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近代短歌(7.1)長塚節(1879~1915)

おしなべて木草に露を置かむとぞ夜空は近く相迫り見ゆ

おしなべて木草に露を置かむとぞ夜空は近く相迫り見ゆ

【露】cf. 近代短歌(5.1)正岡子規
「露」は秋の季語。秋の歌とすれば、「夜空」に「秋の空」を重ねることができる。「秋の空」は澄み、「秋高し」と呼ばれている。

秋の空昨日や鶴を放ちたる  蕪村

秋の日のあかるき空のもとを行く人あらはにも小さなるかな  金子薫園

カラー図説 日本大歳時記 秋/覚めたる朝


鬼灯を口にふふみて鳴らすごと蛙はなくも夏の朝夜を

鬼灯を口にふふみて鳴らすごと蛙はなくも夏の朝夜を

【鬼灯・酸漿】ほおずき
鬼灯は高さ60~80cmほどになる多年草で、6月ごろに白い五弁花を咲かせるが、花期が終わると萼片は大きくなって果実を包み、初秋には鮮烈な赤色に染まる。そのため「鬼灯」は秋の季語になっている。
歌にもある通り、種を取った鬼灯の実をくわえて音を鳴らす遊びがあり、特に女児が遊んだらしい。また、葉や果実を塩漬けにして食べることがある。

鬼灯や地にちかぢかと提げ帰る  山口誓子

さにづらふ赤く照り映える 少女をとめごころに酸漿の籠らふほどの悲しみを見し  斎藤茂吉

カラー図説 日本大歳時記 秋/赤光

【蛙】かえる
主に以下の三種が夏の季語になっている。

雨蛙
 背面は緑色だが環境に応じて茶色や灰色に変化することがある。3~4cmほどで、梅雨のころ喉を風船のように膨らませて「カッカッ」と鳴く
ひきがえるひき蝦蟇がま
 背面は褐色でいぼがあり、刺激すると白い毒液を噴射する。7~14cmほどの大型。
河鹿かじか(蛙)
 背面は灰褐色。名前は「ヒュル」「ヒョロヒヒヒ」と吹笛のような美しい鳴き声が鹿と似ることに由来する。『万葉集』に「河蝦かはづ」と詠まれるは河鹿であることが多い。

この歌の「蛙」はどの蛙だろうか。赤い鬼灯との対比を考えると雨蛙だと思われるが……。

青蛙喉の白さを鳴きにけり  松根東洋城
月の句を吐てへらさんひきの腹  蕪村
河鹿なきおそ月滝をてらしけり  飯田蛇笏

ひしがれて声をのみつつ死ぬ蝦蟇のなほし動かす口の大きさ  斎藤りゅう

カラー図説 日本大歳時記 夏/波濤


鶏頭は冷たき秋の日にはえていよいよ赤く冴えにけるかも

鶏頭は冷たき秋の日にはえていよいよ赤く冴えにけるかも

【鶏頭】けいとう
紅色の60~70cmほどに直立する茎のうえに、深紅・黄・ピンク・紫色などの微細な花のかたまりをつける。いくつか品種があり、花が鶏冠とさかや餃子のように並ぶものをトサカケイトウ、羽毛のように円錐形になるものをウモウケイトウ、槍や短い猫じゃらしのように並ぶものをヤリゲイトウという。一般には「鶏頭」はまず深紅に咲いたトサカケイトウを指し、俳句でもこれを秋の季語にしている。古名は「韓藍からあい」。
ちなみに「 葉鶏頭 はげいとう・かまづか」といい、花は目立たないが秋に頂部の葉を鮮やかな赤・黄に染めあげる種がある。これも秋の季語だ。

鶏頭や雁の来るとき尚あかし  芭蕉
かくれ住む文に目立つや葉鶏頭  永井荷風

女の子頬ずりしたり鶏頭の毛糸の手鞠咲き出でにけり  木下利玄

カラー図説 日本大歳時記 秋/銀



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