Popoi

小説のようなものを書いてます。

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  • 暴力の峠/VIOLENCE PASS

  • 黒い夜(POPOI短篇集1)

    収録作品 8本 『死神は肩に座る』 『ちりんちりん』 『わたしは戦わない』 『豆大福』 『ハイテクノロジー・フィロソフィー』 『マゴット・ブレイン』 『涯への散歩』 『寒の戻り』

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死神は肩に座る

 ちらちらと視線を感じるので、何だよとおれは言ったのだった。何だよ。何か用か。するとそいつは、べつに。と澄ました顔で言いやがる。何も用がねえならちらちら見るなよ。おれは言った。用はないが、気になったのでね。なにが。いやあね。そいつはニヤニヤとおれを見る。なんだよ。うーん。言ってもいいのかな。言えよ。そうかー。じゃあ言うよ。あんたの肩に死神が座ってる。    おれの肩に死神が座っているという。とても驚くべきことだが、おれはもう慣れてしまった。人間、慣れという能力が備わっていて、

    • 私の混乱の存在と地図

       舞う雪が頬に触れ、はっとしたとき、彼は大きなあくびをしていた。光る車の流れは淡く、軽やかな白い粒は流動し、そのひとつひとつに哀しみを見た。黒いアスファルトの固さ、味気ない文明の成長はわたしたちを意固地にさせる。彼は地図を片手に、子どものように辺りを見渡し、そのつるつるした顔に満足げな表情を浮かべる。わたしは退屈し、そっと彼をにらみつける。  彼が自分の家を見たいといったのは、彼の母の葬儀の日、ぽろぽろになったその骨を回収し終えたときだった。スーツに身をつつんだ彼の顔は赤らみ

      • 暴力の峠/VIOLENCE PASS #1

         朝の微睡みにふやけるような心地で大きく伸びをした国生の脳裏に閃光の伴う黒煙が具象として浮かび上がったのは、昨日の会合で発せられたあの言葉がひどく印象に残っているからだろう。総勢二十余名が出席した会合は赤坂の料亭で取り行われた。名目はなんであったろうか、紛糾し、混乱を窮めた状況下では誰もがその本来の目的を見喪っていた。集まった野良犬どもは普段ならありつけるはずもない酒に競うように酩酊するばかりで、絡んだような論議がそこかしこで火が付き、まとまった話し合いとは程遠く、やれ先に手

        • 眩暈

           いつしか日も長くなり伸びた陰から微かなゆらめきを感じ取った。幻のように思えたそれは次第に現実味を帯びて私の躰を刺激した。かなしみにも似た曖昧な気持ちを抱きながら私はゆれるのだった。それが地震だとわかったのは荒れ狂う電線の束を見たあとのことだ。大地は軋み。木々はしなる。夕暮れ時に帰ってゆく鳥たちは消え奇妙な静けさだけがうねるように存在していた。  地震はすぐにおさまった。私の躰だけがいつまでもゆれているようで僅かな嘔吐感を覚えた。こういうとき健司さんでも居てくれたらと私は彼

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        死神は肩に座る

        マガジン

        • 暴力の峠/VIOLENCE PASS
          1本
        • 黒い夜(POPOI短篇集1)
          6本

        記事

          わたしは戦わない

           今日になって三度目の警報であった。戦争は男たちを駆り立て、新聞やテレビが連日のように戦況を報道する。むつかしいことばを並べ立て、日本がいかに優勢であるかを伝える。わたしにはかんけいのないことだった。日本が勝とうが負けようが、日本という国が滅びようが、わたしにはかんけいのないこと。男たちはバカみたいに死んでゆき、残された家族はお国のためだと涙をこらえる。これは喜劇だ。国をあげた喜劇だ。わたしは本を読みながら警報を聞いた。センターへにげようか。そう思ったけれど、どうも足が動かな

          わたしは戦わない

          豆大福

           松風と書かれた人力車が私の前を通りすぎた。おおきな車輪は滑るようにアスファルトを走る。すごく軽そうだった。どこへ向かうのかは知らない。ぼんやりと往来の人間たちが視界に入ってくる。錦鯉のような品のない着物を纏った若い女が互いに写真を撮りあい、外人が嬉々として指をさす。交差点の信号が青になり、人間たちが道路へ侵入する。とたんに私は観光地の景色となった。  家まで歩いて帰ろうと思った。なんとなくそう思った。東武浅草駅を越えて隅田公園を歩く。ふと立ち止まって、スカイツリーを仰ぎ見る

          豆大福

          翻訳『花桜折る中将』(堤中納言物語より)

           やけに月が明るいと思ったら、今日はスーパームーンだった。  そら、目も覚めますわってことで、ちょっとぶらっと歩いたつもりだったけど、ずいぶん遠くまで来てしまった。女もそのままにしてきたし、後でどやされるぞこれは、と少しげんなりしたけれど、帰るのもめんどくさい。  あたりはしんとしていた。スーパームーンが爛々と輝き、梢の花が咲き乱れている。その様が、さっきの女の家で見たやつよりもイカしていたので、思わず「そなたへと行きもやられず花桜にほふ木かげにたびだたれつつ」とポエった。

          翻訳『花桜折る中将』(堤中納言物語より)

          ハイテクノロジー・フィロソフィー

           大久保が爆発した。  比喩ではなく。大久保は破裂した。おれのノートの上には飛んできた大久保の鼻がのっている。ボールペンで端に寄せようとしたら血でノートが駄目になった。最悪だ。もうすぐ学期末試験だというのに。  大久保が爆発したのは西洋思想の講義中だった。たしかカミュだかサルトルだかの話をしている時だった。ぽんっ、と音がしたと思ったら前に座っていた大久保の頭が消えていた。辺りには大久保のものと思われる肉片が散乱していた。耳は高杉の筆箱の中に入っていた。教授が、どうした?と言う

          ハイテクノロジー・フィロソフィー

          マゴット・ブレイン

           くしゃみをしたら脳みそが少しでた。鼻から。ティッシュにこびりついた赤黒いどろどろしたそれは明らかに脳みそだった。おれはそれを鼻から吸い込み、ひとまず元通りにしたけれど、鼻から脳みそがでてきたという事象に戸惑いを隠せなかった。弱った。あんなどろどろの形状なら再び出てくるのも時間の問題だ。さっき出てきたのは全てではなかろう。一部にしても、全体の何割くらいの量がでてきたのか、凄く気になった。最終的には全ての脳みそが鼻からでてくるのか。そうなると、おれはどうなるのか。脳死ということ

          マゴット・ブレイン

          涯への散歩

           月を見すぎたら、目が馬鹿になった。視界にずっと月の残像がゆらめいてる。世間がスーパームーンなんて騒ぐから、ちょっと見てみようってんで外に出て月ガン見してたらこれだよ。月の光はマジでヤバい。ずうっと見てたら目の奥がこうじんじんしてくる。普段感じない光を浴びて神経が驚いているんだろう。ああなんかヤバいな。ヤバいと言えば、俺の生活状況。これがまた絶望的にヤバい。大学を卒業してから定職に就かず、アルバイトをやったり辞めたりを繰り返してきた。今はなにもしてない。故に金なし。家賃も3ヶ

          涯への散歩