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Silver Story #49

お母様の準備が整う間の時間つぶしにカメラのデータを見ていた。日本では、いつもいつもやる行為なのにここでは、そんなモノになり下がるとは自分んでも驚きだ。

今、このカメラの中に私の一生に一度の素晴らしい体験が詰まっている。長年カメラマンとしていろいろ写真に収めてきたが、こんなにも自分と関わりが強い写真は今までなかったし、もしかしたらこれからもないのかもしれない。

一枚一枚送っていくとそれはもうだいぶ前の時間のように見えていた。ほんの数日前のことなのに、
本当に信じられないくらい時間の感覚が狂っているのを感じながら写真を送っていった。

送りながらハッと手を止めて見てしまう写真があった。
それは、バリの風景の中にいるお母様の写真。
祀りの前に二人でバリの山々や棚田を見ながらいろいろ話した時の写真だった。
バリの風景にお母様の笑顔は、本当に美しく、威風の念さえ感じさせるもので絶対に、そして少しでも早く光一さんに見せてあげたかった。
これを見たら光一さんは、どんな顔をするだろう。

ちゃんと形にして光一さんに渡し、そして彼女達の存在やこれを撮った経緯や、とにかくバリでの事全てを話そう。

そんなことを考えているとサリナちゃんを送って来たユキさんが戻ってきた。

「あ。ユキさん。お帰りなさい。」
「タダイマ。」
ユキさんが日本語で返してきたから嬉しかった。
「ユキさん。 日本行きたいですか?」

少し考えてユキさんはにっこり微笑みうなづいた。

その仕草で私は、もう何も聞かなくていいのだと、思った。それくらいユキさんの瞳はまっすぐでキラキラとしていて、本当に素敵な笑顔だったから。

ユキさんはお母様に戻ったことを告げると私のそばに来て私を車へ連れて行く手助けをしてくれるようだ。

「サヤ、サア、イキマショウ。アシ ユックリネ。」

「はい。ありがとう。テリマカシー。

「サマ サマ。」

ああ。もうすぐバリの言葉ともお別れなんだ。お母様が日本語をほぼほぼ喋れるのでほとんど不自由はなかったから、本当に色々なことを深く知ることができたし、感じることができた。
お母様には本当に感謝している。
もちろん。ユキさんが一番なんだが、私を見つけてくれたここの人皆さんに心から感謝している。

もう二度と同じ体験はしないだろう。初めて来たバリで初めて出会った人たちが、こんなにも近いなんて。

ユキさんから車に誘導されながらこの家の調度品や色や匂い、光と影など隅々まで見ながらゆっくりと離れてくことにした。

もう一度荷物を取りに戻ってくるけど、ここを去る覚悟というか、儀式のような思いでゆっくりゆっくり歩いて行った。
横にいるユキさんも下向き加減でゆっくり進んでくれ、その横顔は、初めてあったあの時のような優しい微笑みだった。

#小説 #バリ #バリの話

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