サウナモラトリアム 4月4日(木)


サウナ、わからないよ。
最近サウナが異常に流行っている。なんとなくサウナは年寄りの娯楽だと思っていたが、若い人の間でも人気らしい。サウナ特集の番組や雑誌はよく見るし、友達にもサウナを好きな奴がそこそこいる。風呂ではなくサウナが主役の施設まであるらしい。自律神経が整う、身体が癒されると評価されているサウナさん。

しかし俺には、サウナの良さがわからない。たまに友達と銭湯に行った時に入るが、いまいち盛り上がらない。テレビや本で見る人々と俺とでは、明らかにサウナ後の表情が違う。彼らは満足げな表情。俺は終始「これで合ってますか?」という不安げな表情。

第一に、暑すぎる。調べたらサウナ室は大体80度から100度に設定されているらしい。35度の夏の日を嫌って引き篭もるのに、何故自ら100度の部屋に入らなければならないのか。息をするだけで肺が熱いし、折角洗った体が汗でぬるぬるになる。汗を流すために風呂に入ったのに、そこで汗をかくために暑い部屋に入る。そんなに汗が好きなら、風呂に入らなければ良い。上段に座って入ってきた俺をチラッと見るおじさんの存在も、他人の家にお邪魔したような気分にさせられる。

そして、水風呂。サウナから出てきた奴が直行する冷水を溜めた場所。無表情で入っていく姿は、洗脳されているとしか思えない。それか脳が焼き切れているか。俺は数回水風呂への入水を試みたが、桶で水をお腹に掛けることすら命懸けで、一度も入れたことがない。急な体温変化は体調を崩すと教わって育ったであろう人々が、100度の部屋に数分滞在した後1桁台の水に浸かる。俺とあいつらのどちらが間違っているかは自明である。

最後に、外気浴。椅子は冷たいし空気は冷たい。どんなにサウナで体を温めても、その後冷水を浴びているんだから、寒いに決まってるだろ。整うってなんだよ。ぼーっとしてるだけじゃん。それを整うと言うのなら、通学中の俺は終始整ってるよ。あと、前の人が裸で座った椅子に裸で座るのもなんか嫌だし、裸で椅子に座っている俺の目の前を裸の人が通るのもなんか嫌。「どうぞ座ってください」という感じで置かれているビニールの椅子も嫌い。

そして、これらを無言で、かつスムーズに行わなければならない。これが一番嫌。サウナには初心者はおらず、全員猛者である。初心者は潰されるので、自分も猛者であるかのような立ち振る舞いを強要される。会話に関して、サウナの室内で私語禁止なのはギリギリ許すとして、外気浴中は話していいだろ。なんで周りの全裸男性が気持ちよくなるために俺が黙ってなきゃいけないんだ。そんなに他人の会話が気になるなら家でやれよ。ベランダに椅子置いて全裸で座っていれば良い。そして、水風呂小さすぎ椅子少なすぎ。全裸の男が中心に浮いている3メートル四方の正方形に、誰が入りたいんだよ。せめて長方形にしてよ。椅子ももっと増やしてよ。先日行った近所の銭湯で、椅子が無いから外にタオル敷いて寝てるおじさんがいた。可哀想すぎる。幼稚園の昼寝タイムみたいだった。みんな気にせず我が物顔で椅子に座っていたけど、俺は優しいので、おじさんがタオルを敷き始めたら椅子を譲ってしまう。すると結局2分くらいしか外気浴できない。需要に対する供給が足りていない。

だが、サウナが人気なのは事実。サウナを楽しめない俺が少数派になる日が来る可能性もある。サウナに入らず浴室から出ていく俺の姿はネットに晒され、徹底的に潰され、多少擁護され、イラスト化や流行りの曲に合わせて動画化された後、みんなの記憶から消えていく。俺は銭湯に行く度にサウナに挑戦し、煮え切らない気持ちでシャワーを浴びる。

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