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「麻婆豆腐が食べたい」と、母が言うから。

「何が必要なんだっけ?」

買い物カゴを取りながら、母がたずねた。

「え〜と、豆腐と、豚ひき肉、花椒と・・・」

きょうの晩御飯は、麻婆豆腐。担当は私だ。

実家に帰るときは決まって、母の手料理だが、今回は母からリクエストがあった。

「この前つくっていた、麻婆豆腐が食べたい」と。

以前私が麻婆豆腐をつくって、母に写真を送った。それを見て、食べたくなったらしい。ついでに、父の好きなバンバンジーと、夫に評判のよかったシュウマイもつくることにした。

スマホにリストアップしておいた買い物リストを開いて、母と並んで食品売り場をまわる。

なんだかこの感じ、懐かしい。中学生の頃まで、毎週末、母と一緒に近くのスーパーに買い出しに行っていたことを思い出した。

ひとりで調味料を探しにいって、母の元に戻ると、誰かと親密そうに話している。よく見ると、母と同い年くらいの女性の店員さんだ。試食用のステーキをホットプレートで焼いている。

私の存在に気づいた母は、「娘なんです」と、その人に紹介した。

「あらー、お嬢さん!?いつも話きいてるよ〜!お母さん、寂しがってるわよ〜!」

人見知りの私は、頑張っても笑って会釈するしかできない。娘としての立ち振る舞いを無事に終えて、ひと息つく。

つぎは向かいの肉屋へ。豚ひき肉を注文するなり、母は店員さんと雑談をはじめた。

「私の娘なのよ〜!きょう麻婆豆腐つくってくれるの」

また、母と同い年くらいの店員さんだ。

「きゃ〜!いいね〜!前から楽しみにしていたもんね」

スーパーの店員さんと母は、まるで友だちみたい。どうやら母は私とのラインも、店員さんに見せていて、私の近況は大体把握しているらしい。

ほぼ毎日顔を合わせるスーパーの店員さんは、母にとって私に替わる「喋り相手」になっているのかもしれない。私が実家を出てから、母の雑談相手は、もう父しかいない。店員さんとの雑談は、そんな母を取り巻く環境の変化もあったのかな、と勝手に想像した。母は昔からおしゃべりだから、私の気のせいかもしれないけれど。

母の変化を感じながら、自分はどうかと考える。離れて暮らすようになってから、なにか変わっただろうか。

ひとつあるのは、母のお願いを受け入れられるようになったこと。麻婆豆腐をつくることもそう。実家で暮らしていたときなら、間違いなく「めんどくさい」の一言できっぱり断っていた。

もちろん今も、連絡を返さなかったり、そっけない返事をしてしまうこともたくさんある。でも、できる範囲で母のお願いごとに応えたいなと、ささやかに気持ちが芽生えたのは、自分でもびっくりだった。なぜなのかは、まだよくわからない。

次は、何を母からリクエストされるだろう。

次もつくるレシピめも📝

辛めの四川風が好きなので、「陳麻婆豆腐 レシピ」で検索したら、出てきたやつ。

レシピには「なくてもよい」と書いてあるけど、「花椒」は絶対絶対あったほうが良い。できれば、粉になってない、実(ホール)の状態のやつ。できたてのマーボーにふりかけるだけで、家庭料理の域を軽々と超えていく。口から鼻に華やかな香りが広がって、ビールに合う麻婆豆腐が出来上がる。

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