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囲碁と将棋をしないかね?

まだ時間もあるので、亀戸の公園で昼ごはんでもとろうと思った。Googleで検索して手ごろな場所を見つけたのでバイクで向かった。

公園には信じられないくらい沢山のおじさんがいた。とはいっても、20人くらいだ。でも平日の昼間だよ。敷地面積とのバランスから考慮しても多すぎる。

おじさんたちはビールケースの上に碁盤や将棋盤を乗せて対局している。それをまるで世界の命運がかかった、世紀の一戦かのように固唾をのんで見守る人もいれば、いつか現れるであろう好敵手を待ちながら悠然と雑誌のページをめくる人もいた。

こういう風景を見ると、この国は本当に平和でいい国だなと思う。僕はそれを横目に家で用意した簡単な弁当をつついた。平日の昼間から公園で悠々自適に暮らす生活が羨ましい。ハトに餌をやりながら小説を読んで、日が暮れたら奥さんのもとに帰って、あったかい夕餉をいただこう。でも、こういう生活を送れるのも、定年まで勤めあげたからなんだよね。きっと僕くらいの年齢のとき、おじさんたちはあくせく働いていたんだろう。そのご褒美として囲碁と将棋のある生活を手に入れることができたんだよね。

「最初から好きなことだけして生きようったってそんな甘い話はないよ」と言われたような気がした。
でも、僕らがおじさんたちと同じ年齢になるころには、おじさんたちみたいに年金はもらえなくて、屍になるまで働かさせることになるんですよ! どうせ死ぬまで働かされるなら好きなことを仕事にしたほうがいいじゃないですか。それに終身雇用制も崩壊しようとしている現代では、一つの企業に勤続していても安定することはないでしょう(いや、安定しない)。僕らは僕らなりに、より良い生き方を模索しているんです。…はあ。

「ごちそうさまでした」と声にもならない声でつぶやいて、弁当箱を閉じた。これから喫茶店でカフェ・ラテでも飲みながら、悠々と文章を書く算段だ。そのあと、演劇の稽古。僕にとっての囲碁と将棋はその2つだった。


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