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22年ぶりの新作刊行! 作者・あまんきみこさんが語る「新装版 車のいろは空のいろ」~装画・黒井健さんのアトリエも公開~

今年の11月、ロングセラー童話集「車のいろは空のいろ」シリーズに、22年ぶりの新作が誕生しました。第4巻『新装版 車のいろは空のいろ ゆめでもいい』です。

児童文学作家・あまんきみこさんのデビュー作でもある「車のいろは空のいろ」シリーズは、心優しいタクシーの運転手、松井さんと不思議なお客さんとの出会いを温かく描いた連作短編集。これまで長らく、全3巻のシリーズとして親しまれてきました。

既刊の「車のいろは空のいろ」シリーズ。装画・挿絵は北田卓史さん。

そして、この第4巻の刊行を機に、既刊の第1・2・3巻も新しい装いでリニューアル黒井健さん装画・挿絵の「新装版 あまんきみこの車のいろは空のいろ」シリーズ(全4巻)となりました。

左から新装版1巻『白いぼうし』・2巻『春のお客さん』・3巻『星のタクシー』・4巻『ゆめでもいい』

そこで今回は、22年ぶりに新作が誕生した経緯や、新装版の制作過程について、作者・あまんきみこさんのお話とともにご紹介します。新装版の装画・挿絵をお描きいただいた黒井健さんのアトリエも公開!
ぜひ、最後までお読みください。

ロングセラー「車のいろは空のいろ」シリーズ年表

■1968年 『車のいろは空のいろ』刊行
あまんきみこ先生のデビュー作にして日本の児童文学の金字塔と言える名作です。心優しいタクシーの運転手、松井さんと不思議なお客さんとのエピソードを収めた童話集は、ナンセンスから戦争をテーマにしたものまでバラエティー豊かなお話どうしが響きあい、深い味わいがあります。収録作の「白いぼうし」は国語の教科書にも長年掲載され、世代をこえて愛読され続けています。

1982年 『続 車のいろは空のいろ』(現『車のいろは空のいろ 春のお客さん』)刊行
第1巻の14年後に続編が刊行されました。

2000年 第3巻『車のいろは空のいろ 星のタクシー』刊行
この時、第1巻に『白いぼうし』、第2巻に『春のお客さん』、第3巻に『星のタクシー』というタイトルがつけられ、全3巻の「車のいろは空のいろ」シリーズとなりました。
1992年に北田卓史さんがご逝去なさったため、第3巻は遺された絵での刊行でした。

2022年 第4巻『新装版 車のいろは空のいろ ゆめでもいい』刊行
シリーズ第4巻となる新作『ゆめでもいい』の刊行にあたって、第1~3巻も黒井健さんの絵で、新装版としてリニューアル。さらに、北田卓史さんの絵で贈る豪華仕様の2巻セット『特装版 車のいろは空のいろ』も刊行。
いずれも、デザインは名久井直子さんです。

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「新装版 車のいろは空のいろ」を手にして

(あまんさん)
「ゆめでもいい」じゃなくて、もう夢のような思いです。
新装版ができることは、もちろんわかっていたけれど、できあがってくるまでは実感ができなくて……。こんなことが、あるんですね。長生きして、よかった!

完成した本とともに、作者・あまんきみこさん

新作『ゆめでもいい』が生まれた経緯

(あまんさん)
わたしは、新しい本が作れるとは、思ってなかったのよ。でも、まだシリーズに収録されていない松井さんのお話が3つあって、「あと4つ新しいお話を加えて1冊にしましょう」と声をかけてくださったから、やってみようと思ったの。みんなのおかげ。

4巻の収録作のうち、「子ぎつねじゃないよ」「ジロウをおいかけて……」「とにかくよかった」「春、春、春だよ」が書き下ろし。

(あまんさん)
松井さんは、いつもわたしの中にいるのね。
わたしは車の運転はできないけど、タクシーも自分が運転しているような気持ち。お客さんが「ここへ行って」と言うたびに、ひとつの街がだんだん広がっていったの。
松井さんも同じ。性格や年齢や家族のことをあらかじめ決めたりは、していないの。

こんな本は他にないのよ。だいたい最初に、ここにこういう女の子がいて、パパがいて、ママがいて……って、決めるんだけどね。このシリーズは、ほかとは少し違うのかもしれないわね。

4巻目の構成を考えるにあたって、あまんさんがこれまでの収録作の「テーマ」を書き出したメモ。新作の執筆は2017年ごろから始まり、2020年にすべて揃った。
「4巻には未来のお話を入れたい」というあまんさんの思いもあり、収録された「ゆめでもいい ゆめでなくてもいい」。
夫を亡くした若いお母さんとその赤ちゃんの今と未来を、松井さんが優しく見守るお話です。
最後に完成したお話は、戦争中に愛犬と別れた男の子を描いた「ジロウをおいかけて……」
かつて同じ悲しみを経験した数多くの人たちへの共感と慰め、そして平和への思いが切々と伝わってくるお話です。

黒井健さんの装画・挿絵について

(あまんさん)
シリーズの中で、ゆるやかに時は流れているけれど、わたしの中で松井さんはあまり年をとらないのね。いつも、いちど会ったら忘れちゃいそうな顔。この黒井さんの描いてくださった松井さんは、わたしのイメージにぴったり。

運転手の松井さん。「白いぼうし」より。

(あまんさん)
北田さん(※既刊の装画を担当されている北田卓史さん)の描かれた松井さんは、わたしにとってかけがえのないものだけど、新装版では新しい松井さんに会えたようで、びっくり。すごくうれしいわ。

「新装版 車のいろは空のいろ」の装画・挿絵が描かれた黒井健さんのアトリエ
パステルがびっしり入った棚。
新装版の表紙絵は、パステルや色鉛筆、コピックを組み合わせて描かれている。
モノクロの挿絵は、何種類もあるグレーのコピックを使い分けて描かれた。
4巻の表紙検討時のラフ。あまんさんのご意見も伺いながら、黒井さんが1巻ずつ順に描きあげてくださった。2巻の表紙絵は、最終的に中央のラフに近い絵に変更された。

最後に

(あまんさん)
新しい本ができると、親しい人たちにさしあげるのだけど、今回は新作の4巻だけをお送りしよう……と思っていたのね。でも、できあがった新装版4巻を手に取ってみると、全部そろっていたほうが、松井さんが喜ぶんじゃないかな、って感じたの。それで、4巻セットで送ることにしちゃった。

読者のみなさんにもぜひ、1巻から4巻までそろった姿を、見てもらえたらうれしいなと思います。

新装版刊行のお祝い会にて、新刊とともに(2022年11月)

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1965年に同人誌「びわの実学校」で「くましんし」を発表なさって以来50年以上、あまんさんはタクシー運転手・松井さんの物語を大切に紡いでこられました。
このたび発表された新作、第4巻の物語の中で、松井さんの空いろのタクシーは、不思議なお客さんをのせて過去、そして未来に向かって走ります生きとし生けるものへの深い愛情がこめられたどのお話も、読む人の心によりそい、生きることを励ましてくれる、あたたかな力と優しさがあふれています。
このシリーズに初めて出会うお子さんにも、かつて読んだことのある大人のかたにも、ぜひ手にとっていただきたいと思います。

また、この新装版の各巻末には、あまんさんがすべての収録作にまつわる思い出を綴ったライナーノーツ「思い出すままに」が収録されています。作者をより一層、身近に感じられるとっておきのエピソードを、ぜひ味わってみてください。

(担当編集 松永緑・上野萌)

作・あまんきみこ
1931 年、旧満州に生まれる。デビュー作『車のいろは空のいろ』で日本児童文学者協会新人賞と野間児童文芸推奨作品賞、『こがねの舟』(以上ポプラ社)で旺文社児童文学賞、『ちいちゃんのかげおくり』(あかね書房)で小学館文学賞、『おっこちゃんとタンタンうさぎ』(福音館書店)で野間児童文芸賞、「車のいろは空のいろ」シリーズで赤い鳥文学賞特別賞、『きつねのかみさま』(以上ポプラ社)で日本絵本賞など多くの賞を受賞。
作品集に『あまんきみこ童話集』(全5巻・ポプラ社)『あまんきみこセレクション』(全5巻・三省堂)がある。日本の風土に根ざしたあたたかい童話の世界は、世代をこえて読者の心をとらえ読み継がれている。

絵・黒井健(くろいけん)
1947 年、新潟に生まれる。出版社勤務後、フリーのイラストレーターとなる。サンリオ美術賞受賞。繊細でやわらかなタッチ、美しい色彩による表現で、幅広いジャンルで活躍している。主な作品に『ごんぎつね』『手ぶくろを買いに』(以上偕成社)「ころわん」シリーズ(ひさかたチャイルド)『またたびトラベル』(赤い鳥さし絵賞・学習研究社)『まっくろ』(講談社)『よるのふね』『とんだ、とべた、またとべた!』『12 の贈り物(以
上ポプラ社)などがある。2003 年、山梨県清里に黒井健絵本ハウスをオー
プン。

★同時刊行の『特装版 車のいろは空のいろ』についてはこちらの記事でもご紹介しています。(試し読みは終了しております)

★今回ご紹介した書籍はこちら。

(4巻セット)