登山に行った話

23区内から山に向かう。
季節は10月で急に朝夕が冷え込むようになった。
平日に有給を取って奥多摩方面へ。
朝ラッシュと重なって西へ向かう南武線は混雑していた。
それでも何とか移動を続ける。
青梅から乗り換えて別の電車に乗る。
電車のカラーは中央線と同じオレンジだが、東京アドベンチャーラインという路線名称がついていた。
青梅からは客層も奥多摩に向かう観光客がほとんどになる。
もちろん大多数が高齢者だ。
都内近郊電車と郊外を走行する電車の違いは、乗客の口数だと思う。
郊外に行くにつれてモータリゼーションが進み、日常的に鉄道を使う住人は減っていく。
一方で、観光客は電車を利用するため、感情の高ぶりから口数が増えて車内が賑やかになる。
この分析が通用するのは関東だけで、関西はまた違うかもしれないが。
青梅から電車は山間部へと徐々に分け入っていく。
刈られていない線路際の木々と電車の窓が接触する回数も増えるが、お構いなしにグングン進む。

御嶽駅に着いた。
今回はここからバスに乗り換える。
ホームに降り立つと23区内と空気が違っている。
ただ、変わらず自動改札機は設置されており、交通系ICカードをそれにかざすとオートチャージが実行された。
駅からバス停に徒歩で向かう。
道すがら、山には同じような木々が見える。

バスに乗車する。
都バスと違って後ろ乗り前降りのため、乗り方を間違う客が多い。
西東京バスという聞きなれないバス会社だが、車内は混雑していた。
バスに乗ってケーブルカーの駅まで移動する。
遠足なのか保育園の一行もバスに乗ってきた。
途中、檜沢というバス停があった。
同じような木々というのは、全て檜なのかもしれない。
父が昔、将来お金を得るために山に檜を沢山植えたと言っていたが、そういった類のものかもしれない。

ケーブルカー下のバス停に着く。
ここからケーブルカーの駅までは急坂だった。
ケーブルカーは京王の資本が入っているらしい。
ここでも交通系ICカードが使えた。
ケーブルカーの全面展望はすごい迫力だ。
とんでもない傾斜を一気に登っていく。

ケーブルカーを降りると、既にかなりの標高だった。
しばらく平坦な道を歩くとビジターセンターがあった。
きれいなトイレとツキノワグマのはく製があった。

更に歩くと昼食をとる蕎麦屋に着く。
蕎麦屋では「もりそば」と「ざるそば」の違いが分からず、スマホで検索する。
結果、海苔の有無で名称が異なるらしい。
30円ほど安い「もりそば」を大盛で注文した。
あとは、マイタケの天ぷらも。
そばも天ぷらも美味しかった。

ここから武蔵御嶽神社に向かう。
300の階段を上ると境内に着く。
都心部やスカイツリーが見えた。
秋晴れで気持ちが良かった。
武蔵御嶽神社は「おいぬさま」という、恐らくニホンオオカミを祀っており、そのためペットと共に参拝する人が目についた。
また、歴史も古いらしく、畠山重忠の像もあった。
つまり、鎌倉時代から信仰を集めていたそうだ。
驚いたが境内まで宅急便が徒歩で何かしら仕事をしにきていた。
また、蕎麦屋の通りまで郵便局員も来ており、こんな標高の場所にまでサービスが行き届いていることに驚く。

武蔵御嶽神社は青梅市であるが、ここから日の出町にある、つるつる温泉まで山を下る。
個人的にはこの下山がメインイベントだ。
登山道をひたすらに下る。
たまに登山客とすれ違った。
森が深い。
祖父母の住む九州の山奥に雰囲気が似ている。
植えられている木も同じだろう。
急斜面にきれいに間隔を保って植えられている。
山は登りも辛いが下りも辛い。
ふくらはぎや臀部が筋肉痛になる。
登山をすると、歩いている瞬間は無心になることができる。
これは個人的に水泳をしているときと感覚が似ている。
且つ、登山は達成感を得られる。
どんなに標高が高くても歩みを止めなければ確実にゴールに近づくことができる。
こんな点が、日頃憂鬱なサラリーマン社会に生きているおじさんにも刺さるのかもしれないと思う。

登山道を下り、日の出町に到達する。
東京都の西側に位置するが、ここは日の出町だ。
つるつる温泉は、日の出町の山奥に位置しており、アクセス手段は自家用車と西東京バスのみだ。
後で調べると、昔は温泉の近くまで国鉄の路線が延びていたそうだ。
泉質は「つるつる」というより「ツゥルツゥル」だった。
露天風呂は狭くて4人が湯船につかれる程度だった。
露天風呂で老人に絡まれた。
金曜日の昼間に彼は温泉にいる。
それ自体は羨ましいが、私の前にも一人、大学生に話しかけていた光景を見ると、結構さみしい人生を送っているのかもしれないと思った。
サウナも狭いが空いていた。
7分×2セットでちょうどよい。
サウナ後に外気を浴びると気持ちが良い。
日の出町の森林が夕日に照らされており、その景色を眺めながらリラックスできた。
体を洗っているとどこからともなく目の前にカメムシが現れた。
私はカメムシをシャワーで隅に追いやろうとしたが、彼はしぶとく抵抗した。
オマケにカメムシ独特の匂いを出してきた。
私は隣の洗面器でカメムシにそっと蓋をした。
そしてそのまま温泉を後にした。
風呂上り、肌の乾燥がひどい。
一気に湿度が下がって季節も進んでいることを体感する。
夕暮れの中、私は再び西東京バスに乗り、帰宅するべくJRの駅へと向かった。

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