PM
To: 矢島 緑
Subject: 微妙なタイトル案たち

矢島さま

タイトルはねえ……。
矢島さんの手前、先輩である私がどっしり落ち着いていなければ、と、
「まあ、幸いまだ時間はあるし……」と涼しい顔をしていたけれど、
内心では、気が付いたらタイトルが決まったあとの世界にいないかな……
と現実逃避していました。気づかなかったでしょう?

夏の庭で僕らは遊ぶ
この庭で君を待つ
ひかりの庭のこどもたち
と「庭」からどうしても離れられなくて、
そうだ、辻村深月さんの『かがみの孤城』は、
「城」に「孤」がついていることで、さらにぐっと奥行きが感じられる、
絶妙なタイトルだから、「庭」にもそんな組み合わせがあるに違いない!
と検索し続けたりもしました。

矢島さんからは、

なんてのもあったね(東山彰良さんの『流』のオマージュのような……)。

もう、このころは辛すぎて記憶が朧になっているんだけど、
ある朝矢島さんが、「『名もなき王国』はどうでしょう?」と言ってくれたときのことは、鮮明に覚えています。
ちょうどゴールデンウィーク前、もう推薦文をいただきたい方々にご依頼しないと、というリミットが近づいていたときでした。
「名もなき、というと、NO NAMEのほうが先に浮かぶと思うのですが、
私のなかでは、“忘れられた”“失われた”のようなイメージから、
打ち捨てられたような、人にとっては取るに足らない“王国”なのだけれど、
語り手にとってはそれが全世界なのだ、という気持ちで……」
作品の核をとらえながらも、ミステリアスな雰囲気と、スケールの大きさもあるタイトルで、瞬時にこれしかない! と思いました。
ありがとう、矢島さん。
原稿が停滞していた時のことも、これですっぱり水に流そうと思います。ふふ。

タイトルがブランクになったプルーフに、へなちょこな字で、
『名もなき王国』と書き入れたものとともにご依頼状をお送りしたら、
まず、皆川博子さんから、お送りした数日後に、拝読しましたというお言葉とともに、それがすでにひとつの作品のように美しい一文が届きました。
昇天するかと思った。
その後も、いとうせいこうさんから素晴らしいお言葉が、
金原瑞人さんと千街晶之さんからも、作品をじっくり読みこんでくださった素敵なレビューをいただけましたね。

一方では、480ページのゲラに埋もれながら格闘していた数ヶ月間でした。
半年にわたる二度の大改稿を経て、ゲラの時点で完成度が高かったから、
そんなに大変な作業ではないと思っていたのだけれど、
この一行を削る、もしくは変えていただくことで、作品が損なわれたらどうしよう、という煩悶が大きく、えんぴつを入れるのにものすごく時間もかかりました。

本の装丁に関しては矢島さんが大活躍でしたね。
最終的に、カバーも帯も、これしかない! というところに落ち着いたけど、ここまでたどり着くのも試行錯誤しましたね。

小原

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From: 矢島 緑
Sent: Thursday, July 19, 2018 10:08 AM
To: 小原さやか
Subject: 知と感性の集結

小原さま

メールありがとうございます。
タイトル手書きのプルーフは、のちに“プルーフを重版”というこれまた珍しい過程を経て、
タイトルや推薦文を追加したものをつくりました。

装丁もほんとに難しかったですね。
デザイナーの川名潤さんとの最初の打ち合わせで、
「庭」や「王国」がキーだけれど、そのまま「場所」を表1で表現しては、
あまりにとっかかりのない見た目になってしまうから、
物語のなかで繰り返し示唆される「女性の横顔」のイメージ、
それは象牙のペンダントに彫られた横顔だったり、雪の日の少女だったり、伯母・沢渡晶だったり、
いろんな女性に見えるのがよいから、抽象的な横顔のモチーフを探そうというところまではわりとすっと決まったんですよね。
そこから私たちも川名さんもいろんなアーティストの作品にあたったりして、
Elise Wehleさんの油絵と紙細工のコラージュ作品を川名さんが提案してくださいました。
その中から視線の強さと色彩が印象的な今の装画作品を選びましたね。

作品の力で、そうそうたる方々に素晴らしいお言葉をいただいたので、
思い切って帯表1の要素はほぼ推薦文だけに絞りましたね。
こんなに大きく「傑作」と帯に書いたことないからドキドキする私たち。笑
帯の用紙は初めて、「きらびき」という光る高級紙を使いました。
希望を感じさせる、ぱりっとしたたたずまいにしたかったからです。

そして最終的に川名さんがすべての要素を、
格調高くもどっしりメジャー感たっぷりにまとめあげてくださり、
感動的でしたね。デザイナーさんて、すごいなと。。

装丁はほんとに、編集者が違えばがらりと変わるものなので、
明確な正解ももちろんないなか難しさを極めますが、
私はこの『名もなき王国』の顔つきが好きです。
倉数さんが気に入ってくださって、何より嬉しいです。

さて、そろそろ私たちは、
なぜ「480ページ全文無料公開」をしようと考えたのか、
書いてみるべきではないでしょうか。
だって、これから商品として送り出そうという作品を無料公開するなんて、
かなり振り切った試みですよ……。
著者や社内の理解あってこそですものね。
と、難しいところに差し掛かるたびに先輩にパスをする小ずるい後輩!

矢島拝

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From: 小原 さやか
Sent: Monday, July 23, 2018 13:56 PM
To: 矢島 緑
Subject: 強い思いの連鎖

矢島さま

ついに都内で観測史上初40℃越えを記録したそうです。
この夏は、何かが起こりそうですね。

私たちは「なぜ480ページ全文無料公開」をしようと考えたのか。
ひとりでも多く、この物語を読んでもらいたかったから。
一ページでも、いや、最初の一行だけでも読んでくれたら、
この物語を読まずにいられなくなるだろうと信じているから。
それに尽きます。
この思い切った取り組みをご快諾くださった倉数さんには感謝しかありません。

第一稿を読み終わってからというもの、
我々は、リアルでもメールでもSNSでも、熱に浮かされたように、この作品のことばかり話していましたね。
「あと1000枚読みたい!!」「これぞまさに世界文学!」
「いやあ、48時間は語っていられるよね」「しげる愛してる」
かしましい我々のトークの断片が漏れ聞こえてきた編集部の皆は、
(どんだけハードルを上げてくるのか、こいつらは)
(っていうか、あんたたちの話を聞いててもどんな話なんだか皆目わからんぞ)
とクエスチョンでいっぱいだったことでしょうが、
我々の尋常でない熱量に、とにかく読んでみなければ、と、ほかの文芸編集部員全員と営業部有志が、480ページの分厚いプルーフを手にして、読んでくれたのです。

その結果、企画会議でも部決会議でも、みんな語る語る……。
最後には営業部の文芸担当の女性が、
「読んでいてぶっ倒れそうになった。これはすごい小説です」
と力説してくれて、その場でも、480ページ、とにかく一度読んでみようか、という猛者が現れましたね。
そしてその猛者たちの輪が、書店員さんにもじわじわと広がっていって、
嬉しい感想がぽつぽつ届き始めていますね。
こういう、心の底からとにかく揺さぶられたときの熱波って、
理屈じゃなく伝わるんですね、きっと。

いま、小説であっても、どんなストーリーかぱっとわかりやすいもの、今時のフックがあるもの、読者層が想定できるもの、売れている作品を並べやすいもの……といった、マーケティング的な見方も必要だ、と言われることがあります。
実際、それを踏まえたうえでとびきり面白い作品だってたくさん存在する。
でも、とも思うのです。
一度読んだだけではすべてが理解できなかったとしても、むさぼるように読んでしまう物語、
難解な言葉や思想の美しさにただただ酔いしれる物語、
一言では表せられないような複雑な感情を突き付けてくる物語。
そういう物語との出会いで、知らない世界がどんどん開かれていくような経験は、何物にも代えがたいのではないかと。
物語には、こんなにも大きな力があるということを、本作を通して一人でも多くの人に知ってもらえたら、と願わずにはいられません。

このやり取りをうっかり目にしてしまった人たちが、
怖いもの見たさにちょっと読んでみようか、という気分になってくれますように!

小原

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From: 矢島 緑
Sent: Tuesday, July 24, 2018 13:44 PM
To: 小原 さやか
Subject: さあ、ここまできたら。

小原さま

お疲れ様です。
この暑さ、冷房で快適な室内にこもって、
どっぷりと物語世界に浸りましょうという思し召しかもしれません。
身内の私すらほれぼれするようなメールをありがとうございます。
もうこうなったら私たち、あとは読者のみなさまおひとりおひとりに委ねるだけのところへ来ましたね……。

ただただ、ほんの少しでもいいので読んでいただきたい。
「ちょっとだけ読んだけどなかなかおもしろいな」とか、
「無料公開か、変わったことやってるな」とか、なんでもよいので、
#名もなき王国 をつけてつぶやいていただけたら……。
無料公開10日間の間に、最後まで読み切ってくださる強者がもしもいらしたら、いわゆるネタバレにご留意のうえ、
エモーショナルなご感想をぜひともなんらかのSNSにて吐露していただけたら……と願うばかりです(けっこう多くを望みがち)。

noteの水野さんから、
「その異常な熱、文字数制限のないnoteで発散させちゃいなよ」
とアドバイスいただいたときはどうなることかと思いましたが、
このさやみど通信、書かせていただいて本当によかったです。
『名もなき王国』をはさんで、小原さんとキャッキャはしゃいだ、いとしい日々。いま、『名もなき王国』を再読したくてたまりません。

本当なら、ここまで読んでくださった方がいたとしたらありがたすぎるので、このさやみど通信にも大きなオチを用意したかったのですが、
私たち裏方業にはハードルが高すぎました。
ただ、小原さんがタイトルで遊び始めたのにはすぐに気づきましたよ!
ほんとにキュートな先輩だなあ。

どうもありがとうございました。

矢島拝

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From: 小原 さやか
Sent: Tuesday, July 24, 2018 15:12 PM
To: 矢島 緑
Subject: 楽園でお待ちしています

矢島さま

矢島さん、何も言わなくても乗ってきてくれたので、よしよし、と思ったよ。
そんな阿吽の呼吸の後輩との往復書簡もいよいよ終わるのかと思うと、ちょっと寂しい。
でも、次に進まねばなりませんね!

最後にひとつお知らせを。
7月30日(月)、赤坂にある双子のライオン堂さんにて、
『名もなき王国』刊行&noteで全文無料公開記念のトークイベント&読書会を行います!
https://peatix.com/event/409888
著者の倉数さんと、批評家の田中里尚さんによる豪華トークとともに、
読者が感想を述べ合う会です。ウェブ版をほんの一部でも読んだら参加可能! 
ぜひ、思い思いの感想をお持ちよりください。
我々もはせ参じますので、ぜひお気軽においでいただけましたら。
というか、発売前に読書会、という無謀……チャレンジングな取り組みのため、集客が非常に心配なので、来てください、お願いします!

ここまで読んでくださった奇特な皆さま、本当にありがとうございました。
太陽から殺意を覚えるような毎日ですが、
どうぞお体にはお気をつけて、よい夏をお過ごしください。

小原

※この往復乱文は、小原と矢島のふたりが三浦しをんさんの『ののはな通信』の熱狂的ファンであるためにこの形式になりましたが、『名もなき王国』と『ののはな通信』に何かの関係があるわけでは一切ございません。

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