悪ふざけでしか表現できない愛もある。

『ありがとう、トニ・エルドマン』という映画を観た。

よく出てるポスターはコレ↓で、え?ナニコレ?どうなってるの??と、さっぱり内容が想像つかないまま、観た。

父と娘の話なのだが、娘が30代中盤、ちょうど私と同じくらいの年齢で、感情移入せずにはいられない事態発生。苦しかった…。

ストーリーは、この父親がどれだけ悪ふざけが過ぎるオッサンなのかを描写するシーンから始まる。(うわうわ…迷惑なオッサンだな…面倒だわぁ、関わりたくないわぁ…)

このちょっとめんどくさい父親ヴィンフリートが、ふだんどのような生活をしているのか、多少ウザいけど、心根の優しい人物であるのか、父親目線で描かれていたドイツの生活は、久々に地元に戻ってきた娘と再会すると、娘目線に切り替わると同時に、娘が暮らすブカレストの描写に移る。

父親とは対照的に、自分のキャリアの為に「人間らしさ」を犠牲にして働く娘イネス。そこにね、来るんですわ。連絡も無く来るんですわ。父親が。しかも職場に。(うんざり顔)

仕事で大事な局面に立たされている時期に、悪ふざけ連続の父親がやってきて、オフもプライベートも仕事上の人間関係に時間を割きつつ、父親のことも可哀想だから観光に連れてゆき…とか、娘のやってること全部に納得する。「しょうがないじゃない」と言いつつ、「これが自分のしたいことなの」というダブルスタンダード。頼むから、邪魔しないでよ、お父さん。一句詠みたくなるレベルで共感する。

すったもんだの末、ほぼ厄介払いの状態で週末の父親襲来を片付けた後に、訪れた悪夢、トニ・エルドマン。誰って?変装した父親だ。帰ったはずの父親は、悪ふざけのトップギア入れて、娘の生活すべてに干渉するために帰らなかった。なぜか。


父親は、娘を信じていたからだ。


そのあまりの神出鬼没なストーカーっぷりに、「異常だ」と罵られ、キレられ、殴られするのだが、そのたびに「心配なんだ」と何度も口にしていた。心配からくる過干渉なんだ、という言い訳なのだが、それってたぶん、父親だけは、娘が正しいと信じているものが、間違いだと気づくと信じていたのだと思う。

(イネス!!後ろーー!!!笑)何度も何度も現れるトニ・エルドマンに、心底ウザい!!と思っていたのだが、なぜか次第に笑えてくる。何度突き放されても、ふざけながら関わることを決してやめない。イネスが全く笑えない事態でも、絶対やめない。マジでやめてあげて!と思う場面でも容赦なくふざける。それって、相当愛情深くないとできないことだと思う。

その愛情が鉄仮面イネスの心に、少しずつ少しずつ届いて、人間らしさを取り戻して親子関係も改善し…という展開にはならず、イネスは派手にぶっ壊れる。そこはね、親子なんだと思う。遺伝子の影響を感じた。

自分が「大事」だと思って信じていたものたちが、自分が本当に大事にしたいものでは無いって気づいたら、誰だって「私、バカみたい」ってなる。そういった意味でイネスは一度壊れた。その様は本当に観ていて苦しかった。痛々しかった。イネスと同じような人は世の中にたっくさん居ると思う。

気付かせてくれてありがとう、だから「ありがとう、トニ・エルドマン」という邦題なんだろうけれど、ラストシーンのイネスの表情からは、ありがとうという感謝の気持ちというよりも、諦めることで自由になった安堵感のようなものを感じた。


降伏で幸福。



自分が今、手放したくないと思っているものは、本当に大事にしたいものだろうか、そんなことを考えるきっかけになる作品だった。

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コメント2件

麻美さーん!私もこれ見ましたー!感想早よ書きたいー!と思いつつ、全然追いつかなくて。私、イネスがホイットニーになったところでホントに泣いてしまって。すっごい良い映画ですよね。ありがとう!トニ・エルドマン!ですよね。多分この映画、私の2017年ベスト10に入る予定で。それくらい良かったってことを早く書きたいんですが、麻美さんの感想を読んで、ウンウン頷いておりました。多分イネスは、父に対して、感謝より諦観の念で決心した部分もあるんだなと思いました。
つぶまるさん☆わーい!つぶまるさんも激しく共感しそうと思ってましたー!わたしもホイットニーで泣きました。クラブのシーンも辛かった…!!マジで迷惑なんだけど、コレできる人居ないな…ってゆう尊敬が生まれますよね!!
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