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言葉は符号に過ぎない

20歳の頃、勤めていた会社に「グンジさん」
というカッチョいい苗字の女性がいて、
仕事ぶりもカッチョよかった彼女の口癖は

あの人頭おかしい

だった。

批判的な意味ではない。

猛烈に仕事をこなしてた専務を称して
「専務は頭おかしい」と言ったり
残業続きでフラフラでも激務をこなす社員に
「絶対頭おかしい」と言ったりしてたから、
たぶん良い意味での「クレイジー」って
ことだったのではないかと思う。

私も彼女も派遣社員だったけど
彼女は3ヶ月契約の更新の時、
自ら更新を辞退した。

事務しかできない私と違って
彼女はCADを使いこなすバリバリ優秀な専門職だったから、
冷静な頭で「割に合わない」職場だと判断したのだろう。

彼女が会社を去った後、
久しぶりに電話で近況を話したら
「石井(←※旧姓)は頭おかしいから」と初めて私も
「頭おかしい」認定をされ、
「えっ私頭おかしいの?」と確認したら
「うん。頭おかしいよ」と言われて
爆笑したけど嬉しかったのを覚えている。

不思議なことに
彼女に「頭がおかしい」と言われると、
「頭おかしいと思えるくらいによくやってるよ」
というニュアンスに聞こえて、
なんだか認めてもらえたような、
応援してもらったような気がしたのだ。

 
時は経ち、ある時
全然別の人から全然違うトーンで
「あなたは最低な人間」という言葉と共に

頭おかしいんじゃないの

と言われた。

グンジさんが言ってたことと
言葉は同じだったが、
私が受け取った印象は全く違った。

今度の「頭おかしい」には
私を攻撃したい意図を感じた。

「人のことを最低っていう方が最低だい!」と
まるで小学生が
「バカって言った方がバカなんだい!」
と悔し紛れにいうのとおんなじようなことを
心の中で思った(←子ども)

グンジさんの方は今思い出しても
ニマニマと自然と頬が緩んでくるが
後者の方は今思い出してもヒリヒリする。


言葉は単なる「符号」に過ぎない。

全く同じ言葉でも、
その言葉を発した人が
どんな思いでどんな目的で言ったのかによって
受け取り方はまるで違ってくる。

そして、
言葉は「一人歩き」をする。

「お前はどうしようもないな」って言葉を、
言った本人は可愛いという意味で言ったとしても
言われた方は蔑まれたように感じることもある。
(ちなみに父の口癖である)

「どうしようもない」という言葉の定義を
言った方と言われた方がどう持っているか、
それによって
言った方の「伝えたつもり」のことと
言われた方が「受け取った」こととは
まるで違ってきてしまう。

何が言いたかったかというと、
私たちは思っている以上に
事実とは違うところで悲しくなったり
必要以上に傷ついてるんじゃないか、
ってことだ。

言った人の意図とは無関係に、
言葉そのものに自分が勝手に色をつけたり
解釈を付け加えたりしていることがある。

いつのまにか自分がつけた
言葉の「イメージ」の方に
傷ついてしまうことがある。

それって、結構もったいないことかもしれない。

なぜなら、
「言葉」に勝手に傷つくこともあるように、
私たちは「言葉」で相手に確認してみることも
できるのだから。

今となっては、
グンジさんが言ってた「頭おかしい」
の真意はわからない。
当時は、勝手に自分なりに受け取ったことが
「正しい」と思い込んで
確認しようとも思わなかったから。

しかし、別の人から「あなたは最低」
の言葉と共に言われた時は確認した。
「どういう意味ですか」と。

相手の返答を聞いて、
あぁこの人は自分が悲しいから
私にも悲しい思いをして欲しいんだな、
と思った。

だから逆に
相手の思う壺にはまらぬよう、
「相手の言うことには絶対傷つかない」
と決めて、傷つかずに済んだ。
※ホントは言われた瞬間は傷ついた( ;∀;)

誰かの言葉に傷つくか傷つかないか、
決めるのもまた自分だ。

「言葉」に傷つくこともあるけれど
「言葉」に癒されることもある。

でも私達が本当に受け取りたいのは
「相手の本音」とか「想い」であって、
言葉についてる「イメージ」の方ではない。

20代の頃は、
「愛」って言葉に無性に憧れて
その言葉に色んなイメージをくっつけては
「それが聞けたら安心できる」と信じてたけど
よくよく考えてみれば
言われることが嬉しいんじゃなくて、
そう思ってくれることが嬉しいはずなのだ。

愛の言葉を聞いても違和感だらけだったのに
言葉の魔力の方に惹きつけられてた私は
相手を本当には見ていなかったのだろう。

言葉は「符号」に過ぎないが
言葉のイメージが持つ威力は絶大である。

言葉が相手を通り越してしまわないよう、
自分の狭い世界に押し込めてしまわないよう、
自分の中にある正しさに固執せず
「相手」と意思疎通を図る意識を持ちたい。

そしたらきっと、
必要以上に傷ついたり傷つけたりすることも
相手に敵意を持ったり自分を責めたりすることも
ずっとずっと減るはずだ。


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