怒りと愛、表と裏。

『スリー・ビルボード』をみた。

ゴールデングローブ賞をはじめ、各国の賞を総なめにし、3月のアカデミー賞も主要6部門7ノミネート。アカデミーノミネート作は、受賞が決まってから日本公開になるというのが慣例だが、今作はめずらしく配給側の「早く観て!」「2/1(映画の日だし)に観て!」と、前のめりな配慮を感じ、なんの情報もいれずに映画館へ向かった。

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観賞後。わたしは「あたたかさと希望があった」とアップルジュースを爽やかに飲み干したが、一緒に観た優しくて繊細な彼氏は「悲しい…悲しすぎる…」と涙を拭いながらカフェラテと鼻水をすすっていた。

誰のどのシーンに、心を動かされ、また囚われるか、観る側に委ねられた余白の優秀な作品といえる。圧倒的な脚本力。

どこかで「クライムサスペンス」と評されているのを見かけたが、クライムサスペンス、ではないと思う。どのジャンルに当てはめても足りない。丁寧に丁寧に観察し描写されたドキュメンタリーのようでもあったし、3人の人間の怒りと愛、表と裏の話でもあった。

物語は、娘をレイプされた上に焼き殺された母親が、事件がいっこうに解決しないことに業を煮やして3つの大きな看板広告を出すことから動き出す。

アメリカ、ミズーリ州エビング。ド田舎のちいさな町。「警官は黒人をいじめるのに忙しい」から娘の事件が解決しない、なんて台詞が出てくるような、アメリカの悪い部分全部乗せ、みたいな粗野な町。

広告を出した母ミルドレッド、広告上で名指しで批判された警察署長ウィロビー、署長を妄信的に崇拝している教養ゼロの暴力警官ディクソン

3つの看板は、この3人のメタファーになっているという。看板には広告面と、その裏がある。人間もまた、表と裏があり、、、と言いたいけれど、そんな単純な展開は無い。掴んだと思ったらすり抜ける、そんな予想外の展開しか訪れない。そこがまた、人間っぽい。

人間てそうだね、誰かのたった一言で変われる。真っ暗だと思っていたところに、小さな灯りがあることに気付ける。

この作品では、関わる人は同じなんだけど、関係性が前半と後半でガラっと変わるのが象徴的に描かれている。その変化が大きければ大きいほどその人の心の中で起こった出来事の大きさを慮ることになり、心が震える。その出来事を「悲しい」と受け取ることもできるし、立ち上がるための起爆剤となって「良かった」と受け取るかは人それぞれで、そのどちらでも良いのである。

そういった意味で、この作品で描かれているモノを、すこし雑に言うと「絶望した人の日常」、とも言えるかもしれない。絶望した人にも朝は訪れ、こなすべき仕事があり、子供の面倒をみなければならなかったりする。イラだちや、よろこび、ユーモアがある。この日常に潜む心の機微を丁寧に描き、最高のキャストによって演じられたことが、感じたことのない観賞後感を産み、世界中で称賛されている所以なのだろう。

話は若干逸れる。冒頭で「アカデミー賞主要6部門7ノミネート」と書いたが、助演男優賞に1つの作品から異例の2名ノミネートとなっている。署長を演じたウディ・ハレルソンと、暴力バカ警官を演じたサム・ロックウェル。ふたりとも大好きな俳優だが、サム・ロックウェルはチャーリーズエンジェルとグリーンマイルの時のサイコパス演技が大好きすぎて一時期ハマっていた時代があり、個人的に超応援している。今作でのディクソン役はサム・ロックウェル史上最高の演技で胸を打たれた。母親との関係性、家庭の状況など、ディクソンがああなってしまった背景を描くだけでも2時間作品撮れるはず、という複雑な役どころだった。バカでクズでどうしようもないのだけれど、チキチータを聴く彼を観て欲しい。やはり憎めないんだ。憎み切れないクズを演じたら世界一なんだ。彼はいつかやってくれる…!と思っていたので、エンドロールで名前が出たときに、涙があふれてしまった。…偏愛語りが長くなりました。話を戻そう。

ストーリーのエンド。良いです。とてもよいエンディング。好きだった。

ふたりが会話しているシーンで終わるけれど、あの会話がすべて。


起承転結にまとまった人生なんて無い。
死ぬまで途中。
考えながら進めばいい。

わたしは、人間が人間と関わることで得られる、優しさや、感動や、希望、強さ、そんな前向きな変化のメッセージを受け取った。

自分の中からどんな感想が湧き出るのか、そんな自分観察をしに劇場へ行ってみてはどうだろうか。


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asami.m

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