第三話 ラジカセを手に入れろ

夏休みに入り、僕はいつも通りダンスをしていた。

ふとある事を思った。

うーん。何か音楽が欲しい。音楽を聞きながらダンスをしてみたい。

音楽なしで踊っていたというのは普通ではありえないのだが、僕はダンスの事なんて知らないズブの素人なのだ。だからダンスには音楽が絶対に必要という感覚はなかった。

いつも一人夜の駐車場で踊ってて少し寂しいし曲を流したいなぁ。音楽。どうしたものか。

音楽を聞くには携帯できるラジカセが必要だ。しかし僕は外に持ち出せるラジカセを持っていなかった。

この頃はMDとCDが主流だったがカセットテープもまだ使われていた。MDラジカセは高いのでカセットテープのラジカセでいいから欲しかった。

よし、困った時は友達だ。いらないラジカセを持っている人がいるかもしれない。そう思い色んな友人に当たってみた…がやはりダメだった。

幼稚園から中学まで同じ学校だった水木の家にも訪ねてみた。

水木も残念ながらラジカセは持っていなかった。

だが水木はバイトをしていたので、僕もバイトしないかと誘ってくれた。

バイトをすればお金がもらえる。お金があったらラジカセが手に入る。

せっかくの夏休み、バイトをすることにした。

僕の高校はバイトは禁止だったのだが、コッソリやってみるというのもなんか楽しそうだなという思いもあった。

こうして水木に誘われたバイト先の面接に行き、無事採用され働く事になった。

僕が初めて働く事になったバイトは冷凍食品の仕分けだった。

色んな店舗の台車が並べており、各店舗が必要としている数の冷凍食品を台車の中に入れ、それを繰り返すというものだった。

順調にこなしていると思ったが、社員も厳しくもたついているとすぐにクビにするぞと脅かされた。

週4で1日たったの4時間だったが僕はヘトヘトだった。

しかし僕はラジカセが欲しかったので頑張って働いた。

一緒に働いている社員は厳しかったけど、タイムカードを押す時にいる事務の社員さんはお疲れさんと声をかけてくれ優しかった。

僕はバイトに行き、クビにするぞと言われ頑張って働き、バイトがない日はダンスをする。こんな日々が続いた。

頑張った甲斐があり、僕は給料をもらった。初めての給料はあまり多くなかったが、ラジカセを買うには充分な金額であった。

僕は電気量販店に行き、ラジカセを眺めた。

値段が高くなれば機能も多くなるが、サイズも大きくなる。

色々見て悩んだ結果、単3電池4本で動く青くて小さいラジカセを選んだ。

やった!いよいよラジカセを手に入れたぞ!

僕は喜んだ。

こうしていつも通り駐車場でダンスをしに行き、ラジカセを準備した。

しかしふと気付いた。

音楽を流せるラジカセを手に入れたが流す音楽がない。

……………。

とりあえず当時流行っていたDragon Ashのアルバムをテープに録音しそれをひたすら流す事にした。

何度も言いますが当時はネットも普及していなくて、情報がなかったのでどんな曲でダンスするかもわからなかったんです、はい。

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