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「あなたの作品は何をいちばん伝えたかったんですか?」と聞かれることに飽きてしまった

劇作・演出していた演劇を上演するということは、大事に育てていた娘を嫁にだすのと似ている。…僕は娘を嫁にだしたこともないし、娘がいたこともないからよくわからないけれど、世間のパパはこんな気持ちになるのかと想像をめぐらせている。

あとは幼い頃に見た映画『クイール』を思い出す。クイールがパピーウォーカーの仁井夫妻のもとを去るとき、夫妻はこんな気持ちだったかもしれない。

作品を立派に育てたし、作品に育てられた。もうこれ以上僕たち二人で取り交わされる会話に意味はない──意味がないことなんて絶対ないし、絶対なんて絶対にないのだけれど──そう思ってしまえるくらい、飽きるほどに僕たちは話し合ってきた。僕は君以外の人と、君は僕以外の人と出会うために、まだ見ぬ自分を発見するためにとりあえずさようなら。本番初日の夜はこんなふうに想っている。

僕のもとを離れた作品が褒められると嬉しい反面、やはり自分だけのものでなくなってしまったことに気がつく。

作品は時に貶され批判の対象となることもある。僕の作品はよく、「いちばん伝えたいことは結局何だったの?」と批評される。伝えたいことはないわけではないけど、話すと長くなるので「いやぁ…」とだけ言って逃げてしまう。

好きなように解釈してもらってかまわない。作品はもう僕の手許を離れてしまったのだから。

僕は、伝えたいことよりも書きたいことを書くことを優先したい。今の自分にしか書き遺せないことを書きたい。結果、それが伝えたいことになる。

とはいえ、「伝えたいことは?」と訊かれるのにも、もう飽き飽きとしてしまったので、ここらで僕の伝えたいこと(「伝えなければならないこと」と表現したほうがちかいかもしれない)を詰めこんだ作品をつくってみようと思った。それが7月末から始まる演劇作品『夢の旧作』。

台詞のない演劇。俳優たちは全身全霊でメッセージを伝えようとする。これを観てもなお「伝えたいことは?」と尋ねてくる人がいたとしたら、僕は「いやぁ…」って言ってまた逃げちゃうんだから。

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