孤独的学習

一軒家の玄関前。
犬が、撫でられている。
舌を出して、息をしている。

老婆の手が犬のあごを撫でると、
犬は嬉しそうに頭を預けた。

老婆は犬を置いて玄関の中へ戻ると、
みかんを持ってきて、皮を剥いた。
真剣に皮を剥く緊張感に流されて、
犬もみかんを見つめていた。

ふと、家の中から老爺の怒鳴り声が聞こえた。
老婆は慌てて玄関の中へ駆け込んだ。
剥きかけのみかんを持って消えてしまった。

犬は、舌を出して、
老婆の手にあった異様な物体を待った。

何かするに違いないだろう。
鼻につんとくる匂いで、
ボールのような見た目で、
面がぺらぺらとむけていた。
きっとあの不思議な物体で、
老婆は犬に何かするに違いない。

犬が耳をピンと立てると、
玄関が開いて老婆が戻る。

しかし、老婆の手には皺くちゃな肌のみがあった。
犬は、鼻をヒクヒクと震わせて、
皺くちゃな肌を舐めた。

あの物体が現れることを想起し、
懸命ににおいを嗅ぎ、
ここぞとばかりに皺くちゃな肌をペロリと舐めた。

おぉ、よしよしこの甘えん坊。
いいこだ。いいこだ。
老婆はたいそう喜んで、甲高い声で犬を褒めた。

犬は石のように硬くなり、
目を丸くして首を傾げた。

なんだ。
あのにおいは、
あの物体は、
この事象における、ただの起点なのか。

あのにおいの終着点は、ここなのか。

犬は尾を振り、耳を下げ、激しく興奮した。
異様であったはずの物体の存在を忘れ、
老婆の頬をペロリペロリと舐め続けた。

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