第一話 引きこもりの英太、ダンスをする

学校行けなくなった僕が、なぜ高校の文化祭でダンスをする事になったんだろう。

中学3年生の時、引きこもりだった僕こと原田英太(はらだ えいた)は高校の体育館の舞台の上で思った。

中学3年生になり、毎日嫌々学校に通っていた僕は夏休み終わり頃から学校に行ったり行かなくなった。

なぜ学校に行かなくなったのかと言うと、クラスに学年を仕切るボス的存在とそれを取り巻くヤンキーがいたからだ。

別にいじめられたりしていたわけではないが、いじられたりバカにされる事はたまにあった。

だが僕が気になったのは中1の時僕の友達がとある事で目をつけられボスはヤンキー達を使い、友達を連れ出し、ボスへ謝罪させられるということがあった。

同じ学年の同級生なのにそんな事をさせるという事が僕にはショックであり、中学校には格差がある事を知らされた。

それ以来僕はそのボスやヤンキー達から目立たないように1年、2年とひっそり生きていた。

それが3年になり主力のそのボスやヤンキー達と同じクラスになり僕はひどく憂鬱だった。

それと僕はとある女子に気持ち悪いと言われていて、その子と通り過ぎるたびに気持ち悪いと言われた。

別に僕は何かした覚えはないのだが、でもその子は僕の事嫌いだったのだろう。

まだ行かなくなった理由はある。

それは英語の先生が怖かったからだ。

6クラス中なぜかうちのクラスだけその怖い先生になり、答えを間違えれば怒り、授業が遅れればチャイムが鳴り休み時間になっても終わらない。

その先生に怒られ間違えた子は泣いたり学校に来なくなってしまった子も何人かいた。今の時代なら大問題だが当時はそんな先生でも誰も口は出さなかった。そういう先生がいても仕方がないとしか思う他なかったのだ。

そして僕はある時思った。

学校行くたくねぇ!!

これだけ理由があれば行かなくていいだろうと当時の自分に言ってやりたいと思うほど僕の中学3年生の生活は最悪だった。

色んな悩みを抱えながらなんとか夏休みまで頑張って登校していたが、いよいよ気持ちに限界が来て僕は部屋で引きこもるか、学校に行ったフリをし、その辺の河川敷や公園で夕方になるまで時間を潰していた。

あの頃はまだスマホや携帯なども無く時間を潰すには兄からもらったウォークマンや少年ジャンプなどを読んで過ごした。

僕は少年ジャンプを読むのが好きで、ジャンプに憧れ自分でも少し漫画を描くくらい好きだった。というか人には恥ずかしくて言えないが漫画家になりたいと思っていた。

ジャンプを読むと色んな主人公が色んな困難と向き合い、仲間と共に成長しながら強くなる、そんなワクワクするジャンプの漫画が大好きだった。

いつも僕は思っていた。漫画の主人公の様に強くなれないのだろうかと。しかし僕は引っ込み思案な性格で背もどちらかというと低い方で、力も強くない。一人で大それた事も出来ない人間だった。

そんな事を考えながら、夕方になると家に帰る。

学校に行きたくない時は家にいたが、親も諦めたのか何も言わなくなった。

次第に学校に行かなくなり生活も昼夜逆転し、僕はよく深夜番組を見ていた。

いつものように夜な夜なチャンネルを回していると、僕はとあるダンスグループを特集する番組を発見し、面白い番組で毎週見るようになった。

そのグループはパニクルーと言い、当時は大阪を拠点に置き活動していたダンスグループだ。

パニクルーのダンスを見ていると不思議とジャンプを読んでいる様なワクワク感があった。

引きこもりの頃はこのパニクルーを番組を見ることが何より楽しみだった。

そして僕は学校に行ったり行かなかったりしてる間に中学校を卒業して、高校生になる。

僕はもう嫌な思いをするなら学校には行きたくなかった。

でも親が高校くらいは通っておけと無理して私立の学校に入れてくれた。

しかしここにはもう僕を苦しめるヤンキーや嫌う女子、嫌な先生などいない、一からのスタートだ。

そう思うと少し気が楽になり高校生活に少し期待感が出てきた。

入学式が終わりクラスに向かう時に何やら廊下が騒がしい。

なんと高校初日から先生と生徒が殴り合っていた。

それを見た時僕は思った。

早く帰りたい!

こんなどうしようもないのがこの物語の主人公の原田英太である。

僕は教室に戻り、色々考えていた。

この学校は僕のようなどうしようもない奴が通えるとこだから、ヤンキー達もいっぱいいるんだ。

もしかしたら中学と同じような、むしろもっとみじめな生活を送る事になるかもしれない。でもそれはもう嫌だった。

だがこの通っている学校は私立だ。私立の学校はお金が高い。だから親の気持ちを無駄にしてはいけない。僕は学校を辞めるわけにはいかない。

じゃあどうやったら生き残れる?何か武器が欲しい。漫画は描けるがそれだけじゃ駄目だ。もっとみんなを認めさせる武器があればどうにかなるかもしれない。

そんな事を考えていると教室の後ろでなんとダンスをしている子がいた。

あれは僕の後ろの席の平松とかいう子だ。あの技は確かパニクルーもやっていたワームというダンスだ。

ダンスか、ダンスをするっていうのはいいかもしれない。僕はマット運動などは好きな方だったので向いているかもしれない。それに手塚治虫先生も色んな事を経験していた方が良い漫画を描けるって言ってたし。

僕もパニクルーのようになれるかもしれないと妄想し、少しワクワクした。

さっそくダンスしていた平松に僕はダンスを教えてくれないかと聞いた。

しかし返ってきた答えはなんでお前みたいなもやしに教えないといけないんだと一蹴されてしまった。

あぁ、やっぱり僕はただのもやしなんだ。僕が向上心を持って変わろうなんて思っちゃいけないんだ。

…とはならず僕は自分でダンスできる方法を探す事にした。

僕を馬鹿にした奴ら今に見とけ!という気持ちだった。

僕は変わりたかった。過去の嫌な思い出を洗い流したかった。ただ僕は楽しく生活がしたいのだ。

とは言っても当時はまだネットもそんなに普及しておらず、携帯も持っていなかった。とにかく情報がないのでどこでダンスをできるかなんてわからない。

放課後とりあえず僕は本屋に行く事にした。

この時代はまだまだ本が元気で情報が欲しかったらテレビか本であった。友達が格闘技の本を買っていたのでもしかしたらと思いダンスの本も探しにきたのであった。

本棚を隅から隅まで探してみる。

ダンス、ダンス、ダンスはないのか。

体操やスポーツ、格闘技など様々なジャンルが並んでおり、た行の本棚を調べた時であった。

なんと、ダンスの本があったのだ!

タイトルはダンススタイルベーシック。ちゃんとストリートダンスっぽい本だ。

ダンスの本でダンスを始めたのは間違いなく世界で僕一人ではないだろうか。

だがこの時の僕にはこの本がとてもとても輝いて見えた。

さっそく家に帰り、近くの駐車場でダンスをしようと本を眺めた。

ダンスの本に載っていたのはブレイク、ロック、ポップ、ヒップホップの四種類のジャンルだった。

ダンスって色々な種類があるんだな。どれからやるか。

僕はすぐに出来そうなロックダンスを覚えることにした。

トゥエルロック。ロックの基本動作らしい。これを繰り返してやる。ダンスの本は写真がコマ撮りで載せられていてYouTubeのダンス動画の様に明確に動きがわかるわけではない。だからコマとコマの間は想像でやるしかなかった。

トゥエル、ロック。トゥエル、ロック。あっているのかわからないがやってみる。

ブレイクもやってみたいので僕は逆立ちの練習もやってみた。

昔体操漫画で逆立ちは肩に力を入れてやるっていうのを見たことがあった。そのアドバイスを思い出し練習に励んだ。

しかしなかなかコツはわからないのでまずはこけても大丈夫なようにこける練習からする事にした。上手にこけるようになれば恐怖心が薄まり、上手に練習できるようになるんじゃないかと思ったのだ。

出来ているかもわからないロックダンスと逆立ちの練習を繰り返す。

そして僕は調子に乗り、本にも載っている芸人のナインティナインの岡村隆史さんが得意とするブレイクダンスのウィンドミルという技を少しやってみる事にした。

肩辺りを使い、全身で回るブレイクダンスといえばコレ、というカッコいい技だ。

本に載っている通りやってみる。肘を横腹につき、もう片方の手は支えとして使い、横向きに頭をつき、斜めに三点倒立するようなチェアーという技の形が最初の型だ。

ここから横腹についてる腕を曲げ肩に受け流す、そうすると僕はわけもわからず体が空の方に向き、世界が回り出した。

もちろんやり方がわからないので失速し、回転は止まってしまった。

腰を打ち、泣きそうなほど痛い。

でもダンスってなんか楽しいかもしれない。

ウィンドミルは難しいのでロックダンスと逆立ちの練習を再び始める事にした。

こうして僕はこれからの高校生活の不安をぬぐうために人生で初めて努力をし、自分の世界を変える為にダンスに励むのであった。

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