怒りという感情。

伊藤詩織さんの著書『Black Box』を読んだ。

以前から主にネットで、ニュースなどは読んでいた。

事件そのものは、ハラワタが煮えくり返る内容だし、もし自分が、自分のまわりの大切な人が同じ目にあったときに、いったどうすることができるだろうか、と深く考えさせられた。

この本を出すにあたり、相当に辛い思いをしたであろう伊藤詩織さんには、尊敬の念しかないし、その強さは、たくさんの人に勇気を与えたと思う。

本の内容は、驚くほど感情が排除された、事実のレポートのようだった。もちろん、被害者として、ジャーナリストとして、強く訴える部分は意思の強さが感じられるし、恐怖や痛み、精神的なストレスについても抑えた表現をしているが、感じずにはいられないものがある。

そしてなにより驚くのは、伊藤さんが強く訴えている内容が、ごく普通の、当然で当たり前な内容、ということ。偏って極端な意見でもなんでもなく、フラットで純粋な、「どうして?」という内容なのだ。

まず、伊藤さんが伝えたい事として「はじめに」で次のように書かれている。

性暴力は、誰にも経験してほしくない恐怖と痛みを人にもたらす。そしてそれは長い間、その人を苦しめる。なぜ、私がレイプされたのか?そこに明確な答えはない。私は何度も自分を責めた。(中略)この想像もしなかった出来事に対し、どう対処すればいいのか、最初はまったくわからなかった。しかし、今なら何が必要かわかる。そしてこれを実現するには、性暴力に関する社会的、法的システムを、同時に変えなければいけない。そのためにはまず第一に、被害についてオープンに話せる社会にしたい。(中略)私が本当に話したいのは、「起こったこと」そのもではない。「どう起こらないようにするか」「起こってしまった場合、どうしたら助けを得ることができるのか」という未来の話である。

「レイプ被害にあって、手記を出版」と聞いて、事件の内容を赤裸々に広めようというゴシップ的な内容を想像している人は、その考えは間違っているので、すぐに本屋に行って買って正座して読んだらいい。Kindleでも買えるから、家で正座でも構わない。伊藤さんが訴えていることは、世直しなのだから。すぐに購買という形で、活動を応援してあげたほうがいい。


また、私が本のなかで、一番心を動かされたのは、「怒りの感情が湧かない」と書かれていた部分だ。

「私は山口氏に対して、怒りや憎悪の感情はまったくありません」と言うと、周囲からさんざん怒られた。(中略)もちろん私は、日本の正しい司法制度のもとで彼が裁かれるべきであると考えている。しかし、自分の感情に嘘はつけない。実際に怒りという感情は、心の中を探しても一切見つからないのだ。

私は、この部分を読んで、なんて自分の感情に冷静で、客観視ができて正直な人なんだ…!と伊藤さんの人柄に好感が持てた。

誰かに対して、怒り、恨み、妬み、などのネガティブな感情が湧いているとき、必然的にその感情の対象者をずっと考えることになる。これって、負のエネルギーなんだけど、ものすごいエネルギーで。実は、ポジティブな感情、たとえば誰かに対する猛烈な恋心と、表裏や鏡の構造で、似ているんじゃないかと思う。種類は違うんだけど、同じエネルギー量というか。対象者が居て、その人へ向けての猛烈なエネルギーという点で、似ている気がする。

怒り、妬み、恨みで誰かを想うという感情は、その人へ若干の期待があるのだと思う。もしかしたら自分の期待に添うかもしれない…という期待。もしくは、そうなりたいのになれない、という嫉妬か。

私自身、振り返ってみても、心の底から嫌いだ、ムリだ、と思った人に対しては、感情は「無」になる。考えるエネルギーが湧かない。脳内から排除。脳が拒否。

伊藤さんが加害者に対して「怒りの感情が湧かない」というのは、そいつと似た風貌の人をみただけてパニックアタックになったり、氏名の文字のカタチをみただけで吐き気がしたり、などからもわかるように、そいつの事を考えること自体を拒否する、自己防衛機能なのだと思う。これは、性被害に遭った人を理解する上で、重要な事実だと思う。事件の事がまるでなんでもないような、その人に対して別に怒ってもいないような、そんな様子から、「合意があった」などと判断されてしまっているのだろうが、考える事ができないという状態ゆえの反応であるということを、多くの人が知るべきだと思った。

本の中で、伊藤さんは、警察や検察、司法や、自治体に対して、厳しい口調で怒っている。そこには「変わらなければ、被害者が救われない」という、然るべき役割をもつ機関に対する、強い期待があるのだろう。

すこしでも多くの人がこの本を読んで、世の中が変わることを、私も期待せずにはいられない。

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90

asami.m

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