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Swinging Popsicle LOUD CUT 発売記念インタヴュー

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前作『Go on』以来、約2年ぶりにリリースされたSwinging Popsicleの新作『LOUD CUT』はPCゲームの"スマガ"の主題歌を手がけたことから派生したアルバム。なのでその主題歌はもちろんのこと、そこに使われているBGMに歌詞をつけた作品もあり。

とはいえこれは純然たる彼らの新作アルバムなので、後半は彼らのオリジナルで彩られている。そこには旧作の新録あり、リマスタリングされた作品あり。また新録は彼ららしいこだわりが伺われる、モノミックスだったりする。

そしていうまでもなくその全容はポプシクル・ワールドで、ゲームから派生したアルバムとはいえ、彼らのニュー・オリジナル・アルバムといってもおかしくない作品になっている。実は私は最初このアルバムをPCゲーム絡みのものとは知らずに 聴き、なんの違和感もなく"ああ、ポプシクルらしい"と思っていたぐらいだ。

今回ラッキーなことに彼らに直接話を聞くことができ、よりアルバムの世界を身近に感じられるようになった。このインタビューによる追体験で、みなさんにとってもまたこの『LOUD CUT』がより身近なものになってくれたらうれしい。

取材・文/角野恵津子 編集/黒須 誠  撮影/編集部

本記事は2009年9月15日にポプシクリップ。上で掲載されたものです。


やったことないことをどんどんやっていきたいなっていうテーマが僕の中ですごくあって、ゲームの音楽をやったのもその流れの中だった(平田)

──今回の『LOUD CUT』は、PCゲーム"スマガ"の主題歌をポプシクルが手がけたということがまずあって、そこから始まったアルバムなんですか。

平田 そうですね。"スマガ"と"スマガスペシャル"という、ふたつのPCゲーム の主題歌をやらせていただいて、そのゲーム自体の人気もありつつ、その中の音楽も評価が高くて、音楽的な盛り上がりがあったので、じゃあそこからスピン・ オフ(派生)した、ポプシクルありきの企画アルバムを作ろうかという流れになったんです。

──この"スマガ・スペシャル"の主題歌「Perfect Loop」が世に出たのは、最近なんですか。

平田 スマガの主題歌「(a)SLOW STAR」が去年で、スマガ・スペシャルの主題歌「Perfect Loop」が今年の6月ですね。

──じゃあこの2曲は、シングル感覚で作った楽曲なんですか。

平田 そうですね。実際シングルという形で発売はしてないんですけど、そのゲームのサウンド・トラックがあって、それには収録されます。

──その主題歌をやることになったのは、どういういきさつだったんですか。

平田  ニトロ・プラスという、ゲーム業界の中でも音楽に真面目に取り組んでいるレーベルがあるんですよ。そこからポプシクルに、その主題歌を作ってほしいというオファーがありまして、その流れでゲーム自体のBGMも僕が主体になって 作ることになったんです。それを僕らはゲーム業界の音楽の作り方とは違うポップス・フォーマットで作ったんで、それがとても新鮮に響いたようで、2ちゃん ねるのユーザーが選ぶ、音楽業界でいうレコード大賞みたいなのがあって、そこで去年1位が取れたんですよ。今までそこでニトロプラスの作品が1位を取った ことは1回もなかったから、それはなかなか素晴しいことだということになって。

──それはすごいことですね。

平田 そうですね。ゲーム音楽というのは、それはそれで独自のマーケットというか文化が存在してるんですけど、僕らはいわゆる音楽業界にしかいなかったから、そういう世界があるという事実を知らなくて、今回はいろいろ僕らにとっても新鮮なできごとが多かったんですね。

──その"スマガ"の音楽全てを、ポプシクルがやっているというわけではないんですか。

平田 細かくいうと主題歌はポプシクル、全体のサウンド・プロデューサーが僕。その中で、この曲は嶋田くんに書いてもらおうとかいう流れですね。

──じゃあもう全面、ポプシクルの音楽という感じですね。

平田 まあほとんど。ただ、他のアーティストも入ってるんですよ。大槻ケンヂさんとか、あとキューブっていう、今カスタネッツでドラム叩いている元セロファンの溝渕ケンイチロウくんが、カスタネッツとは別にもうひとつやってる女の子 ポップのバンドとか、あといとうかなこさんという、オリコンでも左ページに入るような、その筋では有名な方とか。

──そういうミュージシャンの選択は、平田さんがやったというわけではないんですか。

平田 キューブを紹介したのは僕だったりするんですけど、大枠は決まってました。

──主題歌に関して、こんな感じの楽曲にしてほしいとかいう要望が先方からあったりしたんですか。

平田 まあ、ノレる曲が一番。

藤島  歌詞はメチャメチャありました。"スマガ"主題歌の「(a)SLOW STAR」の時は、ワンコーラス目はこういう感じで、ツーコーラス目はこんな感じでって、けっこう決まっていて、その中でワードを探していくっていう感じ でしたね。そこまでフィックスされたものは初めてだったんで、わりと苦戦しましたけど、出来上がったらすごい評判よくて、自分達が思い描いていたものをやってくれたっていう評価もしていただいたんです。だからまず"スマガ"の主題歌を作る中で、私も作り方がつかめてきたというか。なので今年になってやっ た"スマガ・スペシャル"の主題歌は、わりと御任せしますみたいなことでやらせてもらいました。

──今回この2曲に関しては、たとえば作る前に映像を見せてもらったりとかいうことはあったんですか。

藤島 ストーリーとかキャラクターのデザインとかは見せてもらいました。スクリプト(台本)とかも送っていただいて。なのでスクリプトを読み尽くして、そこから広げていくという。

──ざっくりとでもあらすじを知ってから聴くと、歌詞になるほどと思ったりしますね。

藤島 ゲームの中に出てくる曲なので音楽によって、より以上にゲームをやってるユーザーの気持ちを高めたいですよね。できれば泣いてくれたらという感じで。そういう気持ちは、歌詞を書いててありましたね。

──それはポプシクルの曲の作り方とは違うと思いますが、それはそれで面白かったり楽しかったりしました?

藤島 そうですね。大変だったけど。ゲームの趣旨に寄っていくことが最終的には一番の目的だなと思ったんですけど、最初はそのコンセンサスを取るのが大変だった んですよね。「(a)SLOW STAR」を最初に書いた時は、作詩ポプシクルという名前も出てくるけど、ただゲームの主題歌を書くというお仕事ではない、つまり自分達の曲として出て行くんだったら、今までやってきたポプシクルのイメージと、そのゲームのイメージとがリンクすべきなのかそうじゃないのかというところで、すごく悩んだりし て。だからワンワード置いていくことが、最初はすごくきつかったというか。でも書いていくうちに、もうその趣旨に従ってゲーム寄りにいこうっていうのがだんだんはっきりしてきて、それがいいんだろうなって、自分の中で整理されていったみたいな。

──BGMっていうのも、こういう感じとかいう要望はあったんですか。それともわりと自由に作れたんですか。

平田 そうですねえ、わりと大きなイメージがあって、たとえば「Good Time」だったら、"ポプシクルらしいこじゃれた雰囲気にしてくれ"っていうような。で、ああ、こういうんだったらもしかしたらシマッチの方が、僕よりもおいしいところ出せるかなみたいな。そういうのは嶋田くんにふってみたり。

──この「Good Time」はどんな感じで作ったんですか。

嶋田 ゲームのキャラクターの女の子がいるんですけど、そのイメージで。それとたとえばちょっとボサノバっぽい感じとかいう、漠然としたキーワードをいただいて、それで自分なりにイメージを膨らまして、僕だったらこうするなっていうのを作ったんですよね。  

──単にポプシクルの作品として作曲する時と違って、そういう要望をもらうというのはどうなんですか。

嶋田  逆にコンセプトがはっきりしてる分、発想がしやすいというのもありますね。 ポプシクルだと、じゃあ、将棋のコマを次どう進めるかみたいに、選択肢が広いわけじゃないですか。だけどアニメでキャラクターが決まっていると、発想がし やすい。だからわりと安産で、スルッとできましたね。意外とこっちの方が得意なんじゃないかな、なんて。でもポプシクルのオリジナルの作り方っていうのは 毎回毎回、ああでもないこうでもないって考えながら作ってる部分もあって、それもまた楽しいですね。両方違うベクトルの楽しさがある。だけど今回は面白かったです。

──BGMに詩を乗せたっていうのが4曲ありますけど、それは"スマガ"の主題歌から膨らましてアルバムを作ろうってなった時に、じゃあBGMにも言葉を乗せてみようということになったんですか。

平田 そうですねえ。まあ去年から、やったことないことをどんどんやっていきたい なっていうテーマが僕の中ですごくあって、去年はメキシコ行ってライヴやったりとか、ツーデイズのワンマンを初めてやったりとか、ゲームの音楽をやったり というのが、そういう流れの中であって、BGMに藤島の歌を乗せたらどうなるっていうのも、単純にやったことないからやってみたいという。で、メーカーに持って行ったら「あ、いいね、やりましょうか」という感じでしたね。

──藤島さんとしてはその、BGMに詩をつけるというのはどんなふうにやったんですか。

藤島 『LOUD CUT』の曲順がクロニクル的になってるというか、前半は全部スマガ系のもので、間にインストを挟んで、後半は私達のオリジナル曲があるというふうに、一応別れてはいるんですけど、スマガ系の方はやっぱりゲームに添ってるというか、そこから発生してるところが多いんですよね。「静寂と流星」だけは平田クンが前にやってたオーロラ・ノートっていうバンドの曲をあとからBGMに使用したので、そのオーロラ・ノートの吉田クンの作った歌詞を、そのまま私が歌ったんですよね。だからそこだけはちょっとコンセプトが違うかも知れないですけど、今回書き下ろした歌詞に関しては、全部ゲーム寄りにしてます。

──じゃあ、言葉もゲームと無関係ではないというか。

藤島 そうそう。主題歌ほどではないけど、やっぱりちょっとほんのりテイストがあるように、全部そっちふうにしたつもりなんですけどね。

──「くるり桜ひらり」はいとうかなこさんという、その筋では有名な方に提供した作品なんですね。

平田 いとうかなこさんは、そのニトロ・プラスというゲーム・メーカーの看板歌姫で、さいたまスーパーアリーナであったアニ・ソンのサマー・ソニックみたいなイベントでも歌うような人なんですけど、その人にポプシクルのメンバーが曲を 書こうという企画があって、それで書き下ろした曲です。


ゲームユーザーの方に「こんにちは。はじめまして。よろしくね。」というアルバムであると共に、今までのファンにも裏切らないで聴いてもらえると思います。(藤島)

──今回はスマガから膨らんでいったアルバムとはいいつつ、後半はポプシクルのオリジナルが入ってるわけですけど、その内容はどのようにして決まっていったんですか。

平田 やったことないことをやりたいという前提があったので、まずセルフ・カバーはやったことなかったからやろうと。あとソニー時代の廃盤になってる曲が手に入りにくいということで、ファンのみんなからどうやったら買えるんですか、みたいなことをいわれていたので、こういった機会にちょっと試しに2曲ほどやってみたいなと。さらに試しにモノミックスというのもやってみたいという。そういうふたつの条件を重ねて入れました。あとリマスタリングの曲というのは、去年からゲーム業界のユーザーの方に僕らの音楽を聴いてもらえるようになりましたけど、ポプシクル10年やってても実際知らない方がいっぱいいるわけで、今回のスマガの主題歌より前の曲も、いろいろ聴いてもらいたくて。スマガの音楽 が好きで、そこからカタログを見てポプシクルのアルバムを買ってくれる人もいっぱいいるんですけど、せっかくなんでこういう曲もありますよ、聴いてくれっ ていう、ちょっとボーナス・トラック的な意味もあって。でもただ入れるんだったら面白くないから、今流行りのリマスターで(笑)。リマスターというのもやったことなかったんで。

──そのセルフ・カバーにしろリマスターにしろ、これらの曲を選んだというのはどうしてなんですか。

藤島 ソニーの時の曲が「Let me fly」と「Afterglow」だったんですけど、その「Afterglow」というのは、今までライヴをやってきた中で一番演奏されてる曲なんです よ。でも一番初期の頃に録った曲なので入手が困難だし、これだけ年数を重ねて演奏してると、全然違ってくるんですよね。やっぱり演奏が成熟してくるという か。だからこれだけ演奏してるものの音源が、あんまり手に入らないのは惜しいと思ってくれるんじゃないかなと思って、今回やっぱりそれは入れたいねってい うことになって。これからも多分ずっとポプシクルがある限りは、何かっていうと「Afterglow」やっとこうかっていう感じの、これはもう御挨拶曲に なってるから。で「Let me fly」は「サテツの塔」のシングルが出た時のカップリング曲で、アルバムには入ってない曲なんだけど、すごく自分達もライヴで盛り上がれる曲なんです ね。だからもう1回ちゃんと聴いてみてというか、そういう意味で入れたんですね。だから、ライヴでやってる曲を音源にしたいなっていうのはありました。

──あとは、なんでまたモノミックスなのっていう。

平田 まあ『LOUD CUT』 というタイトルもそうなんですけど、僕の中でどうしてもビートルズというフォーマットがあって、ビートルズも今度ステレオとモノが出るように、じゃあ僕らもって。モノのミックスがはまった時のものすごい破壊力はわかってるんだけど、今となっては逆に、音像の作り方も難しい。だからモノミックスをやるには、 モノミックスに慣れたエンジニアが必要だったわけで、今回の川口さんというエンジニアは、ブルーハーツ、クロマニヨンズ、ハイロウズとかでそのモノミックスを作ってる人だったんで、お願いしたいなと。

──なんか懐かしい感じしますよね。

平田 そうですねえ。「Let me fly」はピアノと歌だけだったんで、そんなにモノミックスに違和感はないですけど、「Afterglow」はちゃんとはまったなと思って、やってみてよかったなと思いました。スタジオで聴いた時に「カッコいいなあ、これ」って。藤島は「Afterglow」をもっと最初の方に聴かせたいっていうぐらい、 はまり具合が気に入ってて。でもまあ、入れるならここしかないなっていうのがあって。ポプシクルがモノミックスをやるっていっても、違和感はないじゃないですか。浜崎あゆみさんがモノミックスをやるっていったら、"なんで?"ってなりますけど。僕らは古い音楽が好きで、モノミックスの音楽も違和感なくずっと聴いてきたので、出す事には狙いというか、そういう気持ちは全くない。ただ、モノミックスを上手にできる人がいないとできないから、たまたまそういう機会に恵まれたというだけで。

──ポプシクルの音楽を聴いていると、この人達はビートルズが好きなんだろうなと思いますもんね。

平田 僕らはファンでもあるから、マネしたいっていうのはこのトシになってもいくらでもあるんで。

藤島  やっぱ刺激じゃないですかね。やってくことで自分達のスタイルは作られていくんですけど、やっぱり何かひとつ作る時に、自分達の面白いと思える刺激がほし いじゃないですか。モノミックスもそのひとつだったと思うんですけど、平田 クンがモノミックスをやりたいっていってきた時に、それが面白いと思えたらやってみたい。それってビートルズの考え方じゃないですか。あの当時に新しいことをどんどんやってく、自分達の考えた事をどんどんやってった人達なんで、そういう意味での刺激になることは自分達もやりたいっていうのはありますよね。 それだけでなんかちょっと面白そうだねっていう。

平田 だからメンバーの同意がないとできないことですよ。これはやっぱり。シマッチも藤島も面白そうだねっていってくれて、それで実現したっていう。

──でも音楽の指向性とかセンスとか、そういうのはわりと似てるというか。

平田 まあ、大筋。

──実際にリリースされてみないと、どういう方が聴いてくれるかはわからないけど、想定としては、今回はわりとゲーム・ユーザーが聴いてくれるんじゃないかというところはありますか。

平田 確かに、出所が"スマガ"という大義名分があったんで。それがなかったらこの企画はなかったものですから、そこは大前提にあるんですけど、でもそこだけに発信する音楽を僕らは作って来たわけじゃないので、今までのポプシクル・ ファンにも楽しんでもらえると思う。そしてゲーム・ユーザーにも、よりSwinging Popsicleを知ってもらって好きになってもらいたい、そのふたつの大きな意味を考えると、今回はこういう内容でいいのかなということですね。

──大きい目で見るとまだポプシクルを知らない人はたくさんいるし、とりあえず今まで知らなかった人にひとりでも多く聴いてもらえるという意味では、今回は新規の方々が聴いてくれる可能性は高いですよね。

藤島 そうですね。だからゲームユーザーの方に「こんにちは。はじめまして。よろしくね。」というアルバムというか、そういうところはあります。でもさっき平田クンがいったように、絶対今までのファンも裏切らないものにするっていうのは暗黙の了解であって、あとミュージシャン仲間にも聴いてもらったら、今までのポプシクルと同じように違和感なく聴けるぜみたいなことはいわれて。だから、今までのファンも裏切らないで聴いてもらえるだろうなっていう気持ちではいます。

──実は私は最初ゲーム絡みのアルバムだとは知らずに聴いていて、でも全然ポプシクルのアルバムとして違和感なかったんですよね。

平田 それはよかったです。

──個人的なことでもかまわないので、御自分で思うこのアルバムのポイントみたいなことって。

平田 実はスマガ・スベシャルのサントラがこれから出るんですけど、それよりも先 にそれに未収録のBGMの方が先に出るっていうのが面白いなと思ってて。同じように、いとうかなこさんに作った「くるり桜ひらり」はまだリリースされてな くて、それをセルフ・カバーをした僕らの方が先に出ちゃうというのも掟やぶりではあるけど、ちょっと面白いなっていう。そういう実はマニアックなチャレンジがあります。やってないことをやるというのもあって、ちょっとそういうのが入ってるんですよね。

嶋田 平田クンがイニシアチブをとってこのコンセプト・アルバムを作ったんで、僕はわりと平田クンの曲に1ギタリストとして参加という意識の曲が何曲かあって、僕もそれが楽しかったりします。この8小節に命をかけて俺を表現してみよう みたいな。だから平田クンの曲の中でギターをクリエイトするっていうのが、わりとマイ・ブームになってる、そういう感じなんですよ。で、そこに燃えてる。

藤島 (スマガの中に)いっぱいBGMの曲があると思うんですけど、その中から ピック・アップをしたのは平田クンなんです。その中に、ポプシの今までリリースされなかったデモ・テープがこの曲になってるんだっていうのがあるんですよ。デモ・テープだったのがBGMとして先にリリースされて、それが戻って来たって感じです。やっぱりこれがやりたいんだっていう(笑)。だから、平田クンの思いが見えてるアルバムかなって。

平田 確かにそういう部分もあるけど、曲をチョイスしたのは、ユーザーがこの場面にくるとぐっとくるというリサーチを元にしたのが基本なんですね。


元々スタジオでジャムって、曲のアレンジを煮詰めるバンドではなく、デモ・テープを構築するタイプ(嶋田)

──ところで今回に限らずポプシクルの作品て、英語と日本語が半々ですよね。それはどうしてですか。

藤島 うーん。それは自然発生というか。自分達のバック・グラウンドに洋楽っていうのは絶対欠かせないので、好きなものをやろうって始まったバンドだから、最初はずっと英語の歌詞でやってたんですよね。そしたら運よくデビューが決まっ て、日本人の方に聴いてもらうのには英語ばっかりやっててもねっていうのは、もちろん私の頭の中にあったので、そこから日本語にシフト・チェンジしたんで すね。でも私達はサビのハモリの三声とかも売りにしてるんで、たとえば"私がなんとか~"っていう日本語をサビにもってきちゃって、それを男の人がハモる とちょっと気持ち悪いじゃないですか。だからそこら辺は意識して、わざとサビのところで英語をもってきたりとか。"I"なら男だろうが女だろうがいけちゃ うところがあるから、そういうふうにわざと意識して中性的な歌詞を書いたりする時はありますね。それで英語に頼っちゃうとこもあったりして。でもまあ、単 純に好きなんですけど。英語の響きとか英語の発音に近付けるとこが自分で楽しかったりとか、この発音もうちょっとがんばんなきゃなとか。英語オタクってい うんですかね(笑)。3人ともわりと英語に興味があって、英語はうまく歌えないとか、英語の意味がわかんないとか、そういうのがないので、英語をわざと排除する意味がなかった。さらにインディーズになってから、もっと意味がなくなったんですよね。だからその曲に合う言語がいいと思って。すごいノリが英語の 発音に合う曲って、あるじゃないですか。ひとつの音に日本語だと「あ」しか入れられないのに、「well」って入れられたりとか。だから、英語と日本語は 全然違う。それによって、歌のノリも変わってくるし。だから、曲が一番生きる言語でいいんじゃないかと思ってるんです。だからたとえば曲が出来てきた時に、まだ自分のイメージが英語か日本語か決まってなかったりすると、作者に"英語がいい? 日本語がいい?"って聞いたりします。そしたらイメージは英語 なんだけどとか、どっちでもいいよとか、日本語で書いてみたらとか。

──今までの作品で、平田さんと嶋田さん、どちらの方が日本語率が高いとか英語率が高いとか、そういうのはないですか。

藤島 比べたことはないけど、どうだろう。

平田 いわれれば、シマッチの方が多かったかなという気はします。

藤島 曲がシマッチが多かったからね。圧倒的に。

平田 あと、シマッチのデモの方が英語っぽい歌を歌えるの。

──でも海外でもライヴをやったりしてますから、結果的には英語の曲があってよかったですか。

藤島 そうそう。でも海外でデビューしたいとか、そこまでは思ってなかった。最初始めた時には、自分達の好きな事をやっていけたらいいなっていうだけ。

──海外でライヴをやる、最初のきっかけというのは何だったんですか。

平田 最初は韓国に行ったんですけど、その時は韓国にたまたま日本のギター・ポップみたいな文化がすごく好きな人達が意外といるという事実を聞いて、すぐレーベルの人に、韓国のレーベルを探してくれって。僕らの周りのプレクトラムとかアドバンテージ・ルーシーとかが行ったんですね、韓国に。それで知り合いになった人がポプシクルのファンで、うれしいなあなんて。そういう御縁もあって、 もう5~6回は行かせていただいてますね。

──ポプシクルがビートルズ好きというのは聴いててわかりますが、でも半面打ち込みとかですごく音を作りこむ部分もあって、両刀使いだなって。

平田 それは正解だと思います。

──スタジオ・ワークはどんな感じでやってるんですか。

平田 ポプシクルの特色は、絶対的に優秀なシンガーがいて、嶋田・平田という2人のコンポーザーで曲を出し合ってるのがあるんで、ふたつのサウンド・プロダクションがあるんです。だからシマッチが作る曲に、僕は意外と参加しなくて、僕が作る曲にシマッチもあまり参加しない。すごく珍しい作り方だと思うんだけど、それだからお互いの趣味が反映されている感じだよね。特に最近のはミックスの時に、あ、こういう曲なんだって聴くのもあったりとか(笑)。

──じゃあスタジオ・ワークも全員そろってやるわけじゃない。

嶋田 そうですね。

藤島 最近はもうそんな感じで、初ミックスとか初マスタリングの時に初めて聴く曲とかもあるんです。

──じゃあ嶋田さん作曲だと、ヴォーカル入れの時も平田さんは来てなかったり。

藤島 最近は来てない。最近は歌入れさえも、私ひとりでやってたりとか(笑)。

嶋田 平田クンの曲がファイルで送られてきて、それに僕がギターのソロを入れてまた送り返すっていう、そういう作業だったり。

藤島 歌もそうです。歌入れて送ったりとか。

嶋田 でメールが来て、グレートなギター・ソロをありがとうみたいな(笑)。それで完了なんです。

藤島 歌もそう。「バッチリです」って(笑)。

平田 シマッチにギター・ソロ入れてもらって、それを聴いてこっちがこうしてほしいとかいってもいいのかも知れないですけど、こんだけ永くやってると、まさに「グレートなギター・ソロでした」という感じで、すぐOKですね。

嶋田 元々スタジオでジャムって、曲のアレンジを煮詰めるバンドではないんです。 元々そういう作りはしてないので。わりとソニーでやってた時代から、デモ・テープを作り込んで持ち寄って、そのデモ・テープがもう最終段階の骨組みというか、青写真になってる。だからデモ・テープを構築するタイプ。

──じゃあデモとはいえ、もうほとんど完成品に近いところまで作り込んでる。

嶋田 そうですね。その辺はもう10年やってるし、基本的には変わってない。で、こういう宅録が主流になってくる状況の中で、より自分で突っ走りやすくなったというか。

──でもライヴとの折り合いのつけかたはどうしてるんですか。ライヴでの頻度が高い曲と、ほとんどやらない曲というのが、どうしても出てくるんじゃないですか。

藤島 そうです、そうです。だから「Go on」という曲は1回もやったことないですし、再現しづらいというか。だから1回もやらない曲もありますね。触ってみるけど、やっぱちょっと違うねってやめちゃったりとか。

──CDに入ってる世界にできるだけ近付けようとするのか、あるいはもう丸っきり違うものにしてしまうのか、どうしてますか。

藤島 曲によりますけど、けっこう割り切って取り組む方が多いですね。

平田 構築していく曲だと、やっぱりどうしても役者が足りなくなりますからね。でも僕らの曲って、各楽器を全部とっぱらって歌とメロディーだけにしても、ちゃんと 曲になってる。そこにこだわってるところもあるので、楽器がいくらかなくてもなんとかなるかなって。逆に極端にアコギと歌だけでやってみたらどうだろうってやって、わりとうまくいったり。そういう意味ではまあ、いかようにでも なるっていう作りなんで、あまり大きなこだわりはないですね。ただ作ってる時に、これはライヴで盛り上がりそうとか、そういうのはすごく感じたりするんで すけど。あと、ひとりで作ってるじゃないですか、基本的に。だからスタジオに持って行くと、今度はお互いのアイデアが出てくるわけ。だからさらに磨かれるんですよ、曲が。そういう意味でも、ライヴは3人で叩き上げて行く。

──打ち込み派の人って、自分の曲はライヴでは再現できないからライヴはやりませんという人もいるけど、ポプシクルの場合はライヴも盛んにやってるという、そこがらしさというか。

平田 そうかもしれないですね。ビートルズみたいに、もうライヴはやらないという時期が来ないといいですけどね。

──こちらもそう願います。

平田 ライヴは最新の音が鳴らせる大事な場所なんで、やっぱりライヴは楽しいなあって思いますね。

──ひょっとしてELOとかも好きなのではないですか。

平田 それは正解です。こちら(嶋田)が好きで。

──ですよね。「Go on」とか聴くと、そう思います。

嶋田 今作ってる曲もまさに。ジェフ・リンなメロディーが(笑)。

藤島 曲の仮タイトルが「ELO」っていう。

嶋田 まあELOもビートルズが色濃く出てるバンドで、ルーツはビートルズなんですよね。

──ところでレコ発のライヴは、どんな感じになりそうですか。(注)

平田  曲はだいたい決まってはいるんですけど、ゲスト・プレイヤーを入れてやる曲もありますし、逆に3人以下でやる曲があってもいいかなと思ったり。そういう意 味でポプシクルの振り幅がちゃんと出せるような。あと、僕らののほほんとした雰囲気があのハコ(下北沢440)に合ってる。

──やはり、このアルバムの曲が中心になりますか。

平田 レコ発なんで少しは考えるんですけど、歴史が永いバンドなので、そればっかりやるわけにはいかないので、バランスよくみんなが楽しめるようにしたいなとは思ってます。

──最後におひとりずつ、ファンの方に向けて一言。

嶋田 いつもCD聴いていただいてありがとうごさいます。ライヴ来てくれてありがとうございます。けっこう10年活動してきて、いろんなことやり尽くして来たと こあるんですけど、まだまだこれから自分達で面白いことを見つけてやっていこうかなと。まだまだこれじゃ終わらないぞという感じで、自分達も追求してどん どん進化していきたいと思うんで、これからもついてきてください。よろしくお願いします。

藤島 今回インタビューしていただいたのは、ファンの方がファン・サイトをやっているということで、まずそれがありがたいなということと、一応オフィシャル・サ イトがありつつも、またそっちでも盛り上がりを見せてるということで、ファン同士で盛り上がってきてるというところも少しできてきてるという感じがするので、ポプシを通して楽しんでもらえるのはすごくうれしいし、もっともっと盛り上がってくれればいいんじゃないかなと思います。うちらがここに参加することで、またファンの人達も盛り上がってくるだろうし。だからこの勢いを借りて我々ももっと飛躍して、『LOUD CUT』がまた盛り上がってくれるといいなと思います。なのでまだポプシを聴いた事ないという人もこのサイトを覗いて、ぜひ聴いていただきたいなと思いま す。もちろん今までのファンも楽しんでもらえると思うので、期待しててください。

平田  前々からファンの人達にいいたかったことでもあるんですけど、ポプシクルのファンであることに誇りをもっていいと思うんですよ。今これだけ音楽の情報が あって、よくぞここに辿り着いて、よくぞここに住み着いてくれたなっていう意味で、すごい誇りをもってほしい。僕らも誇り高き音楽を作って行くんで、これ からもよろしく御願いします。

──ありがとうございました。

※編集部注 取材は2009年8月下旬に行われました。

http://www.popsicleclip.com/


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