耳が鳴る
飛行機が嫌いなのは、痛烈なトラウマがあるせいではない。私の耳は気圧の変化に非常に弱い。酷いときは、空の上で鼓膜が破けてしまうくらいの痛みに襲われる。耳の内から鼓膜を無理やりに引っ張られたかと思ったら、今度は耳の外からぐいと押される(人生であまり経験することない痛みだ)。耳たぶを切り落とせばこの痛みが治まるなら、切ってしまいたくなる。耳なし芳一は耳をもぎ取られたときに身動き一つせず、声を上げることもなかったという。苦しみから解放された私は微笑するかもしれない。
この前のフライトでは、鼓膜に多少の違和感こそあったものの痛みはなく助かった。私は安心して成田空港のゲートをくぐった。スカイライナーに乗って日暮里まで着くと、私は眠りについた。それはかなり深い眠りだった。低反発のマットレスに体がどこまでも深く沈んでいくような気がした。
夢を見た。どんな夢だったかは覚えていない。でも、夢の中の僕は後悔をしていた、「もっと早くやっておけばよかった」
そんなことはない、とナレーターのような声が言う。
「それでも」と私は一瞬口ごもり、続けた。「今さらやっても遅いと思う。今から始めても無駄にコストがかかるだけじゃないか?」
「何をするにも、明日は、来月は、今より確実に年を取っている」
今日も最後まで読んでくださってありがとうございます。 これからもていねいに書きますので、 またあそびに来てくださいね。