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《ふたりごと》2019.4.6(sut)井之頭公園

遠くに喧騒を聞きながら、人の少ない場所を選んで歩いた。腰を下ろしたのは、背後のトイレだけが照明のような少しばかりさびしい場所だ。木々の隙間から見えるマルイの赤い光がどこか退廃的でそそった。
うすあかるい夜の闇に切り絵のような針葉樹がかかっている。めおとのような鴨が二羽、こちらへやってきて何を求めるわけもなく去っていく。足元だけを照らす遠くの橋が水面でもキラキラ光っていた。
ビニル袋の中で揺られたコカ・コーラがはじけるのにあわてたり、入れ替わりの激しいとなりの男女に気を取られたり、藤棚の湿った木の匂いについて話したりした。

あ、遠くで合唱が聞こえる。私たちは桜を見ていなかった。

ー喧騒をみている

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