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名前を正確に発音する難しさ

 私はアメリカの公立高校で臨時教員をしている。休んだ正規教師の代行で授業監督を行うのが主な仕事なため、その日によって行く高校も、担当する教科もニーズも異なる。一回一回が初めてのクラスで、想定外のハプニングが多々起こる。中でも、一番緊張するのが、出席簿に書かれた名前を読み上げ、出欠を確認する作業である。日本だとしても、名前は漢字の読み方が様々で、当て字やキラキラネームも最近は多いと聞くので、おそらく大変だと思う。

 なぜ生徒の名前を呼び上げるのが大変なのか。

 アメリカの典型的な名前は、発音できるので問題ない。しかし現実には、姓名ともに読みやすいことは滅多にない。これがアメリカ社会の多様性の象徴だが、親の出身国や文化、ルーツがさまざまであるため、子どもである生徒の名前も実にいろいろなのだ。インド系、中国系、香港系、韓国系、ヴェトナム系、ラテン・アメリカ系、東欧系、中東系、アフリカ系などなど、国や地域によって、本当に名前はいろいろだ。とてつもなく長い姓名を持つ生徒もいて、どこで息継ぎしたらいいのか困ることもある。どこにアクセントをつけて発音したらいいのか。発音が若干違っても、アクセントの位置を間違えなければ認識してもらえることが多い。

 そんな時、近くに座る生徒に訊いて読み方を教えてもらうが、それも不十分なのが現実だ。なぜなら日本と違ってアメリカの場合、完全に個々の生徒の裁量(学力と興味)で科目選択をするため、全ての時間割が同じになることはあり得ないのだ。日本のようなクラス分けなど中学校以降は存在しないのがアメリカなのだ。9年生(日本では中学3年生)と12年生(高校3年生)が同じ授業を取ることもよくある。そのため、新学年が始まって3カ月近く経った今でも、隣の席に座っている仲間の名前はうろ覚えということが多々ある。また、登録している名前と異なる名を使う生徒もいる。本来の名前から派生したニックネームならわかりやすいが、ジェンダーで難しい問題を抱え、学校登録した名前とは全く別の名前で呼んで欲しい場合もあり、生徒からそうした要望を受けた場合、間違いなく対応しなければならない。

 そんな私の名前も、日本人としてはありふれているが、彼らにはわかりにくく、一回で覚えてもらえたことは一度もない。そういう悲しい思いもあり、わが娘が生まれた時、日本の名前でも、簡単で短く、わかりやすい名前を付けたつもりだった。が、アラビア文化圏にも同じ名前があり、また別の言語では、全く異なる意味の単語になるらしく、昔は驚いたものだ。

 こうした理由から、名前を正確に発音するのは難しいと、日々感じるのである。

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