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セッションは、時に語り合うより雄弁になる。映画『異動辞令は音楽隊!』

恥ずかしながら、阿部寛さん主演の作品は観たことがなかった。
今回見るきっかけになったのも予告映像の「ギャップ」だ。強面の刑事に音楽隊への辞令が出て……という意外性が気になった。

社会で見せる「外向けの顔」と身内しか知らない「内向けの顔」は誰でももっていると思う。主人公の刑事もまさに内外の悩みに憔悴していた。
30年現場一筋にこだわった結果、現代の「コンプラ」に取り残されていた「軍曹」。家庭では認知症の老いた母と離婚して別居した娘との関係に悩み続ける男。

劇中序盤で彼が涙を見せるシーンがあった。
あぁ、大人の男でも泣くんだ、と思った。邦画の男性像はとにかく感動以外で泣かないイメージがあったからだ。辛い、しんどい、でも「耐えるしかない」という男性へのイメージが根強かったのかとも思う。

阿部寛さんの大柄で「強そう」な男性像と、悩みながらもがきながら変わっていく様子は正直珍しい組み合わせだ。偏見かもしれないが、年齢を重ねると凝り固まってしまう人間が多いと感じる。だからこそこの主人公のように、変化していける人物像を描くことで「人は変われる」「怒りや悩みをゆっくりほどいてもいい」というメッセージにもなる。

「ご都合」だと言ってしまえばそうだ。この映画全体は「こうなるだろうな」と思った通りに展開していく。先が読める。
でも、それでもいいと思った。主人公の心が救われる、関わった人たちに笑顔が戻る、音楽を好きになった人たちが音楽を奏でていく。
それで、いい。

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