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青森に心掴まれて。(青森旅行記1日目)2023.08.08

1日目(8月8日)

朝4時起床。眠気を堪えて新大阪に向かう。6時台の新幹線にまず乗り東京に向かい、9:08東京発の東北新幹線で七戸十和田を目指す。僕にとっての初めての東北の旅だ。
東北新幹線は満席で、三列シートの真ん中なので落ち着かない。本を読んだり眠ったりしながら約6時間の移動時間を過ごす。新幹線が東北に差し掛かり、福島県や岩手県のあたりを通るとき、右側の窓の向こうに震災の被害が大きかった地域があるのだと思った。12:14に七戸十和田に着く。

初めて東北に降り立ったという感慨に浸る間もなくバスに乗り換える。外に出るとジリジリと暑い。東北とはいえ暑さは変わらない。
バスに乗り間違えそうになるが、十和田市行きのバスに無事乗る。揺られながらくどうれいん『桃を煮るひと』を読んでいたが、車窓からの景色を見ようと眺める。しばらく乗るとバスは十和田市現代美術館に着く。

この旅の同行者であり青森県出身の、山谷さん、中村さんとの合流まで時間があるのでスーパーまで歩いて時間を過ごす。POWERS Uというスーパーを歩いていると、青森のものが並んでいてついつい旅の始まりなのに買い物をしてしまう。「青天の霹靂」という米のパックと、ニンニクを使ったタレに、「なかよし」という珍味を購入する。

当たり前のようにホヤの並ぶスーパー

14時頃に2人と合理して十和田の「食堂いずみ」に入る。青森名物だという「ざる中華」とチャーハンのセット。しみじみ美味い。

食べ終わってからタンメンや、名物のバラ焼きも食べたかったなーと思う。しっかり食事を取ったので現代美術館に戻る。
まずは筒 | tsu-tsuさんという方の展示からスタートする。筒 | tsu-tsuさんは山谷さんと中村さんの知り合いだという。ガチャガチャを回して出てきたMP3プレーヤーの音声に従って歩く。

筒| tsu-tsu は、「実在の人物を取材し、演じる」という一連の行為を「ドキュメンタリーアクティング」と名付け、実践しています。「演じている瞬間」だけでなく、取材、役作りや稽古といった、作家が他者になろうとする過程が可能な限り公開されます。
「地上」というタイトルは、自身が生まれ育った土地以外で初めて演じる行為に向き合った作家が、十和田市のまちを「歩くことしかできなかった」実感を表しています。また、取材を続けるなかで、この地に暮らす人々と、美術館から space に向かう観光客の導線が同じでありながら、両者が交わることがないという実態が浮かび上がりました。「2 つの地上があり、その関係性を結び直す」ということも本展のテーマです。

上記サイトより引用

「実在の人物を取材し、演じる」という「ドキュメンタリーアクティング」の手法に従って音声は流れる。十和田に住む人たちの声、そこには美術館がある街の、住む人と訪れる人の微妙な乖離とを描き出す。しかしそこに暮らすことでしか語り得ない言葉はまさしく一回性のもので、放っておけば失われてしまうものである。取材の音声の途中で道案内が入る。やがて参加者は美術館を「ハッピー」というスナックの二階へ誘われる。spaceという十和田市現代美術館のスペースだ。

音声によると十和田はスナック発祥の地らしい
建物がくり抜かれた形でspaceは存在する

階段を上がると、白を基調とした部屋に、筒 | tsu-tsuさんの展示が広がっている。それは音声で聞いた語りの台本だった。それとともに壁の向こうから呼ぶような叩く音と、語りの音声とが響いている。特異な空間だ。
さらにそこからしばらく歩くと民家のような(というより民家だ)場所にたどり着く。そこで筒 | tsu-tsuさんが「ドキュメンタリーアクティング」の稽古をしている。庭から縁側の先を見ていると、部屋の中でゆらゆらと動く人影がある。どうやら庭に響く言葉と、その人影の口元の動きとが重なっていることに気づき、これが「ドキュメンタリーアクティング」なのだと気づく。我々は庭から、一切干渉することなくその語りに耳を傾ける。ジリジリと暑い庭の、脚に蠅がまとわりつくその場所で耳を傾ける。

あとで山谷さんから聞くには、筒 | tsu-tsuさんは取材した語りを何度も何度も繰り返し「ドキュメンタリーアクティング」する。その一回一回は語られている内容は同じでもまったく質の異なるものであると。語りの一回性、というものは岸政彦の生活史が用いているワンショットサーベイに近いような感じがした(しかし、ドキュメンタリーアクティングの繰り返す、という手法が生み出す前後との文脈の差異はワンショットサーベイには生み出せないものであるとは思う)。
美術館に向かう道中に筒 | tsu-tsuさんが追いかけてきてくださって、しばし立ち話をする。
観光客として来た自分の視線と、この街で暮らす人々の視線との差異。そして観光客として見ることのある種の後ろめたさと越境不可能性に思いを馳せる。

美術館に戻り作品を見る。企画展の劉建華の展示は陶器を使った大々的な展示。そのフラジャイルな感じと、描かれるもののエモーショナルとの調和が良かった。

そこからは常設展を回る。個人的にはずっと見たいと願っていた、塩田千春の作品が見られたので大感動だ。

十分展示を堪能し、それからコンビニでアイスを買って涼を取ってからタクシーで駅へ。七戸十和田から八戸への移動。一駅なので数分で着く。そこからタクシーで移動し、今回の宿のドーミーインに到着する。そこで一旦休憩。各自の部屋でシャワーを浴び、体勢を整えて夜の街に繰り出す。

青森名産の「みずおひたし」
絶品のほや
粒が大きすぎるバイ貝
青森名産のぬかつかきゅうり
三日間虜になるヒラガニ
青森名産として名高いイカ刺し。肝がついているのが新鮮な証拠。
カワハギ。もちろん肝つきである。

八戸市内は街中にすべてが密集しており、当然飲み屋も集まっている。まず我々が入ったのが「南部もぐり」という居酒屋。「もぐり」とは潜水のことを指しているらしい。
やってくる料理がたまらない。「みずおひたし」に「ぬかつかきゅうり」は地元の味。さっぱりとする美味さ。そして一番驚いた「ほや」だが、正直癖のある味で「珍味」と呼ばれるそれはあまり得意でなかったが、八戸で食べる「ほや」は全く別の食べ物。鮮烈な味が口の中を駆け抜けていき、最後にふんわりと特有の海水のような香りが鼻を抜けていく。
また、肝と一緒に食べたイカ刺しとカワハギ(カワハギに関しては全員が感動する味)。そしてこの度で結果的に何度も食べることになるヒラガニ。調子に乗った我々は、ヒラガニの甲羅に日本酒を注ぎぐっと飲む。罪深い美味さ。当然日本酒は八戸の名酒「陸奥八仙」だ。

ほろ酔いの我々は二軒目の「ばんや」に流れる。八戸市内で昔の名残を残す名酒場だ。

ここでも我々は日本酒を飲み(恐ろしく大きいお猪口で提供された)、ホヤを食べ、そしてウニを食す。もう、贅沢品であるということを忘れるくらいに食べて、飲む。「ばんや」がまた雰囲気の良い酒場でついつい飲み過ぎてしまう。

だいぶヘロヘロになったが三軒目へ。八戸の宝とも言うべきバー「洋酒喫茶プリンス」へ。

「プリンス」は横丁の中にある。八戸は横丁が発展していて、そのなかで「プリンス」は長年輝きを放っている。店内に入ると薄暗い店内にぼうっと灯る照明、そして天井に張り巡らされた名刺に目を奪われる。店内にはラズウェル細木先生のカレンダーもある(マスターとラズウェル細木先生につきあいがあるらしい)。
この街の人間国宝的なマスターに従ってカクテルを作って頂く。それが完成すると写真を撮りやすいようにマスターが懐中電灯で照らしてくれるというホスピタリティつき。八戸の良さをぐっと改めて噛み締めながら飲む。これだけ酔っても迎え入れてくださるマスターに感謝。僭越ながらマスターと写真を撮らせて頂く。

帰ってドーミーインの夜泣きそば。味の記憶も朧げなまま各自部屋に帰る。僕もすぐに布団に倒れ込んで眠る。

青森に一気に心掴まれた夜だった。

2日目に続く


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